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“トランプ疲れ”と“再団結への動き”  アメリカ・分断社会の新局面

“トランプ疲れ”と“再団結への動き”  アメリカ・分断社会の新局面

2017年7月20日

トランプ大統領就任から半年、アメリカ社会の分断は新たな局面に突入している。連日のトランプ報道にうんざりして“トランプ・ファティーグ(トランプ疲れ)”に陥る市民。一方、分断された社会を再び“ユナイト(団結)”させようとする動きも活発になってきた。これらの現象は回復の兆しか、それともさらなる亀裂の前触れか?

支持者にも広がる“トランプ疲れ”

トランプ大統領をめぐる対立が、連日のようにメディアを賑わせてきたアメリカ。今、市民の間に広がっている新たな現象がある。トランプ・ファティーグ、すなわち「トランプ疲れ」だ。「テレビも、新聞も、どこも、トランプ、トランプ、トランプ」という状況に疲れ果て、ニュースを見なくなったという人も。こうした声は、反トランプ派からのみならず、トランプ支持者からも上がっている。

「トランプ疲れ」に対応し始めたメディアもある。月に1,500万人が閲覧するオンラインニュースでは、「トランプ・フリー・デー」、“トランプ関連ニュース禁止の日”を設けた。その日の記事にトランプ大統領の写真は一切使わない。通常“President Trump”、「トランプ大統領」と書かれるところも“the president”、単に「大統領」とだけ表記する徹底ぶりだ。

「きっかけは多くの読者から『トランプのニュースばかり取り上げすぎだ!』と言われたことでした。トランプ関連の話題は確かに面白いですよ。でも時には立ち止まって、他に伝えることはないか、考えようという取り組みです」

トランプ大統領の話題を一切報じないというラジオも人気だ。とある朝のニュースのラインナップは、化石の発見、古い食堂の取り壊し、猫カフェの話題など。大統領がらみの喧噪とは一線を画した和やかなニュースが並び、「トランプ疲れ」に悩まされていたリスナーからは好評だ。

“異常な状態”に慣れてしまうという危険

分断の流れを食い止めようとするメディアもある。ラジオ局「WNYC」のブライアン・レーラーさん。トランプ大統領の就任直後から「インディビジブル(分断されない)」という番組でホストを務めた。

トランプ派と反トランプ派、双方の声に耳を傾け、互いに理解できる部分を探ろうとしている。たとえばこんな具合だ。

「金は海外に持っていかれるし、仕事も奪われた」(トランプ派リスナー)。
「トランプ派は『職が失われた』と言っているけど?」(レーラーさん)。
「愛国心やアメリカに職を取り戻すことはいいことだっていうのは僕も同感だ。ただ、実際にトランプがやっていることは逆じゃない?」(反トランプ派リスナー)。

最も危険なことは分断や対立が深まる今の状況に人々が慣れてしまうことだと、レーラーさんは語る。

「トランプ疲れについて考える時に思い浮かぶのは、『norm(ノーム、標準的な状態)』『numb(ナム、無感覚)』という言葉です。例えば、トランプがとんでもないことをツイートした時、私たちメディアが無感覚(ナム)になってやり過ごすという選択も、確かにあります。しかしその一方で、トランプが特定のグループを侮辱するなどの許されない言動をした時、それをメディアが報じなければ、その異常な状態が社会の標準的な状態(ノーム)になってしまう。それを私は恐れています」

注目集める「食」を通じた融和への取り組み

社会の分断や対立を克服しようという試みは、さらなる広がりを見せている。注目されるのが、「食」を通じて、ユナイト=社会をつなげようという取り組みだ。

アメリカでは、貧富の格差も社会を分断する大きな要因だ。トランプ大統領の就任後、低所得の低い人などに、無料で食料を提供する活動が全米各地で広まっている。

活動が広がる背景にあるのが、トランプ大統領が5月に発表した予算案。主に社会福祉分野が予算削減の対象とされ、中でも、低所得者向けに支給される食料引き換え券「フードスタンプ」の受給者数を絞り込む方針に衝撃が広がっている。

ニューヨークの超一流レストランでは、NPOと協力して、これまで廃棄してきた食材を無料で提供する支援の輪を広げている。料理によっては、食材のごく一部しか使わないこともあり、大量に余ることもある。それを専用の冷蔵庫に保管、ほぼ毎日、NPOに回収してもらい、所得の低い人たちに届ける取り組みだ。この取り組みに参加するレストランは今やニューヨーク市内で60、増えているという。
また、ある食料配布の市民団体では、トランプ大統領就任後、ボランティアの申し込みが5倍にも増えている

呼び起こされた9.11の”負の感情”

分断克服の動きは、イスラム系の人々からも出てきた。彼らはアメリカへの入国を制限する大統領令などに不安を感じている、言わば“分断された側”だ。あるイスラム系慈善団体は、モスク周辺の住民に食事を届け、地域社会に溶け込もうという活動を始めた。9.11以降、アメリカ社会で疎外感を強めてきた自分たちこそが、分断に歯止めをかける存在になりたいという思いからだ。



グループの代表モハメド・バヒさんは、「トランプ就任は、この国で起こった第2の9.11だった」と語る。9.11直後、イスラム教徒に対する風当たりは最悪だった。ようやくその空気が薄れてきたのに、トランプの登場によって、当時の「負の感情」が再び呼び起こされたと感じているのだ。

その流れに抵抗する取り組みが、毎週金曜日に行うフードプロジェクト。地元住民と食事を一緒にとりながら互いに何でも話すことで、次第にポジティブな空気が生まれた。今もコミュニティを分断しようとする人はいる。が、その一方で、顔が見える関係になったイスラム教徒と地元の人々の間には、強い絆が生まれているという。

「今、アメリカには2つの力が存在しています」と、パヒさんは言う。1つは分断しようとする力で、それはこの社会にもともと存在し、今、勢いを強めている。もう1つが「多様性を重んじ、ユナイト(連帯)しようとする力」だ。

「お互いを認めて、わかり合いたいという人がたくさん出てきているのも事実なんです。分断を重んじる古い勢力は、確かに大きな力を持っていますが、希望を持たなければいけないと思っています。今の時代に一番大事なのは、希望を持つこと。それに尽きると思っています」

そう語るハビさんの表情には、強い信念が滲んでいた。こうした人々の草の根の力が、アメリカを変える大きなうねりになっていくのか。注目したい。

この記事は2017年7月13日に放送した「シリーズ トランプのアメリカを行く “トランプ疲れ”と分断を超えて」を元に制作しています。

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