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会社が社員にしがみつく!?「大量離職時代」をどう生きる

会社が社員にしがみつく!?「大量離職時代」をどう生きる

2017年6月7日

社員が会社にしがみついていた時代は、もはや過去の話。人事の最前線では、会社があの手この手で社員をつなぎ止める「リテンション(保持)」という取り組みが注目されている。労働環境の改善からノー残業手当、辞めそうな社員を「AI(人工知能)」で見つけ出そうという試みまで出始めている。前代未聞の大量離職時代、若手社員の意識の変化とは?

バブル期超えの売り手市場、社員の意識は「給料より休み」

最新の有効求人倍率は、なんとバブル期超えの1.48倍を記録。大卒新入社員の3年以内の離職率は30%を超え、激しい人材獲得競争が続いている。新入社員が会社に求める条件も大きく変化した。民間の調査会社によれば、今年初めて「残業なし・休日の増加」を望む意見が「給料の増加」を上回ったという。

労働経済学の専門家・安藤至大さん(日本大学准教授)は「最近のブラック企業の問題もあって、若い人が危険な職場を意識的に遠ざけている」と推測し、売り手市場という状況も離職率を上げる原因のひとつだと話す。

同じような人手不足は過去にもあった。高度経済成長期の真っただ中の1960年、日本の失業率は約1%の深刻な人手不足に陥っていた。当時は社員の引き止め策として、年功賃金・退職金制度が機能していた。しかし、現在はそうした離職抑制策では歯止めがきかなくなっているのだ。

そこで新たに注目されているのが、企業による「リテンション」という取り組みだ。もともとはマーケティング用語のひとつで、近年は人事の世界で「社員を辞めさせないための戦略」という意味で使われている。リテンションを取り入れる企業は、年々増加の一途をたどっている。

「ノー残業手当」で社員を引き止めろ!

年商560億円の大手紳士服販売チェーン「はるやま」も、3年前から本格的なリテンションを導入している。この会社では入社3年以内の離職率が3割を超えたこともある。新人育成には年間およそ500万円の費用がかかるため、社員が稼ぎ手になる前の離職は会社としても大きな痛手なのだ。

リテンションの一環として、転勤が限られる新しい社員制度を設け、業務の削減にも取り組んでいる。今年からは残業の少ない社員に、最大毎月1万5千円を支払う「ノー残業手当」まで導入した。結果、新卒3年以内の離職率は11ポイント改善し、平均残業時間は去年に比べて14.3%減少。残業を減らしたことによる売り上げへの悪影響も、今のところは出ていないという。

しかし、リテンションによる問題点もある。離職率が減った一方、中堅社員のモチベーションの低下、若手社員の仕事を上司が肩代わりするという状況も見られた。安藤さんは「上司や管理職が仕事を抱え込みすぎないよう、労働時間の把握と管理を徹底することが大切」と改善を促しつつも、「若い人が働きやすい環境をつくるには、こうした中堅社員たちの働き方を変えていく必要がある」と、中堅社員たちが率先して改革を進めるべきだと指摘する。

人工知能が「辞めそうな社員」をあぶりだす?

リテンションにAI(人工知能)を応用する会社も現れている。都内にあるオンラインゲームのユーザー分析を行う会社では、そのノウハウを生かして、社員が離職する確率をAIで予測するプログラムを開発した。

予測のもとになるのは、社員たちの「出退勤時刻や打刻忘れ」などの勤務データだ。これまでに辞めた社員たちの膨大な勤務データをAIで分析・パターン化し、似たような傾向を持つ社員を特定することができる。あくまで可能性を割り出すプログラムだが、その的中率は90%に上る。AIに特定された社員は、そのあと集中的にリテンションの対象になるという。

さらに、辞めそうな社員の配置転換をAIが提案することも可能だ。過去に活躍した社員タイプと配置部署を「成功パターン」として記憶させ、ある部署で辞めそうな社員がいれば、その過去データと照合することで、AIが適切な配置転換を提案してくれるというのだ。

こうしたAIによるリテンションは、上司の負担を軽くするメリットがある。安藤さんは「上司になるようなタイプは、能力、意欲、体力があるという、いわゆる“デキる人”が多い。すると、普通の人である部下とのギャップは大きく、気持ちが理解できない、望んでいるものが分からない、という状況に陥りやすい」と言い、社員の働きぶりを観察し、配置を考えるというかつて上司がしていた仕事は、これからはAIが担っていく可能性があると予測する。

いいことばかりではない?リテンション時代の“落とし穴”とは

働き方の選択肢が広がり、条件のいい職場が得られるなど、労働者にとっては良いイメージのリテンション。しかし、安藤さんは「良い面ばかりではない」と釘を刺す。「昔は長期雇用を前提として、会社が主体的に労働者を育ててきました。しかし、最近は会社側がそこまで長期的な視野に立つことができないため、労働者自らが自分のキャリアを築いていく必要があります。そういう意味では、労働者にとっては厳しい時代かもしれません」

労働環境が改善されていく一方、自分自身のキャリア形成を企業に頼れなくなった現代の労働者たち。そうした個人個人のキャリアを支援する仕組みづくりも、これからの社会が考えていくべき課題のひとつなのだ。こうしたリテンションという流れは、少子高齢化で働き手が少なくなる日本において、社員一人一人の働き方、やりがい、そして生き方そのものを、企業や私たちがもう一度考え直す良い機会なのかもしれない。

この記事は2017年6月1日に放送した「会社が社員にしがみつく!? ~大量離職時代をどう生きる~」を元に制作しています。

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