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介護保険の大改革 カギは「自立」と「住民力」!?

介護保険の大改革 カギは「自立」と「住民力」!?

2017年7月27日

今年4月、介護保険の大改革が始まった。「要支援1・2」の人の介護予防や生活支援に、専門資格のない住民たちが関わることができるようになったのだ。その一方で、必要な介護を受けられなくなるのでは?という不安の声も上がっている。介護の現場で今、何が変わろうとしているのか。最前線から報告する。

「自立」と「住民力」で費用を抑制!?

大阪府大東市の公民館に軽快な音楽が流れる。集まったお年寄りたちが取り組んでいるのは、町オリジナルの体操、「元気でまっせ体操」だ。つまずいてけがをするなど、高齢者の日常生活のリスクを予防するよう考案された。市内100以上の体操グループで、実に1,900人が参加する「大ブーム」となっている。すべての運営は住民自身が行い、介護の専門職は参加していない。それでも効果はてきめんで、去年は要支援1や2だった高齢者135人の体調が改善し、認定から外れたという。

さらに、これまで日常生活の一部に支援が必要な「要支援1・2」の人たちへ介護保険で提供するサービスは、国で一律に決められていたが、市区町村がそれぞれの実情に合わせて判断。介護士やヘルパーなどの専門職が担ってきた生活支援は、今回の改革により、専門資格のない住民たちも参加できるようになった。高齢者が介護給付によるサービスだけでなく、多様な選択肢を得ることで、自立した生活を送れるよう促すのが狙いで、結果として、負担を軽くし、保険料の伸びを抑える効果を生み出す場合もあると考えられている。高齢者の自立を促し、住民力を結集して支える。この2つを総合的に進める改革は「総合事業」と名付けられている。

こうした取り組みによって、大東市では去年、住民参加の要支援向けサービス費用を1億2,000万円削減。更に今年は、その倍の2億4,000万円を削減できる見込みだ。その結果、住民1人が支払う介護保険料を、月300円以上抑制できると試算している。

「自立」のはずが症状悪化 取り組みに温度差も

しかし、うまくいくケースばかりではない。住民の理解が進まず、介護の担い手となる住民が不足していたり、地域によって温度差があるのが実情だ。「総合事業のモデル自治体」と言われる大東市でも、問題がないわけではない。

例えば、一人暮らしで要支援2の男性(83)の場合。足腰に痛みがあり外出は困難だが、去年までは週2回、送迎付きでデイサービスに通っていた。スタッフや利用者との交流が、孤独を癒やす支えになっていたが、総合事業が始まると、施設に頼っている限り自立が進まないと判断されたという。サービスが利用できなくなったことで、人と触れ合う機会がほとんどなくなってしまったのだ。

かえって要介護度が重くなってしまったケースもある。ある70代の男性は、支えがあれば自分で歩ける要支援1と認定されていたが、医師からは「悪化のリスクがある」との診断を受け、専門スタッフがいる施設でのリハビリを提案されていた。しかし自立を進めようとする市は、自宅でのリハビリを計画。男性は無理がたたって体調を悪化させ、リハビリへの意欲を喪失し、わずか1年で最も重い要介護5になってしまった。今は病院でほぼ寝たきりの生活になっている。

総合事業で報酬が下がるケースも? 理念実現へのカギは

総合事業が、介護を担う事業者を追い詰めてしまう事態も一部で起きている。住民参加によって、介護の専門職は、要介護度の重い人向けのサービスに比重を移すことができるはずだった。しかし九州のある自治体では住民参加が進まず、専門職が要支援1・2向けのサービスを続ける中で、要支援1・2向けのサービスの報酬が下げられているのだ。なぜそんなことが起きるのか。

今回の規制緩和では、報酬を各自治体が決められるようになった。専門的な技術や知識が求められるサービスを無資格の職員でもできるにしようというのが制度の狙いだが、自治体によっては単価だけが先に設定され、市民参加が十分に進んでいないため、要支援1・2の利用者へのサービスを止めるわけにはいかず専門職が安い単価で従事せざるをえない状況が起こってしまっているのだという。
 
では、要支援の人たちが自立できるよう住民力を活かすという理念を、どううまく実現させていけばよいのか。総合事業の制度設計に詳しい岩名礼介さん(三菱UFJリサーチ&コンサルティング・上席主任研究員)は「住民や事業者が、行政と一緒に自分たちで考えていける絶好のチャンスと捉える前向きな意識が大事」と指摘する。高齢者の自立支援についての提言を行ってきた在宅訪問医師の佐々木淳さん(医療法人悠翔会・理事長)も「忘れてはならないのは、私たち人間はいつか例外なく老いるということ。だから、弱って元気でなくても幸せに暮らせる社会を作っていく、皆がその当事者意識を持つことが大切だ」と、住民参加の意義を強調する。

「老い」が訪れた時、自立をめざしながらも互いに支え合える、そんな社会をどのように作っていけるのか。ひとりひとりが地域の「介護のあり方」を模索する時代にさしかかっている。

この記事は2017年7月19日に放送した「介護保険の大改革 住民力で費用を抑制!?」を元に制作しています。

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