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死別の悲しみを越えて “没イチ”という生き方

死別の悲しみを越えて “没イチ”という生き方

2017年6月19日

配偶者に先立たれ、1人暮らしとなる高齢者が増えている。悲嘆にくれる日々…と思いきや、自らをバツイチならぬ「没イチ(ボツイチ)」と呼び、新たな人生を前向きに生きようとする人も。死別の悲しみから一歩踏み出す、いま注目の「没イチ」という生き方に迫る。

“没イチ”は幸せ? それとも不幸せ?

今年(2017年)、団塊世代が70代に突入する。本格的な超高齢化社会を迎える中、配偶者と死別する人は年々増加し、2015年には864万人(65歳以上)に達した。核家族化が進んだ現代では、配偶者との死別後には1人暮らしになるケースが多く、孤独感や喪失感に苦しむ人は後を絶たない。

死生学を研究する小谷みどりさん(第一生命経済研究所 主席研究員)によると、死別後の生活については、男女で意識の違いがあるという。最新のアンケート調査では『外出する時間が増えた』と回答した女性は50%だったが、男性は32%にとどまった。さらに現在の幸福度を10点満点で尋ねたところ、女性は8点と答えた人が最も多く、男性は5点が最多だった。小谷さんは「世話をしていた夫がいなくなることで、女性はよりアクティブになる傾向がある」とする一方、「男性は自分が先に死ぬと思い込んでいるところがあり、妻だけが頼りと言う人も多いからではないか」と分析する。

“没イチ”に大人気の「おひとりさまツアー」とは?

夫婦生活が長ければ長いほど、配偶者の死による精神的な痛みは大きい。悲しみを乗り越え、新たな人生を踏み出すにはどうすればよいのか。

実は小谷さん自身も6年前に夫と死別した。いま同じ境遇の人に呼びかけ、定期的に「没イチ会」という交流会を開いている。「仏壇にいつまでご飯を供えるか」「亡くなった配偶者がいつまで夢にでてきたか」など、他人には話しにくい心の内を気軽に語り合っているという。小谷さんは「死別した人に対する、かわいそうという世間の目を変えたい。バツイチってみんなが言えるように、私は“没イチ”ですって言える世の中にしたい」と話す。

前向きに生きる“没イチ”の間で人気を集めているのが「1人旅専用ツアー」だ。通常のツアーは夫婦や友人等の複数参加を前提にするが、このツアーは1人での参加が原則。他の参加者に気を遣わずにすむよう、バスの中では1人で並びの2席を占有、宿泊も一人一部屋だ。ツアーが進むにつれ、同じ境遇の人同士で打ち解け、明るい雰囲気になるという。社会学者の上野千鶴子さんも「没イチをマイナスに感じる必要はありません。女性の中には“配偶者ロス”に悩まれる方もいますが、大体3年ぐらいで回復し、そのあとは人生を謳歌なさる人が多い」と、没イチをもっと前向きに捉えてほしいと話す。

“没イチ”をきっかけにサロンを起業

夫の死をきっかけに専業主婦を卒業し、起業に踏み切った女性もいる。斉藤恵さんは東京のマンションを売り払い、故郷のある岩手で女性向けサロンを経営している。決断の背景には、がんの痛みに苦しむ夫の足をさすり続けた経験があった。夫に感謝された「足もみ」で誰かの役に立ちたい、そんな思いから専門学校で技術を磨き、新たな人生をスタートさせたのだ。

自由な生き方を求めて、亡くなった伴侶の親族との関係を解消する「死後離婚」を選択する人も増えている。小谷さんは「これまで女性が結婚するということは、家に入る、嫁になるという考え方が強く、夫が早くして亡くなっても、妻は姑の介護をするのが一般的だった。しかし、いまは夫が亡くなったあとに、夫方の親戚と区切りをつける人も少なくない」と言う。

“没イチ”を謳歌するために必要なこと

配偶者との死別後も自分らしく生きるには、どんなことを心がけておくべきか。10年前、40年間連れ添った妻をがんで亡くした医師の垣添忠生さんは、「普段から人とのつながり、社会とのつながりをしっかりと作っておくことが大事」と助言する。特に男性の場合は、定年退職を機に社会から孤立してしまう人が多い。日頃からボランティアなどを通して社会や地域と関係を持っておくことが、死別の悲しみを癒やし、その後の生活の豊さにつながるという。

“人生百年”とも言われる時代、いつか訪れる「没イチ」を、自分らしく生き直す機会にできるかどうか、それを左右するのは、まさに今をどう生きるかなのだろう。

この記事は2017年6月13日に放送した「おひとりさま上等!“没イチ”という生き方」を元に制作しています。

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