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終わらない風評被害 「安全なのに売れない」福島のコメ

終わらない風評被害 「安全なのに売れない」福島のコメ

2017年6月1日

原発事故から6年が過ぎた福島。かつては東北有数の米どころだったが、生産量は、事故前の4分の3に減少したままだ。福島県産の米はすべて放射性物質に関する検査を続けていて、2015年以降、国の基準値を超えるものは出ていない。それにも関わらず、福島県産の米は全国平均と比べて安い価格での取引が固定化している。大きな要因のひとつとされるのが風評被害。「安全なのに売れない」その実態に迫る。

奨励品種を飼料米へ転用する現実

新たな福島県の主力品種に育てたいと期待がかかっていた「天のつぶ」。15年以上の歳月をかけて開発されたが、今、飼料米に転用されている。南相馬市で50年間農業を営んできた佐藤茂久さんは、「原発の風評被害だな、一番は。飼料米に取り組まざるを得ない」と話す。

こうした飼料米作りは国の政策で進められている。中国などで牛肉の需要が高まり、家畜の飼料代が高騰。現在、そのほとんどを輸入に頼る日本は、飼料米作りの支援に力を入れている。佐藤さんは風評被害で将来が懸念される中、飼料米への転用を踏み切った。飼料米の買い取り価格は1キロ当たりわずか30円。佐藤さんが金銭面で頼っているのは、飼料米作りに支払われる国からの交付金、約200万円で、一般的な米作りと変わらない収益は保証される。しかし、佐藤さんは農家としてのやりがいを見出す難しさとその葛藤を吐露した。
「本来は農家だから主食用として、良いものを作って高く売りたい。原発のせいにしたいけどな。前向き、前向きって今までやってきたから、今もそのように考えながらやっていかないとダメかなと思ってる」

6年の歳月がたった今でも続く風評被害。何が起きているのか。

「安全なのに売れない」 風評被害の新たな実態

現在、福島で生産される米の3割は福島県内で流通。残りの7割は首都圏など、県外の業者を通じて、全国の小売りに出回っている。首都圏に次いで、福島県産米が大量に流通しているのが沖縄だ。その福島の米を一手に引き受けている卸売業者は、安全だとされたにもかかわらず、小売り店との取引は大きく減少したままだという。特に一般家庭向けの販売は事故前の5分の1に減った。

一般家庭用向けへの販売が減った福島県産の米の価格は、多いもので2割ほど下落。今では、コンビニのお握りやお弁当、レストランで使用される加工品などの業務用としての扱いが増えている。高い品質にも関わらず、全国平均と比べ安い価格での取引が固定化している。

福島県産の米は、流通の過程で産地そのものを隠すことも常態化している。米の産地表示に関する法律では、福島産のみ使用した単一原料米の場合は県名の表記が必要だが、ブレンドした複数原料米では、国内産という表記だけで流通できる。そのため、原発事故後、福島県産と他県産の米を混ぜ合わせた「ブレンド米」として出荷されることが増えたという。
大手コンビニチェーンのパッケージには、福島県内向けには福島産の表示があるが、他の東北5県向けの商品には、国内産と表示されている。中身もパッケージの表記も、大手コンビニからの指示によるものだという。

流通業者と消費者 ギャップの背景

2015年に福島県外に住む9,500人に調査したところ、福島県産の食材を避けている人はおよそ2割、産地を気にしないという人が8割に達している。それでも「福島県産」と表記して出荷することができない。その背景にあるのは、小売り業者の“認識のずれ”にあると指摘するのは、風評被害のメカニズムに詳しい東京大学大学院特任准教授の関谷直也さんだ。
「震災直後は、放射性物質が大量に飛散したので、多くの人が不安に思うことは当然だったが、今はある程度回復してきて、拒否している消費者は2割ほどしかいない。ところが、流通業者の人たちの中で、まだ多くの人が不安に思っているのではないかという、認識のずれがまだ残っている」

福島県では、原発事故の翌年から県内で生産された米、すべての放射性物質に関する検査を続けている。その基準値は、米1キロ当たり100ベクレル。国際的な安全基準をもとに定められていて、2015年以降は、この基準を超えるものを出ていない。さらに現在は福島県産の米の99.9%が、基準値よりもはるかに低いND(Not Detected)。検査機械では放射性物質が検出できないレベルになっている。しかし、そのことを知っている人は、実は2割も満たず、8割以上がその事実を知らない。

関谷さんは「福島県内の場合、全量全袋検査を知っているのは9割にのぼり、検査結果の99.9%がNDと知っているのは6割。ある意味、不安なため積極的に知り、かつ、それを消費しようと考えてきた。しかし、福島県以外の地域の方々は、何となく大丈夫と、詳しく認識しないまま何となく消極的に受け入れているのが現状」と分析する。

実際、番組には「安全が確認されているのなら進んで購入する」という声が寄せられた。安全が確認されている事実が消費者に伝わっていないことが見えてくる。

福島が行っている世界一厳しいといわれる検査体制とその結果を知り、客観的な情報に基づいた判断をしていくことで、風評被害をとめられる。クロ現+も福島をはじめ、放射能に関して知りうることは、正確に伝えていきたい。原発事故前のように、店頭に“福島産”と表記された米が並ぶには、わたしたち自身の意識を変えていくことが欠かせない。

この記事は2017年5月24日に放送した「『安全なのに売れない』~福島“風評被害”はいま~」を元に制作しています。

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