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居場所がない子どもたち 知られざる“虐待入院”の実態

居場所がない子どもたち 知られざる“虐待入院”の実態

2017年8月1日

児童虐待が深刻さを増している。昨年(2016年)3月までの1年間の虐待相談対応件数は、全国でおよそ10万件。10年前のおよそ3倍だ。こうした中、子どもたちをさらに苦しめる新たな実態が明らかになった。虐待を受け、病院で治療を受けた子どもは、入院の必要がなくなれば親元に戻るか、施設や里親などで養育を受ける。しかし、元気になっても行き先がなく、そのまま入院を強いられる子どもたちがいるのだ。この“不必要な入院”を「クロ現+」では「虐待入院」と呼ぶことにし、その背景を取材した。

“虐待入院” 全国356人の衝撃

埼玉県立小児医療センター。ここには、親からの虐待を受けた子どもが数多く運ばれてくる。暴行で肋骨が折れたり、育児放棄で皮膚が変色してしまったりと、大半が痛々しい姿だ。ある赤ちゃんは呼吸が弱った状態で救急搬送された。幸い治療を終え、退院できるまでに回復したが、2週間近くたっても退院できずにいる。虐待が疑われるため親元に帰せず、受け入れる施設も見つからないのだ。こうした「虐待入院」を余儀なくされるケースが、いま各地に広がっている。

小児科医のグループが全国454の医療機関を対象に行った調査で、昨年(2016年)末までの2年間で、虐待入院を経験した子どもが356人いたことが分かった。そのうち詳しい回答のあった126人について分析したところ、虐待入院が1ヶ月以上の長期に及ぶケースがおよそ3割。最長で9か月近く入院を続けた子どももいた。年齢層も生後まもない乳児から中学生以上と幅広く、学校に行けなかったというケースもあった。

虐待された子どもを保護する責任を負うのは児童相談所だ。退院できるようになっても親元に帰すことができない子どもがいる場合、受け入れる施設や里親などの養育先を探す。しかし今回の調査では、「退院できるのに児童相談所が放置している」「児童相談所の対応に原因がある」といった声も数多く寄せられた。児童相談所で何が起こっているのか。

児童相談所長が語る “虐待入院”の背景

愛知県にある児童相談所、尾張福祉センターが「実情を知ってほしい」と取材に応じた。センター長の前田清さんが訴えたのが人材不足だ。昨年度、このセンターに新たに寄せられた虐待の相談件数はおよそ450件。5年前の2倍に上っている。これに対し児童福祉司は13人。1人が少なくとも年間およそ50の案件を抱えている。急増する相談に対し、児童福祉司の数が追い付いていないのだ。結果的に年に数件、2週間程度の虐待入院が生じてしまう現状があるという。


施設不足も深刻だ。愛知県内には児童養護施設や乳児院が43か所あるが、多くが入所率80%を超え、全く空きがない所もある。首都圏や大阪、名古屋も同様で、都内では7か所の保護施設のほとんどが定員いっぱいの状態だ。

さらに、施設に空きがあっても入所を断る場合があるという。背景にあるのが「小規模で家庭的な雰囲気の中で子どもを育てるように」という厚生労働省の要請だ。そのため施設側は、年齢構成や子ども同士の相性などを考慮し、条件に合わなければ入所を断らざるをえないという。埼玉県の児童養護施設の施設長・藤井美憲さんは、そのもどかしさを訴える。

「本来は入所する子どもを選んではいけないことになっているが、受け入れる条件が整わないと難しいところがある。本当は受けたいけど条件や状況からいって難しいというケースは受けられない」

病室で育つ子どもたち 心身への影響は?

虐待入院によって、社会と隔絶した病室で長期間過ごす子供たち。心身への影響が懸念されている。

関東地方のある病院。ここでも一人の赤ちゃんの虐待入院が続いている。育児放棄の疑いから保護されたが、乳児院や里親が見つからず、入院は半年近くに及ぶ。病院のスタッフが赤ちゃんの世話をできるのは、業務の合間だけ。食事や入浴などの時間以外はほとんど1人で過ごしている。

国の虐待防止政策に関わる小児科医の奥山眞紀子さん(国立成育医療研究センター・こころの診療部部長)は、発育への影響をこう危惧する。

「赤ちゃん場合、家庭にいれば適切な言葉かけがあったり、いろいろなおもちゃを使って遊んでもらったり、環境の変化がある。そういう刺激が発達に非常に重要だが、病院という限られた空間で刺激の少ない生活では、発達に影響を及ぼす危険性がある。また、子どもは1対1の人間関係の中で守られることを通して、『人を信頼する』という能力を身につけていくが、それができない。『この人は』という1対1の人間関係ができないということが、後にいろいろな影響を及ぼす危険性があると思います」

“虐待入院”の長期化を防ぐために

厚生労働省は虐待で保護した子どもを入院させる場合、その期間を最小限にすべきだとガイドラインで定めている。しかし、こうした事態までは想定していなかった。まず求められるのは、国による実態の把握だろう。国は今回の報道を重く受けとめ、虐待入院の実態調査を行うことを決めた。今後はさらに、虐待入院の長期化を防ぐため、受け入れ施設を探す具体的な期間を定める必要もありそうだ。

都市部では深刻な施設不足が起きているが、子どもが少ない地方には空きのある施設もある。都市部から自治体をまたいで子どもを預けることは可能だ。しかし、児童相談所の職員が、遠方まで定期的に子どもの面会に行くのは難しいと考え、あえて近くの施設で空きが出るのを待つケースも少なくない。一方、取材の中では、都市部の施設でも遅くとも2週間程度かければ空きを見つけられるという声も多く聞かれた。「手間がかかるから」といった児童相談所側の姿勢は、見直されるべきだろう。

小児科医の奥山さんは、里親を増やす必要性も指摘する。

「日本はこれまで施設に頼りすぎてきた一面がある。海外にくらべて、里親が非常に少ない。これから代替養育として里親をできるだけ増やしていって、子どもを受け入られるようにしていくことが重要な点だと思います」

4か月間、虐待入院をした女性は、自身の体験をこう語った。

「入院して救われたと思っていました。しかし、そばにいてくれる人も遊んでくれる人も、ゆっくり話を聞いてくれる人もいませんでした。本当に、本当にさびしかったです。」

虐待から救われても、虐待入院という形で苦しみが続くのは、明らかに理不尽だ。こうした子どもたちを救うために、一刻も早く動き出さなければならない。

この記事は2017年7月20日に放送した「知られざる“虐待入院” ~全国調査・子どもたちがなぜ~」を元に制作しています。

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