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人生最後の社会貢献 ”遺贈”  日本を変える力となるか?

人生最後の社会貢献 ”遺贈” 日本を変える力となるか?

2017年9月12日

遺産を公益団体などに贈る”遺贈”を選ぶ人が増えている。子どもがいない夫婦や“おひとりさま”が増えるなか、財産を疎遠な親族に残すより、社会に役立てたいとの思いからだ。東日本大震災後の寄付意識の高まりや終活ブームも相まって、日本でも寄付文化が根付くと期待が高まる一方で、遺贈に合意しない家族とのトラブルになるケースもある。自分らしい人生の締めくくり方として、”遺贈”は定着するのだろうか?

故人の思いを伝える ”遺贈”という選択肢

遺贈寄付、いわゆる「遺贈」とは、遺言書などで自分の意思を示し、死後に遺産の一部、もしくは全部を、応援するNPOや企業などに寄付することをいう。金額の制限はなく、数万円から数億円の遺贈も可能だ。国の調査では、遺贈される額は年間300億円ほど。件数は急速に増加している。そこには「生きた証しを残したい」「感謝の気持ちを伝えたい」といった故人のさまざまな思いが込められている。

30年以上保育士として働いた女性は、3,400万円の遺産を「子どもたちのために使ってほしい」と寄付、遺産は保育園の絵本の購入に充てられた。動物園に通うのが好きだった男性は、動物園を運営する市に遺贈。チンパンジーの遊具などの購入費に使われた。別の男性は親友の働く地元の科学館へ遺贈。そのお金で購入した天体望遠鏡を使って、天体観測会が開催されるようになり、市民から人気を呼んでいる。

故人の思いを家族がくみ取り、相続した遺産を寄付するケースもある。4年前にがんで亡くなった加納典子さん。周りには同じがんを患う人がおらず、孤独を感じていたという。「同じがんを患った人同士で悩みを話し合える会があればいい」と日記に書き残した典子さんの遺志を継ぎ、夫の伸晃さんは、典子さんの遺産の一部を地元の財団に遺贈。それを元に、同じがんを患う患者の会や、働くがん患者の会が設立された。参加者からは「加納さんのおかげで会が出来て、本当にありがたい」など、数多くの感謝の声が寄せられている。

故人の願いを遺贈によって実現させた夫の伸晃さんは「自分は残念だったけれども、いま皆さん方が、そういう気持ちにならなくて、互いに支え合っていくことができる。(妻は)喜んでいると思います」と語る。

広がる遺贈、その理由は…?

一部の資産家にとどまらず、一般にも広がっている遺贈。自身の人生の集大成として、社会貢献を考える人が増えているのはなぜだろうか。遺贈を考える人たちをサポートする「全国レガシーギフト協会」で副理事長を務める鵜尾雅隆さんは、子どもがいないなどで相続する人がなく国庫へ納付される遺産を、別の道に活かしたいと考える人の増加を指摘する。東日本大震災以降、社会の役に立つために何ができるかを考える人が増えているのだ。
「生きているうちは、老後どのぐらいお金が要るか分かりませんから心配ですけど、亡くなる時だったら、それを生かして社会貢献しようということが出てきている感じがします」

遺贈に関心はある。でもどこに贈ったらよいのか。そんな人に向けた無料の相談窓口も全国各地に開設され、希望に合わせた遺贈先団体を紹介している。また、活動資金の多くを寄付に頼るNPOや慈善団体も、遺贈の受け皿になる体制づくりを進めている。遺贈を受け入れる際の注意点を学ぶセミナーにスタッフが参加、効果的な情報公開方法などを学んでいる。

自分の思いを自分で選んだ相手のために生かせる遺贈。実際に遺贈する人はまだ0.1%にも満たないが、鵜尾さんは、今後広がる可能性は高いと言う。ある推計では1年間に発生する相続は約40~50兆円、「全国レガシーギフト協会」の調査によれば、シニア世代の約2割が遺産の一部、または全部を社会貢献のために寄付してもいいと考えているというのだ。また遺贈は、受け取る団体側にもとっても大きな意味があるという。

「たとえ少額で10万、20万であっても、人生の集大成に寄付先として選んで頂いたということが、受け取ったNPOにとっても、すごく頑張って、これをしっかり生かしていこうとなっていくことがあると思いますね」

相続権利のある遺族とのトラブルを防ぐポイント

一方、高齢者の間には、遺贈を巡る家族とのトラブルを心配する声も多い。遺贈に詳しい弁護士の樽本哲さんは、トラブルを防ぐ2つのポイントとして「自分の意思を遺言書で明確に示すこと」「妻や子どもなど、法律で定められた相続人が持つ、遺産の一定額を受け取る権利を考慮すること」をあげている。
「遺言書に、自分がなぜ遺産の一部を寄付しようと思ったか、その気持ちを家族へのメッセージとして書くことができます。これを『付言事項』といいます。これがあることによって、遺贈を知った家族が、なぜその遺贈をしたのかという気持ちが分かって、心情的に納得できる。ない場合は、なぜ遺贈したのかということを疑って、もしかしたらだまされているんじゃないかと心配してしまう可能性があります。また、法律で認められた相続人の遺産に対する取り分のことを『遺留分』といいます。例えば4人家族の場合、配偶者が4分の1。お子さんたちがそれぞれ8分の1の遺留分を持っています。これを侵害するような遺贈をしてしまうと、後に家族とトラブルになってしまうことがあります。」

遺贈は、次世代と社会に願いを託す贈り物

鵜尾さんは、遺贈寄付は「次世代への心の贈り物」だと表現する。

「お子さんやお孫さんたちにとっては、おじいちゃん、おばあちゃんがしたことが誇りになって、人生の中で大変な時でもそれが支えになったり、地域の子どもたちが、子ども図書館のようなものを見て、地域のおじいちゃん、おばあちゃんがこういうことしてくれているんだと感謝をしたりする。そうした世代を超えた助け合いみたいなことが、日本でどんどん定着していく、そういう意義があるような気がします」

遺贈とは、いわば「自分が去っていく社会に願いを託すこと」ではないだろうか。人生の最後の贈り物で、少しでも社会をよくしたい。その思いが広がれば、遺贈は日本社会を変える力になるかもしれない。

この記事は2017年9月5日に放送した「広がる“遺贈” 人生最後の社会貢献」を元に制作しています。

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