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トップAV女優の突然の死、彼女が残したメッセージとは?

トップAV女優の突然の死、彼女が残したメッセージとは?

2016年12月8日

ことし8月、元AV女優の「紅音ほたる」さんが、持病の喘息を悪化させ32歳という若さで亡くなった。1,000万枚以上のDVDを売り上げるトップ女優だったほたるさんは、8年前の引退を機に日本だけでなくアジア各地で性問題に関する啓発活動を行い、亡くなる直前まで多くの若者たちの悩みと向き合い続けていた。

トップAV女優に引退を決意させた「ある言葉」とは?

大阪出身のほたるさんが女優になったのは19歳のとき。激しい演技で人気を集め、すぐに1,000万枚を売り上げるトップ女優の仲間入りを果たした。

ところが、自分の仕事に誇りを持っていたほたるさんは、その地位を捨ててまで、性に関する啓発活動に踏み出す決意をする。それは、あるファンの言葉がきっかけだった。

“あなたの演技が誤解を与え、若い人を傷つけている”

アダルトビデオが間違った性知識を広めていると知った彼女は女優を引退後、自ら社団法人を立ち上げ、その誤解を解く活動を行い、性について悩みを抱える女性たちの声に耳を傾け続けた。当時、若者たちを対象にしたシンポジウムで、彼女はこのように話している。

「AVを作っている側と見る側の全然意識が違う。それがはっきり分かったとき、これはすごい大変なことだと思った。あれを、自分の性生活に取り入れちゃうとか、彼女にしてしまうと、もちろん心が傷ついてしまう。なので、絶対にAVを教科書にしないでほしい」

さらに引退してから亡くなるまでの8年間、彼女は渋谷の街頭に立ち続け、1万5,000人以上の若者に直接コンドームを手渡す活動を行っていた。現在、教育現場の中にも、彼女の啓蒙活動を支持する人は多いという。

ほたるさんが訴える「日本の性教育」の問題点

現在、ほたるさんが寄稿した本『中高生からのライフ&セックス サバイバルガイド』は、全国の学校に広がりをみせている。

小中学校でも性の問題をタブー視すべきではないというほたるさんは、「触れづらいことは触れないという態度を取り続けていたら、事態は悪くなるだけ。子どもたちの性を問題視するのであれば、真正面から向き合ってほしい」と、現在の性教育にも警鐘を鳴らしていた。

長年、性教育に力を入れている佐賀県の中学校で養護教諭を務める白濵洋子さんは、「中学生はそういう時期じゃないと集団として扱わず、性のことで悩んでいる子どもが1人でもいるなら、そのことにちゃんと向き合える大人が身近にいることが大切」とほたるさんの気持ちを代弁し、もっと多くの学校が彼女の訴えに耳を傾けるべきだと語る。

5,000人の“痛み”、声なき声に向き合う

ほたるさんは引退後、女性限定のインターネットサイトを開設し、タブー視されがちな性に関する相談を受け付けていた。その数は確認されているだけでも5,000人を超えている。

ほたるさんはサイトを通じて1人1人に丁寧に返信し、時には直接会って相談に乗ることもあった。自分が主催したイベントで気になる女性がいれば「いつでも相談して」と連絡先を渡していたともいう。なぜそこまでして彼女は、女性たちの“痛み”と向き合おうとしたのか?

その理由のひとつに、子どものころから多くの苦しみを抱え続けてきた彼女自身の過去がある。両親の離婚をきっかけに、小学生のときからうつ病を発症。AV女優になってからも、虚像と実像の間で苦しみ、再び重いうつ病を患っていた。

ほたるさんは、自分が苦しんでいたからこそ、女性たちの家族や友人にさえも打ち明けられない痛みに気付くことができたといえる。実際、ほたるさんの言葉に命を救われたという女性は少なくない。

画像の説明

(ほたるさんが運営していた女性限定サイト)

女性たちを悩ます「言語化できない痛み」

5,000人以上の女性たちが、なぜ彼女に救いを求めたのか。その背景を探っていくと、そこには誰にも相談できずに苦しみ、孤立してしまった女性たちの姿が見えてくる。ノンフィクションライターの飯島裕子さんは、女性たちが孤立してしまう理由を大きく分けて2つあると分析する。

ひとつは、女性たちの多くがいまの状況を自己責任であると思い込んでしまう傾向にあり、相談をしたところで「それはあなたの責任だ」と否定されるのを恐れ、なかなか悩みを打ち明けられないということ。

もうひとつは、現在社会の「関係性の貧困」が影響しているとし、いちばん身近な存在の家族や友達との関係が希薄になりつつある状況が、女性たちの孤独をさらに悪化させていると指摘する。

いまも多くの女性たちを悩ます「言葉化できない痛み」。ほたるさんの死は、多くの人に衝撃と悲しみを与えた一方、現代社会の知られざる問題点を浮き彫りにした。しかし、女性たちを傷つける “歪んだ性”との本当の闘いは、まだ始まったばかりといえる。

この記事は2016年12月8日に放送した「アジアが泣いた AV女優の死 ~歪んだ“性”と闘う~」を元に制作しています。

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