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2兆円規模のアニメ産業、加速する“ブラック労働”の実態

2兆円規模のアニメ産業、加速する“ブラック労働”の実態

2017年6月13日

大ヒットが相次ぎ、ブームを巻き起こしている日本のアニメ。去年発表された2015年の市場規模は過去最高のおよそ2兆円を記録し、一枚一枚丁寧に描かれた作品が世界から高く評価されている。その一方、アニメの制作現場は深刻な事態に陥っていた。利益が現場に届かず、低賃金が常態化。労働基準監督署も動き始め、優秀な人材の確保が困難になりつつある。岐路に立つ日本のアニメ業界、その未来を展望する。

活況のアニメ産業、なぜ制作現場に利益が還元されないのか

去年発表された2015年の市場規模は過去最高のおよそ2兆円を記録。ところが制作会社の売り上げは、ここ10年を見ても2,000億円前後とほぼ横ばいのまま。業界全体の活況にもかかわらず、制作現場にはその恩恵が必ずしも届いていないのだ。原因はどこにあるのだろうか。

多額な制作費用が必要なアニメ作品は、テレビ局や出版社など複数の企業が出資をしあう「製作委員会方式」が取られ、作品の権利・版権は製作委員会が所有する。アニメの場合、売り上げの大半は関連商品や放送権販売などの二次利用によるもので、その利益は製作委員会に出資した企業が受け取る。つまり、制作会社は製作委員会に出資しないかぎり、どれだけ作品がヒットしてもあらかじめ決められた“制作費”しか受け取れない構造なのだ。調査会社によれば、制作会社や下請けの4社に1社は赤字経営だという。

アニメ業界で「働き方改革」が進まない理由とは

大阪のアニメ制作スタジオ「イングレッサ」も、厳しい経営を続ける。ここではアニメのもとになる絵の制作を請け負っており、アニメーター(動画担当)に支払われる報酬は1枚当たりおよそ200円。品質を考慮すると、作業の早いアニメーターでも1日20枚が限界だといい、月収は10万円前後にとどまる。取材に応じてくれたフリーのアニメーター・阿久津徹也さんの年収は、アルバイトを含めおよそ100万円。NPOが運営する月2万5千円の寮で、ぎりぎりの生活を続けていた。

ワークライフバランスの専門家・渥美由喜さん(東レ経営研究所)はこうした状況を、「やる気ある若者が集まる業種がゆえに、そのやる気を逆手に取られ、働き方改革がなかなか進んでいない」と指摘し、このまま正当な対価が支払われないようでは、いずれ人材確保が困難になり、業界の存続に関わる問題になると警鐘を鳴らす。

「現場の厳しい状況を変えるには、制作会社の努力も必要」と語るのは、業界を代表する大手制作会社「プロダクション・アイジー」の石川光久社長だ。採算がとれない仕事でも請け負ってしまう制作現場にも問題があると指摘し、制作会社みずからがリスクを取って二次利用の権利を確保するなど、もっとビジネスの感覚を養うことが必要だと提言する。

脱“ブラック労働”、アニメ制作会社の挑戦

従来の制作手法を変革し、労働環境を改善しようという企業も現れている。港区に本社を置く「ポリゴン・ピクチュアズ」では、先月公開された劇場アニメのほぼすべてをCGで制作。各社員の仕事量やプロジェクトの進捗状況はコンピューターで把握し、作業効率が最適になるよう1日単位で業務を管理している。結果、コストを最大で30%近く削減。浮いたコストは最新技術に投資し、生産性と作品の質を両立させていた。

また、元アニメーターのチェ・ウニョンさんが設立した「サイエンスSARU」では、全員が朝9時に出勤し、夕方6時半に退社。土日は完全休業を徹底させている。こうした労働環境を実現するために、この会社ではデジタル技術を積極的に取り入れていた。先月公開された『夜明け告げるルーのうた』のワンシーンでは、特別な制作ソフトを使ってキャラクターの動きに必要な80枚以上の絵を省略、従来の3分の1の人数で作品を完成させたという。

CGを導入することで、日本アニメの魅力が失われるという懸念もあるが、自分の作品にもCGを取り入れているアニメーション監督の入江泰浩さんは、「3Dであれ、フラッシュであれ、画面を見て作品の良し悪しを判断するのは人間の目。最終的に人間が判断する以上、アニメーションの魅力が失われることはない」と話し、デジタル技術を積極的に取り入れることで、アニメ業界の可能性はより広がりを見せると予測する。

日本のアニメ産業を未来へつなげるために

業界を支えてきた制作会社やアニメーターたちの“アニメ愛”。しかし皮肉なことに、それが労働環境の改善を停滞させる一因にもなっていた。アニメ産業の未来を明るいものにしていくには、働き方とコストの両面をシビアに考え直す必要がある。そのためには制作会社の努力だけでなく、国の支援も欠かせない。

入江さんは「世界にクールジャパンというものを推し進めている国らしく、健全な制作会社に対する税制の優遇措置があってもいい」と国の後押しに期待を寄せる。さらに、NHKや各民放局などの放送業界に対し、「これからも番組としてアニメーション制作を続けるのであれば、制作費を少しでも増やし、アニメーターが安心してアニメと向き合える環境を作っていただきたい」と制作現場の声を代弁する。

後世に残る名作を生み出したい。その一心で、いまこの瞬間もペンを握り続けているアニメーターがいる。その思いを逆手に取るような環境や、ブラック労働と揶揄された状況でつくられた作品を、私たちは本当に観たいと思えるだろうか。アニメ業界は今、新たな仕組みを模索すべき時期に来ているのかもしれない。

この記事は2017年6月7日に放送した「2兆円↑アニメ産業 加速する“ブラック労働”」を元に制作しています。

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