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フェイクニュースは「自分たちの代弁者」 岐路に立つメディアの役割

フェイクニュースは「自分たちの代弁者」 岐路に立つメディアの役割

2017年5月1日

4月20日、パリで起きた銃撃事件の直後、SNS上には「イスラム教徒がパリのテロ攻撃を喜んでいる」とする動画が拡散した。しかし、実際は2009年にクリケットの試合に勝って喜ぶパキスタン人の映像を使ったフェイクニュースだった。アメリカ大統領選で大きな注目を集めたフェイクニュースが、フランスでも席巻している。嘘と事実を混在させた巧妙なフェイクニュースが拡散する背景には、「自分たちの声を伝えてくれない」という思いを抱く人々の存在があった。

「見たかったニュース」を見たい

移民の受け入れが大きな争点となっているフランス大統領選。第1回投票では、移民に寛容な姿勢を示すマクロン前経済相が、移民の受け入れに否定的な極右政党・国民戦線のルペン候補をわずかに抑えた。しかし、選挙中、ソーシャルメディア上では候補者を中傷するものだけでなく「イスラム教徒の高校生の多くが過激派」「フランスの国境に難民が押し寄せている」など、移民に対する不安をあおるフェイクニュースが次々と現れた。

一体何のために、フェイクニュースを作っているのか。フェイクニュースとされた記事を発信したマイク・ボロスキさんに話を聞くことができた。彼は、大学を卒業後、6年前から独自のニュースサイトを立ち上げ、みずから記事を書いている。時には、事実とは異なる記事を意図的に書くこともあるという。ボロスキさんは、「今のフランスには偏った情報源しかない。さまざまな角度からの情報を提供することが大事」と話し、既存のメディアは人々が直面する現実を伝えていないと主張する。

さらにそうしたフェイクニュースが広がる背景にあるのは、社会の格差の広がりだ。都市と地方、学歴、階層などの形で、収入格差が広がっているのだ。大統領選での投票数も、西部ではマクロン候補が支持され、東部ではルペン候補が支持されている。東側では失業率が高く「移民ばかり優遇して自分たちのことは振り返らない」と思う人が多い。そして、主要メディアは自分たちのことをあまり取り上げてくれないといった不満を抱えている。そういう「不満」をもった人たちに、フェイクニュースは突きささっていく。

法政大学准教授の藤代裕之さんは、「自分たちの声がマスメディアによって伝えられていないと考えている人たちにとっては、フェイクであっても、まさに見たかったニュースを見ることができる。フェイクニュースは、私たちの代弁者なんだという側面で拡散していく」と話す。

民主主義の基盤を崩すフェイクニュース

フェイクニュースは選挙にどのような影響を与えるのだろうか。北海道大学教授の遠藤乾さんは、主体的な意見で判断して投票する、民主主義の基盤が崩される危機に直面していると警鐘を鳴らす。

「フェイクニュースは、漫然とウェブ上を流れているのではなく、SNS上のアルゴリズムの作用で、個人の好みに的確に合わせた形で打たれている。自分の主体的な意見に基づいて判断しているような気になっていても、実はかなりの影響を受けたうえで、見たいものを見て、信じたいものを信じる中で判断している可能性がある」

フェイクニュースが選挙に影響を及ぼすのを防ごうと、フランスでは、新聞社や通信社、テレビ局などを中心に、30以上の団体が合同で「クロスチェック」というプロジェクトを立ち上げた。フェイクニュースの可能性がある記事について、インターネット利用者からの報告をもとに記者が共同で事実確認を行い、検証結果をサイトで公表している。

また、9月に選挙を控えているドイツでは、インターネット上で差別感情をあおるようなヘイトスピーチやフェイクニュースを取り締まる法案を閣議決定した。責任を問われるのは、フェイスブックやツイッターなどの企業側。問題のある投稿について利用者からの通報を受け付け、明らかに違法な内容は24時間以内に削除することなどが義務づけられている。違反した企業は、最大で5,000万ユーロ、日本円でおよそ60億円の罰金が科される。しかし、政府の取り締まりに関して“言論の自由”をめぐり、激しい賛否の声があがっている。

つくれるか?健全な言論空間 

ドイツのように政府による規制は、政府にとって都合がいい情報ばかりがネット上にあふれてしまう危険性やインターネット上での自由な議論が妨げられる恐れがある。法政大学准教授の藤代さんは「マスメディアやネット企業が共同でファクトチェックを進めていく方が、フェイクニュース対策には有効である。いまやニュースは、マスメディアだけが伝えるものではない。メディア、ネット企業、ユーザーが一緒にネットの自由で健全な言論空間を“共に創る”考え方が必要だ。」と話す。

フェイクニュースの生まれる背景の1つには、「自分たちの声を伝えてくれない」そういった人々の存在があることが見えてきた。クローズアップ現代+も、自由で健全な言論空間を創るために、多様な声に真摯に向き合っていきたい。

この記事は2017年4月26日に放送した「選挙とフェイクニュース ~揺れるヨーロッパ~」を元に制作しています。

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