クローズアップ現代

毎週月曜から木曜 総合 午後10:00

Menu
進化する14歳棋士・藤井聡太

進化する14歳棋士・藤井聡太

2017年6月27日

中学3年生のプロ棋士・藤井聡太四段が公式戦連勝記録を「29」に伸ばし、歴代連勝記録の単独トップに立つ偉業を成し遂げた。クロ現+は、プロデビューから長期間にわたり藤井四段に密着。将棋界に彗星のごとく現れた天才の強さと、その進化に迫った。

偉業のはじまり 初戦で見せた「終盤の強さ」

藤井四段の連勝記録が始まったのは去年(2016年)12月。加藤一二三九段との対局だった。持ち味の終盤の強さがさく裂。鮮やかな勝利を収めた。一二三九段は、「寄せのスピードはある意味、予想以上の速さ」と若き天才を絶賛した。

藤井四段は祖父の影響を受け、5歳で将棋をはじめた。小学4年生の時に杉本昌隆七段に弟子入り。師匠は藤井少年と初めて対局した時の様子をこう語る。「私が勝ったけど、なんかものすごく落ち込むというか、この世の終わりみたいな感じでどんよりして、ちょっと失礼じゃないかなと。私からすると負けて当たり前。それぐらい根性がある、負けず嫌い。」

終盤の強さに定評がある藤井四段。その秘密は、幼少期から続けてきた詰将棋だ。これまで1万以上の問題を解いてきた。相手を追い詰める道筋を読む力は、今や師匠の杉本七段でさえ敵わないという。

しかし藤井四段は、さらに上を見据える。
「僕は昔から逆転勝ちがかなり多かった。でもそれだけでは、勝ってはいけない。もっともっと自分の実力を高めて、いい将棋がさせるようにしたい」

最大の試練で見せた「勝負師の顔」

デビュー戦以降、着実に勝ち星を重ねていた藤井四段に最大の試練が訪れる。20連勝をかけた対局、相手は将棋界の次世代を担うと期待される若手実力者、澤田真吾六段だ。連勝を止める筆頭候補と目されていた。対局は、藤井四段がプロデビュー後、経験したことのない熾烈なものとなった。

まず直面したのが「千日手」だ。両者がこう着状態になり、4回同じ局面になると千日手が成立、対局は最初からやり直しになる。将棋にはそれぞれ持ち時間があるが、千日手でやり直しとなった場合、費やした持ち時間は戻ってこない。対局が進んで持ち時間を使いきると、すべて1分以内に指さなければならない。

いつもは冷静な藤井四段。しかし、時間を気にするあまりミスを連発する。一方、正確な読みが持ち味の澤田六段は、藤井四段の王を直実に追い詰めていく。その時の状況を藤井四段は、「うっかりしていて、修正のきかない局面になってしまいました。はっきり負けの局面なので厳しいところはありました」と振り返る。

報道陣が「藤井、ついに連勝ストップ」の一報を準備し始めたその時だった。

藤井四段が思わぬ一手を指す。手持ちの「桂馬」で王手をかけたのだ。

「局面が負けなので、言葉は悪いですけど、やけっぱちというところもありました。自分としては精いっぱいの手でした」(藤井聡太)

この局面。澤田六段は、次の一手で、王を逃がすか、金で桂馬を取るかの二者択一しかない。藤井四段は、その先の膨大な指し手をこう読んでいた。もし、澤田六段が王を逃がせば10手以上先に自分の負け。一方、金を動かして桂馬を取った場合は、逆転して10手以上先に自分の勝ちがある。勝負を相手に預ける代わりにわずかな可能性に掛けた、いわば勝負師の一手だった。

すでに持ち時間を使い切っていた澤田六段。これほど短く感じた1分はなかったという
「こちらはもう最善を探すほうなので、短かった、1分は。」

一方、藤井四段。これほど長く感じた1分はなかったという。

澤田六段の選択は、「金で桂馬を取る」。
このあと一気に形勢は逆転。藤井四段の20連勝が決まった。

藤井四段は、「本当に自分の実力からすると、僥倖(ぎょうこう=思いがけない幸せ)としか言いようがない。全体的に苦しい将棋だった」と勝負を振り返った。

自分の思い通りの展開に持ち込めなくても、諦めず一か八かで勝利をもぎ取る精神力。強敵相手に見せた藤井四段の進化だった。

因縁の対決再び 勝利を引き寄せたさらなる進化

歴代最多の28連勝をかけた対局は、再び澤田六段との対決となった。7時間に及ぶ激しい攻防戦、藤井四段はここでもさらなる進化を見せた。

プロ棋士の山崎隆之八段は、藤井四段が中盤で並べた二枚の「歩」に注目。「歩という一番弱い駒で、攻撃の要である飛車と、守りの要である金を封じ込めることに成功した」と分析する。ただ藤井四段が歩を指すしたときは、真の狙いを読めなかったと明かす。

「このときは指しすぎになっているのではと感じたので、なぜこれをやるか分かりませんでした。これがいい手だというふうに感じたのは、ここからさらに20手後です。終盤の入り口になってから、やっと分かりました。このときのために指してたんだなと。」

終盤の勝負強さだけでなく、さらに、中盤で先を見通す力を身につけつつある藤井四段。

長年、将棋界を取材してきた作家の大崎善生さんは、藤井四段にさらなる進化をもたらしたのはパソコンによるトレーニングだとみる。「本人に聞いたが、3台のソフトを使い分けて研究していると言っていた。大阪の若手の棋士から勧められ、抵抗なく導入したようだ。そこから序中盤がどんどん強くなっているという棋士からの評判をずいぶん聞きます。」

14歳のプロ棋士が描く大きな夢

歴代連勝記録の単独トップに立った藤井四段。さらに大きな夢がある。

「東海地方にタイトルを持って帰るのが板谷先生の頃からの悲願。ぜひ実現できるように頑張りたい。」

板谷先生とは、師匠(杉本七段)の師匠だ。故郷にタイトルをもたらす棋士を育てることに力を尽くすが、志半ば、47歳の若さで死去。藤井四段は、板谷九段がいなければ、今の自分はないと、感謝の気持ちを抱き続けている。そして、亡き板谷九段の思いを受け継ぐことが、プロ棋士としての夢の1つだという。

しかし、その夢を叶えるまでには、乗り越えなくてはならない壁が幾つもある。全国にプロ棋士は約160人。名人を争う「順位戦」でいうと、5つのクラスに分かれている。デビューしたばかりの藤井四段は、最も下のC級2組に所属。これまで戦った相手は、一部をのぞいて同じクラスの棋士だった。今後、勝ち進んでいけば、格上の棋士と次々と対決してくことになる。タイトルを獲得するには、長く険しい道のりが待ち受けている。

師匠の杉本七段はタイトル獲得に向けてさらなる成長に期待を寄せる。
「藤井四段は14歳ですから、ここで連勝を続けることも非常に価値あることだが、それよりも少しでも強くなってほしい。「歩」一枚でもいいから、昨日よりも今日、今日よりも明日の方が少しずつでも強くなる。彼にとって今、求められることだと思います。」

本人も謙虚にこう語る。「少しでも最善に近づくことを目標にしている。」
プロ棋士、藤井聡太四段、14歳。夢の扉は、開いたばかりだ。

この記事は2017年6月21日に放送した「14歳棋士・知られざる偉業への道 ~歴代最多28連勝・藤井聡太~」を元に制作しています。

もっと読む