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“核なき世界”に向けて 中満泉・国連事務次長に聞く

“核なき世界”に向けて 中満泉・国連事務次長に聞く

2017年7月20日

7月7日、歴史的な国際条約が国連で採択された。核兵器の開発や保有を禁止する「核兵器禁止条約」だ。この条約成立に大きな役割を果たしたひとりの日本人女性がいる。今年5月に国連の軍縮部門のトップに就任した事務次長の中満泉さんだ。しかし、核保有国は条約に反発。アメリカのトランプ大統領は「核強化」に舵を切るような姿勢も見せる。国家間の溝も深まりかねない状況の中、“核軍縮”という難題にどう立ち向かうのか。ニューヨークの国連本部で、中満さんに聞いた。

「核兵器禁止条約」採決の舞台裏で

「こんにちは」中満さんは淡いブルーのスーツの姿で、にこやかに現れた。核兵器禁止条約をめぐって約3週間に及んだ交渉が終わったばかり。まず、この条約が採択された意味を尋ねた。

「核軍縮を巡る全体的な構図というのが、大きく変わっていくのかなというふうに考えています。参加する国にとっては核兵器というものが、違法になるということで、国際法の1つの条約を作ったというのは、非常に大きな歴史的な意義があると考えています」

世界はこれまで、別の枠組みで核軍縮を目指してきた。半世紀近く前に発効したNPT=核拡散防止条約。アメリカやロシアを含む、およそ190か国が参加するNPTでは、5か国のみに核兵器の保有を認める一方、削減の義務を課している。しかし、近年、削減は遅々として進まず、5か国はいまだ1万4,000発あまりの核弾頭を保有している。新たに核を持つ国も出現し、核拡散は続いている。この状況にしびれを切らしたのが、核を持たない国々だ。「NPTの枠組みでは、核の脅威はなくせない」と、核廃絶の切り札として打ち出したのが、核兵器そのものを非人道的だとして禁じる「核兵器禁止条約」だった。

しかし、それに逆行する動きも。今月(7月)4日、北朝鮮がアメリカ本土を狙えるICBMに成功したと発表。アメリカは、今の不安定な世界情勢では、核兵器を即時に禁止するのは非現実的だと主張している。

「現実を直視しなければならないことが、明らかになった。北朝鮮の核は、国際社会の最大の脅威なのに、禁止条約は、この問題になんら役にたたない。“心地よい”だけでの条約では、核を減らすことは全くできない」(米・ウッド大使)

アメリカをはじめ、すべての核保有国も条約に強く反発し、交渉への参加を拒否。日本をはじめ、アメリカの「核の傘」で守られている28か国も参加しなかった。

こうした状況にもかかわらず、いや、こうした状況だからこそ、中満さんは「条約採択には核保有国を巻き込むことが不可欠だ」と考えていた。そうでなければ、条約がむしろ核保有国と非保有国との溝を深めてしまいかねない、と危惧していたからだ。中満さんは、北朝鮮の常駐代表、アメリカ国務省の軍縮トップなどと接触し続けた。そして、条約作りを進めたコスタリカのホワイト議長に、反対する国々の「本音」を伝え続けた。

「国連で重要になってくるのは、対立点を鋭く指摘するものではなくて、対立した立場の中から、どこに共通点、コモングラウンド(共通の立ち位置)を見つけることができるか、これにかかっている」

議論の末、当初想定されていなかった条文が加えられた。「核兵器の保有国であっても、廃絶の期限を定めた計画を示せば加盟できる」。将来、核保有国も条約に参加する道筋をつけたのだ。

「最終的には、核兵器を持っている国が動いてくれないと、そこ(核軍縮)にはつながらない。これも現実だ。なので、それをどのように推し進めていったらいいのか、そのために新しくできた条約の、このモメンタム(機運)をどのように使っていけば、一番早いかたちで現実的に駒を進めていけるのか。それを、これから考えていくことになると思います」

被爆国・日本のジレンマにも直面

今回の条約交渉で、中満さんは、被爆国でありながらアメリカの核の傘で守られる日本のジレンマにも向き合うことになった。

長年、核廃絶を訴えてきた日本。だが、当初から交渉への参加には後ろ向きだった。

「核兵器禁止条約は、核兵器国と非核兵器国の対立をいっそう深めるという意味で、わが国の立場から考えても合致しない」(岸田外相)

結局、日本は条約には不参加。中満さんは核軍縮の理想と現実を突きつけられた。一方で、条約成立を力強く後押ししたのは、日本の被ばく者たちの訴えでもあった。中満さんも、彼らのメッセージは非常に大きな意味があったという。

「核兵器が存在していたにも関わらず、これが一度も使われなかったということは、やはり被爆者の方々がいろいろ努力をされてきたから。口にするのもおぞましいような、ご自分たちの経験というものを世界とシェアしてきたことで、核は使ってはならない兵器、使うことができない兵器というメッセージになったと思います」

世界で唯一の被爆国でありながら、アメリカの核の傘で守られる日本。ジレンマはあるものの日本にはもっと果たせる役割もあると中満さんは期待を寄せる。

「日本は日本のやり方で、ただし努力を倍増、3倍増という形で取り組んでほしい。そして、その過程の中で、私たちと一緒に仕事をしていただければいいなと思っています」

今の時代だからこそ国連に求められるもの

28年前に国連に入り、人道支援や平和維持活動で活躍してきた中満さん。師と仰ぐのは、国連難民高等弁務官として世界の難民問題に取り組んだ緒方貞子さんだ。「現場を見て、やるべきことの本質を見極めなさい」という緒方さんの言葉を大切にしている。

「国連の仕事というのは、ある意味で特別な仕事だというふうに思っているんです。いろんな人が力を合わせることにより、世界が少しでもいい所にできるんだという信念があればこそやっている仕事。国連のリーダーになる人というのは、一番弱い立場にいる人たちのことをきちって考えて、彼らの利益になるようなことをやっていかなければならないといつも感じています」

多忙を極める中満さん。支えは家族の存在だ。夫と2人の娘の4人家族。忙しくても夜7時には職場を離れ、食事をとるようにしている。

「子どもを抱えながら仕事するのは大変でしょうと聞かれますが、仕事に対するパッションが、子どもが生まれてから、感情的なところでうまくつながったということがあります。PKOなど、難民のことで現場に行くたびに、非常に悲惨な状況がある。これを見ると、こういったことは変えていかなければいけない。それは、やっぱり自分の子どもたちにとっても重要なこと。彼女たちが、これから住んでいく将来の世界に関することなので、頭の中だけではなく、心でも、すぱっと自分のやっている仕事の意味というのが理解できるようになったと思います」

インタビューも終わりに近づき、こんな質問をぶつけてみた。アメリカ第一主義を掲げるトランプ大統領の登場に象徴されるように、各国が内向き指向を強め、国際協調に後ろ向きの空気も広がる。そんな中で、いま国連の存在意義をどう考えるのか-。
中満さんはまっすぐ前を向いて、こう明快に答えてくれた。

「悲観的なこともよく聞こえてくるんですよね。大変な国際状況になりましたね、みんな各国が内向きになって、国連にとってもすごく難しいですよね、と。私は、むしろ逆の見方をしていて、恐らく国連が果たさなければいけない役割というのが大きくなった。人は文化や立場の違い、物の考え方を超えて共存していけるところがあると思うんです。ですので、国連はこれからもきちっと機能できるような組織であり続けなければいけないと考えています」

この記事は2017年7月12日に放送した「シリーズ トランプのアメリカを行く 中満泉・国連事務次長に聞く」を元に制作しています。

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