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「卒母」宣言の真意とは 漫画家・西原理恵子の“子離れ論”

「卒母」宣言の真意とは 漫画家・西原理恵子の“子離れ論”

2017年6月30日

累計240万部の人気漫画『毎日かあさん』の連載が、6月26日に終了した。作者は西原理恵子さん。自身の実生活を題材に、家事や育児の奮闘を描き、母親を中心に共感を広げてきた。連載開始から足かけ16年、娘が16歳になったのを機に“母親業”を卒業することを決意し、同時に『毎日かあさん』の連載も終えることにした。なぜ彼女は“卒母”に踏み切ったのか。現代における親子のほどよい距離感とは?

“卒母”宣言のきっかけ

「お母さんの役目は終わった。ここまでやったんだ、あとは好きにさせてもらう」

西原さんは、娘の日和さんが16歳になったのを機に“卒母”を宣言。子どもを朝起こすことも弁当作りもやめた。

32歳で結婚した西原さん。1男1女を授かるも、2007年に夫と死別。女手一人で、漫画を描きながら、長男の雁治さんと長女の日和さんを育ててきた。我が子にずっと言い続けてきたことがある。

「家を出たいなら、18歳からOK。独立するなら家賃、税金、生活費月に20万円以上の収入を目指して準備する。勉強する。資格を取る。そのためのお金は全部出します。」

母の「哲学」を叩き込まれた2人。長男の雁治さんは16歳の時に自らの意思でアメリカに単身留学。大学1年生になった今、「1人暮らしが満足にできるくらい、自立した人になりたい」と話す。一方、娘の日和さん。演劇の稽古に没頭する毎日で、帰宅が深夜になることもある。それでも母は自主性を重んじ、居場所さえ知らせれば口出ししない。

「急に子どもたちが、怒った猫みたいにシャーっとやったから『おっ』と思った。娘もやりたいことを見つけて、気づいたときには、もうドアを開けて、ドアの向こうに行っちゃったあとだったんです。そのときに、『あっ終わったんだ』と思って、すぐに私、Uターン。資金的なものからなんでもすべて応援するから、あなたはあんたの道を歩んでって。だって、子どもたち、タブレットひとつで私の知らない世界に、もうどんどん行ってるんだもん。」

心配だから…子の面倒を“見ざるを得ない”親たち

西原さんの“卒母宣言”には、多くの母親から共感の声があがる。しかし、西原さんのように決然と子離れに踏み切れない現実もある。なぜか。

社会人になっても経済的自立が難しい時代だ。今や、働く人の4割近くが非正規社員といわれている。そのため、心配する親が就職活動に積極的に関わるケースが増えている。子供がせっかく内定をもらっても、親が「もっと安定した職に就いてほしい」と納得せず、辞退に至るケースも少なくない。

若者の未婚化・晩婚化も、「卒親」への壁になっている。男性の4人に1人、女性の7人に1人が生涯未婚の時代。「わが子が孤独な人生を送ることにならないか。」という心配から、子どもに代わって、親同士が会い、結婚相手を探す「親婚活」も増えている。

右肩上がりの経済成長の時代には、親より子供が豊かになるのが“当たり前”だった。しかし、今や状況は一変。親の収入に頼らなければ日常生活もままならない、という若者も少なくない。そんな子どもを心配するあまり、親は子供の面倒を見ずにはいられないのだ。

親が最後にできることとは?

こうした状況を、社会学者の山田昌弘さんは次のように分析する。
「子どもから必要とされ続けたいという心理と、親以上の生活をしてほしいという子どもへのプレッシャーが相まって、親を卒業できなくなっている。心理的にも経済的にも、社会的にも、意識的に子離れしないと、なかなか親子のいい関係は築けなくなるかもしれない」

西原さんは、子どもたちがやりたいことを見つけたタイミングで“卒母”を宣言した。そこには「自立」への信念がある。20歳で上京した西原さん。下積み時代を通して、「お金を稼ぐということは、自由を手に入れることだ」と身をもって知った。人生のかじ取りは自分でするしかない。そのために子供たちにも「自分で稼ぐ力」をつけてほしい。

それでも、子どもの将来を心配し、思わず手を差し伸べたくなるのが親というものだ。きっぱりと卒母宣言した西原さんも、その思いは同じだ。「不安を考えたらきりがない。どっかで諦めるしかない。でも、わたしのドアはいつでも開いている。何か困ったときは帰ってきてちょうだい。」と自立を目指す子どもたちにエールを送る。

子どもが自分の力で生きていくために、親が最後にできること、それは、きちんと手を離してやることなのかもしれない。

この記事は2017年6月26日に放送した「“卒母”宣言 子離れできますか」を元に制作しています。

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