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高校野球の“怪物”たち 最多本塁打はなぜ生まれた?

高校野球の“怪物”たち 最多本塁打はなぜ生まれた?

2017年9月1日

この夏の高校野球は、2人の超高校級スラッガーが大きな話題をさらった。ひとりは、大会最多本塁打記録を塗り替えた広陵高校の中村奨成選手。もうひとりは、甲子園出場は逃すも、高校通算最多とされる本塁打数を更新した早稲田実業の清宮幸太郎選手である。そんな2人の長打力の秘密を探っていくと、類まれなる「素質」だけでなく、現代高校野球の劇的な「進化」が見えてきた。今年の夏の甲子園の総本塁打数は過去最多の68本。なぜこれほどまでに本塁打が急増したのだろうか。当事者たちの証言やデータから、その謎をひもとく。

既に完成形!? 広陵・中村奨成のバッティングフォーム

今大会、個人の本塁打記録を32年ぶりに更新した中村奨成選手。野球選手の動作解析の第一人者、筑波大学准教授の川村卓さんは、バッティング時の右ヒジのたたみ方に目を見張るものがあると分析、「高校生ながら、すでに理想的なフォームを身につけている」と舌を巻く。

広陵高校に入学後、すぐにレギュラーになった中村選手。しかし当時はまだ荒削りな選手だった。長打を狙うあまりバットを下から振り上げる「アッパースイング」のクセがあったという。「この打ち方、直るのかな」と思っていたという中井哲之監督は「入学したときのことを考えると嘘みたい夢みたいで、びっくりしかない」と語る。

飛躍のきっかけとなったのは、1年生の冬だった。野球部が「カチカチバット」と呼ばれる素振り用バットを独自に取り入れたのだ。このバットには移動する重りが、上下2つ付いている。うまく振れないとカチカチと2回音が鳴るが、テイクバックをしっかり取ってうまく振りきると、1回しか鳴らない。中村選手はこのバットを徹底的に振り込み、欠点を克服。バットのヘッドスピードが上がり、驚異的な長打力を身につけていった。

東の怪物 早実・清宮幸太郎の凄さとは

もう一人、超高級の力を見せつけたのが早稲田実業の清宮幸太郎選手だ。身長184センチ体重101キロという恵まれた体格。惜しくも甲子園出場こそ逃したが、8月25日に行われた日本代表合宿の練習試合では、これまで最多とされてきた高校通算のホームラン数を109本に更新した。

清宮選手の打力はどう培われたのか。中学時代、練習に使っていたバットは1400グラム。一般の中学生が使うのは800グラムだから実に1.5倍以上の重さだ。この特殊バットを自宅地下の専用練習場で振り込み、パワーとバットコントロールに磨きをかけた。
中学時代から清宮選手に注目してきた筑波大学の川村さんは、高校3年間で “下半身の使い方”が格段に進化したと言う。「1年生のときはインパクトの瞬間、右ひざが伸びきっていました。ひざが伸びていると、バットが下から上の軌道になりやすい。でも、3年生の清宮選手は、スイングに対してひざが負けていない。これは股関節がしっかり耐えられているということで、バットが水平のままボールの下に入れることができます。ミートのミスが少なく、速いボールにも対応できるようになっていると思います」

2年連続で熊本の秀岳館高校を甲子園に導いた鍛治舍巧監督は、清宮選手の強さについて、「松井秀喜選手と同じようにボール球を振らない、徹底マークされても崩れない、あと、あれだけ騒がれているのにプレッシャーにならず、むしろそれを励みにするという心の強さがあります」と、技術だけでなく精神面での強さを高く評価する。

増えるホームラン 減る送りバント 高校野球の戦術も変化

今大会の総本塁打は、過去最多の68本。これまでの夏の甲子園のデータをひもとくと、10年前は3番から5番の中軸にホームランが集中していたが、今大会は1番から9番まで、すべての打順でホームランが出ていることが分かった。

背景には、高校野球の「戦術の変化」がある。ホームラン数が過去最多となった一方、送りバントの数は、これまでの最多本塁打を記録した平成18年大会と比べると、3割近く減少している。ノーアウト一塁で2番バッターが打席に立った場面では、平成18年は7割以上が送りバントを選択していたが、今年は5割以下。積極的な打撃を仕掛けるチームが増えているのだ。

秀岳館高校の鍛治舍監督は、「ノーアウト一塁でバントを選択する場合と、強攻する場合の得点率は、データ的にはほとんど変わらない。バントでアウトを与えるより、打って出たほうが相手へのダメージが大きいと考える指導者も多い」と話す。

打撃力を高めようと、練習に本格的な筋力トレーニングを導入する高校も増えている。今大会、準決勝に進んだ東海大菅生高校は、去年からグラウンドでの練習を減らし、週に1日、筋力トレーニングに専念する日を設けた。重視したのは、ボールを遠くに飛ばすために不可欠な下半身の強化だ。「尻回り100センチ以上」をめざして毎晩、米や麺などの食事を1キロ食べ切ることを徹底。その結果、今大会で最も多い5人の選手が、合わせて7本のホームランを打ち、チームは初のベスト4に進んだ。

進化を続ける高校野球 変わる“超高校級”の定義

現在、野球の本場大リーグでは、『フライボール革命』が起きている。ダウンスイングでボールを捉えるというこれまでの打撃理論とは真逆の考え方で、フライを打ち上げるほうが、打撃成績がアップするという考え方だ。今季は大リーグ全体でホームラン数が急増しており、日本のプロ野球でもフルスイングする打者が人気を集めている。球界全体が「打ち勝つ野球」をめざす流れになっているのだ。

「超高校級」という言葉の定義も変わってきた。140キロを投げるピッチャーは増え続け、いまでは150キロを投げる選手も珍しくない。打順に関係なくホームランが飛び出すダイナミックな試合も増えている。100年以上続く高校野球は、新しい指導方法やトレーニングによってさらなる進化を続けているのだ。よりパワーアップした “超高校級”の選手たちが、日本の野球をどのように変えていくのか、これからも目が離せない。

この記事は2017年8月28日に放送した「高校野球の“怪物”たち 最多本塁打はなぜ」を元に制作しています。

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