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赤ちゃんポスト10年 孤立する親と子どもの未来を守るには

赤ちゃんポスト10年 孤立する親と子どもの未来を守るには

2017年6月15日

親が育てられない子どもを匿名で受け入れる「こうのとりのゆりかご」、いわゆる「赤ちゃんポスト」が熊本市の民間病院に設置されて10年を迎えた。赤ちゃんの遺棄や虐待が社会問題になっている中、命だけは救いたいと匿名での受け入れを続けている。しかし成長した子どもたちは今、自分の親が分からない、ルーツをたどれないという悩みに直面し始めている。

語り始めた子どもたち「生みの親を知りたい」

ポストに託され、その後、里親の元で育った翼くんは、スポーツが大好きな明るい少年だ。実の親子と変わらない、穏やかな日常を積み重ねてきた。自身がポストに託されたことについて、胸の内を語ってくれた。「そこら辺に捨てて分からなくなるよりかは、ポストという社会に守られているところに預けたことは感謝している。」

しかし、成長するにつれて、生みの親はどんな人たちで、自分はどうやって生まれたのかを知りたい気持ちが膨らんだという。「生みの親との時間も自分の人生の一部」という翼くんは、ポストを利用する親たちに、せめて子が親を知る手がかりを残してほしいと訴える。

「育ての親との記憶はこれからでも作っていくことはできるけど、過去には戻ることができないから。写真1枚でも残してくれたら、子どもたちもうれしいと思うし、生きていた証しというのを、ポストに赤ちゃんと一緒に預けるというか、何か残してほしいなと思います。」

この10年でポストに託された子どもは130人。このうち、親と接触できたり、親が名乗り出たりしたケースは、5月の時点で103人。27人の子どもたちは、親の居場所や自分の生い立ちを知るすべがない。

「知られるくらいだったら死ぬ」 親の事情とその背景は

実際に、ポストの利用を考えた女性に話を聞くことができた。4年前、交際相手の子どもを思いがけず妊娠したが、家族には打ち明けられなかった。匿名のまま子どもを手放したいと考え、見つけたのが赤ちゃんポスト。身元を隠すため病院は受診せず、出産が近づくと1人で熊本に向かった。宿泊先のホテルでひそかに産んでポストに託すつもりだったという。熊本にやって来て3日目で突然破水。しかし30分以上たっても赤ちゃんは産まれてこない。混乱した女性はタクシーでポストのある病院へ向かいようやく出産した。

「ポストがなければ、今、どうなっていたのかな。遺棄していたんじゃないか。」

熊本市の調査によると、赤ちゃんポストに託した理由で最も多いのは生活困窮。経済的余裕や相手の男性のサポートがない等で追い詰められたケースだ。一方で、世間体、籍に入れたくない、不倫といった理由で利用するケースもある。当初、病院側が想定していなかった事態も起きている。社会的に地位の高い人や収入に余裕のある人が利用したケースだ。匿名での受け入れが安易な育児放棄につながっているとの指摘もある。それでもポストを設置した慈恵病院の蓮田太二理事長は、匿名であることの重要性を訴える。

「『知られるくらいだったら死にます』という叫び声を上げる人が現実にいるわけです。そういう人にとっては、匿名というのは非常に大事。」

複雑な家庭や、壊れた家族の中で生きる子どもを数多く描いてきた映画監督の是枝裕和さんは、「身勝手だと批判されても仕方のない側面もあるが、母親だけの責任を問うことで解決するような状況ではない。地域からも家族の共同体からも孤立している母親を、どう支えるかを考えていく必要がある」と指摘する。

孤立した母親にも、生まれた子どもにも支援を

孤立した母親の支援に積極的に取り組んでいるのがドイツだ。赤ちゃんポストが実に100か所余りに設置され、母子の安全を確保するシェルターもある。誰にも知られずに出産できる施設も整っている。さらに、母親が連絡先などを行政機関に届け、生まれた子どもが成長したときに、子どもが希望すれば、自分の親が誰かを知ることができる制度もある。

日本ではどうか。国は、子どもを育てられない親は児童相談所などの公的機関に相談をするよう推奨している。しかし、追い詰められた女性にとって、公的な窓口の利用は難しい。前述した女性も、身元を明らかにしたくないという理由から病院さえ受診していない。

是枝監督はこう指摘する。「国が考える、あるべき家族の形が、現実とかなり乖離している。地域の共同体とか、家族の共同体が壊れたという前提で制度を整備していかないと無理だと思う。理想的な状況ではないから、現実にどう向き合うかということが大事だ」。

子供たちの支援にも目を向けなければならない。かつてポストに託された翼くん。将来の夢を尋ねると、同じ境遇の子どもたちを支える仕事に就きたいと答えた。

「信じられる人、信頼している人が周りにいるというのが、どの子どもたちにとっても大切で、大事だと思います。預けられた子どもたちの悩みを聞いて、『実は自分もそういう道をたどってきた。1人ではない』ことを子どもたちに教えてあげたい。」

行き場をなくした親たちと、その子どもたちの未来をどう支え守っていくのか。赤ちゃんポストが刻んだ10年の歳月は、いま、重い課題を私たちの社会に突きつけている。

この記事は2017年6月8日に放送した「僕の生みの親はどこに?~10年後の赤ちゃんポスト~」を元に制作しています。

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