クローズアップ現代

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2018年6月12日(火)
日本の中の“38度線” ~在日コリアン 2ヶ月の記録~

日本の中の“38度線” ~在日コリアン 2ヶ月の記録~

史上初の米朝首脳会談。ことし4月、南北首脳会談も行われ、分断されてきた朝鮮半島が融和へ向けて、大きな転換点を迎えている。それを在日社会の人たちはどう受け止めているのか。南北首脳会談の直前から、愛知県の朝鮮学校や卒業生たちに密着。激変する国際情勢に揺れ動く人たちの姿を記録。国際情勢に翻弄されてきた在日コリアンの人たちが、米朝会談をどう受け止めるのか。その本音に迫り、日本社会がこの問題をどう考えるのか、スタジオゲストと共にてい談する。

出演者

  • 奥薗秀樹さん (静岡県立大学 准教授)
  • NHK記者
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

米朝首脳会談の日に… 密着 朝鮮学校

「その場所に両首脳が姿を見せました。」

田中:愛知県にある、朝鮮学校です。いま、米朝首脳会談が始まりました。生徒たち拍手をしています。

米朝首脳会談を見つめる朝鮮学校の生徒たち。史上初めての米朝首脳会談。共同声明では、朝鮮半島の完全な非核化や新たな米朝関係を構築するなどとしました。

朝鮮学校の生徒
「涙が出てきそうになりました。忘れられない一日になると思います。」

朝鮮学校の生徒
「正直言って不安はあります。でも期待も大きいです。」

朝鮮半島を巡って激変する国際情勢。分断の歴史に終止符が打たれることになるのか。
私たちは、もう1つの“分断”を抱える在日社会への取材を重ねてきました。

朝鮮学校の生徒
「去年までミサイルばんばん撃っているので、少なからず悪い目で見られているのかな。」

朝鮮学校の生徒
「祖国統一したら、日本との関係も良好になるかなって思います。」

見えない“38度線”で引き裂かれてきた在日コリアンたち。祖国を巡る動きは彼らに何をもたらすのか。2か月の記録です。

日本の中の“38度線” 揺れ動く在日コリアンたち

武田:朝鮮半島の長年にわたる分断は、日本の在日社会にどのような影響を与えているのか。とりわけ、日本で生まれ育ち、日本、韓国、北朝鮮のはざまで未来を作っていく若者たちは、何を感じているんでしょうか。

田中:それを知ることができる現場が、今日(12日)私が行ってきた朝鮮学校です。日本の小学校から大学に相当する朝鮮学校は、全国各地にあります。戦後、朝鮮総連が各地に整備してきたもので、一般科目に加え、ハングルや朝鮮半島の歴史・文化を教えています。

武田:私たちはかねてから朝鮮学校に取材を申し入れていましたが、今年(2018年)4月下旬、南北首脳会談の開催が決まったタイミングでカメラを入れることができました。それから2か月。情勢が変わるたびに揺れ動く生徒や先生の姿を記録しました。

2か月密着 朝鮮学校 日本の中の“分断”

愛知県にある朝鮮学校です。日本の中学・高校に相当します。

私たちが初めてカメラを入れたのは、4月20日。10年半ぶりに開かれた南北首脳会談、その1週間前のことでした。
生徒数は、およそ200人。朝鮮籍は少数で、実は、半数以上は韓国籍。日本に帰化した生徒もいます。この日の英語の授業では、南北を隔てる軍事境界線、いわゆる38度線について教えていました。

教師
「これはパンムンジョム(板門店)。パンムンジョムはどんなところ?」

生徒
「軍事境界線です。」

生徒たちがこの学校に通う大きな理由は、ハングルや民族のルーツを学ぶことができるからだといいます。学校は歴史的に北朝鮮と密接な関係を持ち、教室には今も、故キム・イルソン(金日成)主席と故キム・ジョンイル(金正日)総書記親子の肖像画が掲げられています。

拉致問題や核・ミサイル開発などがニュースになるたび、学校も厳しい批判にさらされてきました。

朝鮮学校の生徒
「去年までミサイルばんばん撃って、核を持っていて怖い国だと思われているので、そこの国の学校で勉強している僕たちも、少なからず悪い目で見られているのかな。」

この学校では、これまで拉致の問題などについて授業で触れることはほとんどなかったといいます。

「北朝鮮系の朝鮮学校の先生として、拉致をどうみるのか、どう教えるのか。」

朝鮮学校の先生
「拉致問題にしても核問題にしても、しっかりと見つめ直す姿勢といいますか、そういった部分をこれから持っていかないといけないのかなと。」

南北首脳会談の2日後。朝鮮学校には、卒業生や在校生など、韓国籍や朝鮮籍の若者たち、およそ60人が集まりました。

南北首脳会談では、休戦状態にある朝鮮戦争を終わらせ、平和協定の締結に向けて努力していくことが宣言されました。分断されてきた朝鮮半島が融和へと向かう兆しは、在日社会にも影響を与えていました。

「私たちは、ひとつ!」

在日コリアンの中には、北朝鮮と関係が深い朝鮮学校に距離を置いてきた人も少なくありません。参加者の中には、こうした南北交流の場に初めて来たという人もいました。

「親にこういう場所に来ることを反対されている子もいるし、そういうのを見るたびに、僕らの中にも分断線を引かれちゃってるなって、物理的なもの以外にも。」

統一が実現したら何をしたいか。それぞれが書くことになりました。ある参加者は、これまでできなかったことを書きました。

朝鮮学校の生徒
「“(朝鮮)学校でKーPOP(韓国の音楽)を楽しむ”と書きました。流すなって言われるので、統一したら流せるんじゃないか。」

この日、偶然隣り合わせになった男女。書いたのは同じ内容でした。

「パンムンジョムの境界線を渡りたいです。『せーの』で渡ります。」

特別永住者など日本に住む韓国籍・朝鮮籍の人は、およそ48万人。在日コリアンの歴史には、祖国の分断が複雑に投影されてきました。こうした人たちは、第2次世界大戦の前後、工場労働者などとして朝鮮半島から日本に移った人や、その子孫です。1950年に始まった朝鮮戦争で、朝鮮半島の分断が決定的になると、在日社会にも大きな影響が及びました。韓国側に立つ組織「在日本大韓民国民団」通称・民団。そして、北朝鮮側に立つ「在日本朝鮮人総連合会」通称・朝鮮総連。冷戦下に生じた対立は、その後も続いていったのです。

民団による朝鮮総連への抗議
「核開発を破棄するよう、呼びかけよう。」

民団は、北朝鮮の核実験や、ミサイルの発射に対しても、朝鮮総連に激しく抗議してきました。組織の間の溝は、今も埋まっていません。

「乾杯!」

そうした中、若者たちの間では南北を越えた交流が。この日は、朝鮮学校で焼き肉パーティーが開かれました。

日ごろ交流のない人たちが集まりました。

朝鮮籍
「統一を市民はすでに待っていますよっていう空気を作れたら。」

韓国籍
「来た!って思いましたよ。」

先月(5月)20日。米朝首脳会談の実施が決まり、期待が高まる中、朝鮮学校の運動会が開かれました。運動会では、朝鮮半島の統一旗が、生徒たちによって掲げられる演目がありました。

この旗は、オリンピックなどの南北統一チームで用いられてきたものです。
旗を持っていた1人、3年生の女子生徒です。父親は朝鮮籍で、母親は韓国籍の在日三世です。

「祖国は北・南どっち?」

在日三世の女子生徒
「統一朝鮮です。」

「統一朝鮮を支えている気になる?」

在日三世の女子生徒
「ちょっと分からないです。」

在日コリアンの中には、南北それぞれに親戚を持つ人もいます。融和に対する受け止めにも温度差がありました。

在日三世
「ああいう会談を見ると鳥肌が立ったし、統一に本当に一歩近づいたんだなって。」

在日一世
「無関心です。こっちに来て、もう70年くらいになる。あの人(キム・ジョンウン(金正恩)委員長)の心は分からないね。何を考えているか分からない。」

南北首脳会談から、およそ1か月後。授業の内容にも変化が起きていました。
現代朝鮮史を教えている、リ・テスさんです。

リさんは、日本生まれの朝鮮籍。大学を出た後、6年間、朝鮮学校で教えています。この日、リさんは朝鮮半島の分断の理由について考える授業を行いました。

リ・テスさん
「冷戦下、社会主義と資本主義がぶつかり、南北の政権ができた。だから私たちはうまくいかない。それが分断の原因だ。」

韓国のニュース
「アメリカの国務長官が北朝鮮を訪問し…」

南北会談の後、リさんは頻繁にインターネットでさまざまな国のニュースを繰り返しチェックしていました。
朝鮮学校の授業は、朝鮮総連に関係する出版社が発行した教科書に沿って行われます。北朝鮮の主義・主張を色濃く反映した内容は、国際社会の一般的な見解と異なることもあり、たびたび批判されてきました。しかし、リさんは自らの判断で授業を行うことも少なくないといいます。この日の現代史の授業は教科書にはない南北会談のニュースに触れていました。

リ・テスさん
「キム・ジョンウン元帥とムン・ジェイン大統領がどこで会いましたか?」

生徒
「パンムンジョム。」

リ・テスさん
「いつ?」

生徒
「4月27日。」

リ・テスさん
「そうだね。」

生徒たちはいろいろな見方を知った上で、南北を巡るニュースをどう受け止めるべきか考えます。

生徒
「無関心では何も変化しないので、関心を持って、新しい情報やニュースに敏感になることです。」

生徒
「統一のために出来ることは、朝鮮半島を取り巻く情勢について、興味を持ってよく学ぶことだと思います。」

リ・テスさん
「希望を持てる動きになってきているので、やっぱり子どもたちにも、できるだけ新しい情報を精査して伝えたい。」

先月25日、朝鮮学校に衝撃が走りました。トランプ大統領から“米朝首脳会談を中止する”という発言が飛び出し、大きく報じられたのです。

朝鮮学校の生徒
「中止なんですか?中止なんですか?知らなかったです。統一に近づければいいなと思っていたんですけど、残念です。」

朝鮮学校の生徒
「会談があったら、話してから国がまた一つになれると思ったけど、中止になったから、ちょっと残念。」

その後、事態はまた一転。米朝会談は再び行われる運びに。取材した2か月の間、朝鮮半島を取り巻く情勢が変わるたび、在日コリアンの若者たちは揺れ動いていました。

朝鮮学校の生徒
「朝鮮学校が日本にあるんですけど、浮いているような気がして、それが祖国統一したら、だんだんなじんでくると思うし、もっと日本との関係も良好になると思います。」

先月末、朝鮮学校の3年生は北朝鮮へ修学旅行に行きました。学校の恒例行事です。私たちは、学校の教員が撮影した修学旅行中の映像を提供されました。旅行の5日目、生徒たちはパンムンジョムを訪れました。目の当たりにしたのは韓国と北朝鮮を分断する38度線。

朝鮮学校の生徒
「分断の象徴というか、またげるくらいのコンクリートで分かれていて、本当に分断されているんだなって、改めて心に刺さりました。」

生徒たちが改めて感じたのは、祖国分断の生々しい現実だったといいます。

朝鮮学校の生徒
「統一を願っているから、統一を願っている気持ちがある中で行ったのに、あまり統一を感じられなかったから、ちょっと悔しいし悲しいなと思います。」

日本の中の“38度線” 米朝首脳会談で何が…

ゲスト 奥薗秀樹さん(静岡県立大学 准教授)

武田:朝鮮半島情勢が専門の奥薗さん。
在日コリアンの人たちも固唾を飲んで見守った今日の米朝会談の意義をどうみる?

奥薗さん:トランプ大統領は、北朝鮮に安全保障を与えることを約束すると。そしてキム・ジョンウン委員長は、朝鮮半島の完全な非核化に向けて努力することを約束すると、書かれているわけですが、肝心の非核化の内容、あるいは段取りについては、目新しいものがないというのも事実だと思いますね。ただ、必ずしも悲観的になることはなくて、2人のトップが今日初めて会って、こういった声明という形で文書をまとめたということだけでも評価すべきであって、これからいよいよスタートだという合意が整ったというプラスの面で評価することもできるんじゃないかと思いますね。

田中:今日の米朝首脳会談での共同声明の内容です。米朝両国は平和と繁栄に向けた願いに基づいて新たな関係を樹立。朝鮮半島に永続的で安定した平和の体制を構築するため、共に努力。パンムンジョム宣言を再確認。北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向けて取り組むことを約束。朝鮮戦争中の遺骨の回収に取り組むなどとなっています。

奥薗さん、けさも朝鮮学校の生徒の多くが、今後の南北統一への期待を口にしていたんですが、今日の共同声明からは、その統一への道筋というものは読み取れるんでしょうか?

奥薗さん:子どもたちが統一というものを夢みることは、痛いほどよく理解できるんですけれども、ただ、統一というのは、一足飛びにできないのが、残念ながら現実だと思います。やはり平和的に統一をしないといけないんですが、その障害となっているのが、核問題であると。それを取り除くための協議がいよいよスタートする段階というのが、現実だと思うんですね。

武田:生徒たちからは北朝鮮の核やミサイル問題で、自分たちも厳しい目で見られているという言葉があったが、そうした声が出てくる背景には何がある?

NHK記者:北朝鮮の学校というイメージが強く持たれているからなんです。関係者によりますと、教員も朝鮮総連から派遣されるケースもあるということです。また、北朝鮮からの資金援助もあります。民族教育への援助という名目で、去年(2017年)は全国の朝鮮学校などに、合わせて2億円以上が分配されたと見られているんです。

武田:朝鮮学校には、韓国籍の生徒も通っているということだが、その在日コリアンの社会には複雑な事情がある?

NHK記者:在日コリアンの中には、仕事や生活で都合がいいという理由で、朝鮮籍ではなくて、韓国籍を選ぶ人もいます。ただ、そうした人の中にも、民族のルーツやハングルを学ぶために、朝鮮学校に子どもを通わせるという人がいるのが実情なんです。在日コリアンは、朝鮮籍か韓国籍かという区別よりも、むしろ韓国を支持する民団に近いのか、北朝鮮を支持する朝鮮総連に近いのかといった分断に直面しています。最近は、どちらの組織とも距離を置く人も増えてきているんですが、同じ民族が民団と朝鮮総連に分かれて、70年近くに及んで、対立しているということには根深いものがあります。

韓国と北朝鮮の分断が解消するかどうかと、在日コリアンの社会が1つになれるかどうかというのは、また別の問題だといえると思います。

武田:朝鮮半島を巡る一連の動きを通して、改めて在日社会の複雑な状況も見えてきたわけだが、私たちはそれをどう捉えたらいい?

奥薗さん:朝鮮半島情勢というのは、こうやって激しく動くわけなんですけれども、ただ、それをそのまま単純に在日コリアンの社会に投影してしまうというのは、必ずしも適切ではないんじゃないかと思うんですね。それはやっぱり、在日コリアンというのは、一方で日本社会を我々と共に構成する仲間であって、その意味で、マイノリティーとして民族のアイデンティティーを守って引き継いでいく権利があるのも事実なんだと思うんですね。その意味で、日本人と在日コリアンは、互いに尊重し合う意識を持つというのも必要だと思います。

武田:生徒からは、こうした一連の動きが日朝の関係改善につながることを期待する声もあった。今日の会談では、トランプ大統領が拉致問題も取り上げたというふうに伝えられている。日本と朝鮮半島との関係、今後、この一連の動きを受けて、どこへ向かっていく?

奥薗さん:実は、日本と北朝鮮の間には、すでに日朝ピョンヤン宣言という大きな成果があります。そこには、両国の間の懸案事項を解決して、そして不幸な過去を清算した上で、国交正常化をする折には、日本から経済協力を行うということで、すでに合意ができているんですね。ただ、今後、その米朝の非核化協議が進展した場合に、必ず北朝鮮に対する経済支援というのが、そ上に上がってくると思います。その場合に、日本に対する期待、日本が果たすべき役割というのが、必ず出てくることになるんだろうと思いますね。日本としては、そういう状況を迎えた時に、この拉致問題というのが置き去りになったり、あるいはうやむやになったり、そういったことにならないように、今のうちから戦略的に取り組む必要があるんだろうというふうに思いますね。

武田:この一連の大きな動きが日本の在日社会にも変化を及ぼしつつあることが分かりました。それを知ることは、今後の日本と朝鮮半島との関係を考える上で大切なことだと思います。明日(13日)は、今日の会談の結果について、日米の元外交官に聞きます。