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「労働時間を2割削減へ」 電通の“働き方改革”に密着

「労働時間を2割削減へ」 電通の“働き方改革”に密着

2017年8月4日

過労が原因で若手社員が自殺し、長時間労働の実態を強く批判された大手広告会社電通。働き方の抜本的な見直しが始まっている。掲げられたのは、再来年度までに全体で労働時間を2割削減する改革案だ。しかしその一方で、顧客の要望にこれまで通り応えていけるのか、不安を抱える社員も少なくない。クロ現+では、適正な労働時間と効率性の両立を模索する電通の職場に密着した。日本社会が直面する「働き方改革」、いま何が必要なのか。

電通・山本社長「二度と労務問題を繰り返さない」

電通の新入社員だった髙橋まつりさん(当時24歳)が過労によって自殺したのは、一昨年(2015年)。遺族の弁護士によると、残業は多いときで月100時間を超え、仕事のストレスでうつ病を発症していたと見られることも分かった。髙橋さんの自殺をきっかけに、電通の労働実態は大きな社会問題となり、“電通ショック”として、多くの企業に衝撃を与えた。

母親の幸美さんは「娘は二度と帰ってくることはありません。死を無駄にしないためにも、影響力のある電通が改革を実現してほしい」と訴えた。

今年(2017年)7月27日、電通の山本敏博社長は、働き方を抜本的に見直す改革案を示した。NHKは山本社長に単独インタビュー、今回の事態をどう受け止めているのかを聞いた。

「振り返ってみれば、人の時間というものが有限、希少なものという認識が非常に希薄であったと思います。社員の健康を守るとか、あるいは法令を守ることに関していうと、一刻の猶予も許されない。トップ企業の電通がこういう問題を起こしてしまったことについて、その責任の重さを極めて重く痛感しています」

 

今回の違法残業事件について、厚生労働省は強制捜査を行い、検察庁は法人としての電通を略式起訴し、罰金刑を求めた。しかし、裁判所は7月12日、公開の法廷で審理するという極めて異例の決定を下している。

事件を受けて始まった働き方の見直し。その取り組みの現場を取材した。これまで長時間労働が課題となり、改革のモデル部署に選ばれた営業局だ。

戸惑う社員も 電通“働き方改革”の現場

渡邉雄平さんは、入社15年目の36歳。大口の顧客を複数抱えている。かつては、顧客のためなら徹夜もいとわず働くのは当然だったという。

「気がつけば朝が近かったりとか、築地(市場)が開き始めている時間なので、みんなで海鮮丼を食べて『今回は良くできたな』とか『結構きつかったな』という話をしていました」

そうした働き方を見直すため、まず取り組んだのが「残業時間の削減」だ。残業が半月で30時間を超えた社員には、白板の名前の横に黄色の付箋「イエローカード」が貼られ、定時の5時半に退社することが義務づけられる。月40時間を超えると「レッドカード」で残業禁止。それ以降の業務は部長が引き継ぐ。長時間働く社員を部署全体でフォローすることで、残業時間を減らそうという試みだ。

限られた時間を効率よく使うため、企画書の作り方も見直された。以前は、膨大な時間をかけ、細かな出来ばえにもこだわっていたキャンペーンの提案書。いまでは社内共有のシンプルなひな形を使い、作業時間を節約している。しかし、これまでと同じ成果を上げられるかは分からないという。

「最初は正直、消化しきれないというか、これでいいのかなという思いがあった。やっぱり(競合に)負けたら終わりみたいなところもあるので。現場としては、いい企画も作りたいし、勝ちたいっていう思いでやっているので。その中でどうやり方を変えたらいいのか、とにかく一個一個、模索している感じはあります」(渡邉雄平さん)

今回、電通が改革案で掲げたのは、再来年度(2019年)までに労働時間を全体で2割減らすという目標だ。そのために「社員・契約社員の増員」、「効率的な働き方を評価の対象にする」といった具体策が盛り込まれた。そのうえで、現在の利益水準は維持するとしている。

しかし一部の社員からは疑問の声も上がる。電通ではいま、午後10時に全館消灯を実施しているが、ある社員は実態をこう明かす。

「22時以降に上司がSNSを使ったりして、ちょっとした修正指示が入ることが多い。人によってはファミレスだったり喫茶店だったり、外で仕事をしている」。

業務量が変わらない限り状況は改善しないと訴える社員もいた。

求められる「リーディングカンパニーとしての責任」

こうした電通の働き方改革に対し、経営コンサルタントの髙城幸司さんは「まだ評価する段階にない」としたうえで、最終的なゴールは「残業時間の削減」ではなく、「生産効率の向上」にあると強調する。

「働き方改革には、大きく3つの段階があると思っています。まず1つ目が、残業時間の削減。これが今、電通がやっているステージです。その次のステージが、業務を見直し、効率化を図っていく第2段階。そして最終的には、その働き方を前提に、短時間で利益を生み出すビジネスモデルをつくるということ」

労働時間を削減しながらも、事業を縮小させず、社員たちの創造性を確保する。そうした働き方革命を進めるには、企業側の努力だけではなく、業界の慣習となっているクライアントとの関係性を改善する必要もある。髙城さんは「業界のリーディングカンパニーが率先、垂範していく必要がある。例えば、ヤマト運輸が配送時間の見直しを行ったように、業界のトップ企業が実践することで、全体の流れも変わってくると思う。電通が先頭を切って新しい働き方を示していく姿勢が重要だ」と指摘する。

「命より大切な仕事などない」。娘のまつりさんを亡くした髙橋幸美さんの言葉だ。過労死や過労自殺で労災認定された人は、ここ数年、毎年200人前後に上る。働き方改革は、待ったなしの命題なのだ。

この記事は2017年7月27日に放送した「密着・電通“働き方改革”はなるか?」を元に制作しています。

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