一緒に助かるために

“肝心な時に見捨てられない、でも…”

自分も逃げなければいけないが、お年寄りを助けなければ――。 民生委員の米川元司さんは、自力では避難できない2人のお年寄りを車に乗せ、高台に向かった。 避難場所から海を見ると、津波が沖合の防波堤を乗り越えていた。 近所の別のお年寄りのことが頭に浮かんだ米川さん。再び町へと向かった。 お年寄りはすでに避難していたが、津波は、その家の2軒先まで届いていた。 「やみくもに助けに行くと、二次災害で逆に迷惑をかけてしまう」

米川元司さん(民生委員)

“他人の命と自分の命、答えは…”

仲間とお年寄りの避難を手伝っていた時に津波に流された、消防団員の村上太さん。 山の斜面の木につかまり助かったが、今度は、水に浸かって助けを求めるおばあさんを見つけた。 救助に向かい、おばあさんの両手を握った村上さん。ところが波が引き始めたため、その手を離してしまった。 おばあさんは、流されたものの、木に引っかかり無事だった。 「他人の命を守らなきゃいけないけど、でも自分の命、結局一番じゃないか。答えが出ないんじゃないか」

村上太さん(消防団員)

避難を拒むお年寄り

素早く動くことが難しい7人のお年寄りを助けようと奔走した民生委員の小林学さん。 しかし、1人の女性が、「死んでもいい」とすぐには避難に応じなかった。 「水に入って苦しんで死ぬより、暖かいところで死んだほうがいいのでは?」と説得。最後に訪ねたのは車いすの男性。 自宅に戻って持ってきた車に男性を乗せて避難した。その直後に津波が来襲。 「(助けられるのは)両手に抱えられる2人くらい。自分の命を守ってはじめて次の人を助けられる」

小林学さん(民生委員)

事前にケアする人を決めていた

すし店を経営する阿部和明さんの町内会では、災害時に高齢者の避難を支援することをあらかじめ決めていた。 地震直後、阿部さんは寝たきりの女性の家に駆けつけた。 ところが女性は避難に応じず、集まってきた近所の人たちと20分近く説得。 最後は、布団ごと女性を抱えて車の中へ運び込み、避難させた。 「何かあったら、おばあさんのところに行くのだという話が常にあった。常に班ごとに話し合って、何かあったらみんなで声を掛け合うことが大事」

阿部和明さん(町内会)

課題は・・・

 東日本大震災では、多くの消防団員や民生委員の方が犠牲になりました。 役職についていなくても、善意から地域のお年寄りや障害のある人たちなどを助けようとしていて亡くなった方もいます。 岩手県大槌町では、津波到達予想時刻の15分前には消防団が浸水区域から退避するというルールを設けました。 住民の命と手助けする人の命。その両方を守るための模索が続いています。

考えるポイント

1.事前に避難方法を決める
自力で避難することが難しい在宅の高齢者、障害者は、必ず誰かの助けが必要です。内閣府のアンケート結果では、支援者は家族、近所、福祉関係者の順番でした。したがって、本人と支援者が話し合ったり、訓練をしたりすることで、本人が避難支援を拒否せず、支援者に協力するように意識付けを行います。今後は、介護保険のケアプランや障害者総合支援法の個別支援計画に、平常時のことだけでなく、災害時の避難についても記載することが望ましいといえます。
内閣府アンケート結果
2.支援者の支援時間を決める
支援者は絶対に命を落としてはなりません。しかし、支援者は津波が到達するぎりぎりまで、できるだけ助けようと行動します。このため、現場にいる支援者だけの判断に任せては危ないのです。津波の高さ、予想到達時間などを事前に学習し、安全に支援活動ができる時間を把握しておきます。ただし、想定外に高く、速い津波が来ることも考えられるので、できるだけ安全な活動時間とします。
3.車避難をできる人を決める
津波の時、避難に車を使わないのが原則です。しかし、高齢者、障害者で足の不自由な方は、車で避難したほうが良い場合もあります。地域で話し合って、車での避難が必要な方と一緒なら車の使用を認める一方、車でなくても十分に避難が間に合う人は車で避難しないなどのルールを決めておきます。ただし、訓練をして渋滞が発生しないことを十分確認しておく必要があります。

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