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避難指示解除から1か月あまり。 帰還を阻む野生動物の脅威

避難指示解除から1か月あまり。 帰還を阻む野生動物の脅威

2017年5月23日

3月末から4つの町村で始まった「福島第一原発事故」に伴う避難指示の解除。しかし、帰還した住民たちを待ち受けていたのは、“野生動物”たちだった。白昼堂々と歩く巨大なイノシシ、民家の屋根にはニホンザルの群れ、そして空き家を棲家にするアライグマ……。人がいなくなった町に住み着いた野生動物たちは、その生態を変えていた。

“新世代イノシシ”が登場、帰還をあきらめる住民も

2017年4月。避難指示解除から2週間後の福島県浪江町には、徐々に人々が戻り始めていた。しかし、そんな人々のすぐそばを歩いていたのは、重さ100キロを超える巨大イノシシ。住宅街を白昼堂々と歩き、取材班を見ても逃げるどころか近づくような素振りをみせた。

本来、イノシシは警戒心が強く、夜に行動することが多い。それにも関わらず、なぜ昼間に町中で活動しているのだろうか。福島県の野生動物対策の担当者、溝口俊夫さんは「人がいなくなった土地で繁殖を繰り返すことで、山での暮らしを知らず、人を恐れない“新しい世代”のイノシシが誕生している」と話す。

「3世代、4世代ぐらいは世代交代している。母親を中心として群れで生活をするイノシシは、母親から“町は大丈夫”という教育を受けている」

人がいなくなった6年の歳月は、野生動物の習性や生態を一変させた。こうした新しい世代のイノシシが、民家のガラスや扉を突き破り、蓄えていた食糧を食い荒らしている。町に出没するのはイノシシだけではない。人を恐れないキツネ、田畑を荒らすニホンザル、空き家を棲家にするハクビシンやアライグマ。特にアライグマは、原発事故の前はこの地域で生息が確認されていなかったが、いまやその数を急速に増やしていた。東京農工大学産学官連携研究員の奥田圭さんは、「アライグマは人に害を及ぼす寄生虫などを保有している可能性があり、ふん尿が住居にあると、そこから何かの拍子に人間に経口感染してしまうリスクが高い」と、その危険性を指摘する。

こうした状況から、帰還をあきらめる人たちも一部にでてきた。原発事故以来、ふるさとで暮らす日を心待ちにしていた蒔田郁子さんは、「今は、もう動物が、こっちの主にみたいになってる気がする。帰りたいけど帰れない」と話す。野生動物たちによって荒らされ、破壊されていく家や畑。その被害の積み重ねが、まさに住民の帰還を拒む要因となっているのだ。

「人間と野生動物」の闘い

イノシシ被害に悩む原発周辺地域では、イノシシを捕獲して数を減らす対策に乗り出している。捕獲頭数は年々増加し、去年(2016年)は約8,400頭。しかし、まだ数万頭以上が生息しているといわれ、正確な数は把握できていない。さらに最近では、捕獲の難しさも問題になっていた。

大部分の地域で避難指示が解除された福島県富岡町では、4年前から地元の猟友会に依頼し、町に生息するイノシシの駆除を続けている。町中では流れ弾の危険性があるため銃を使うことはできない。その代わりにエサのついた大型の檻を町中に仕掛け、イノシシを生きたまま捕獲している。ところが、最近になってイノシシが罠にかかりにくくなったという。富岡町の鳥獣被害対策実施隊の阿部忠義さんは、「イノシシ自体が状況を見て、罠を回避するようになった。かなり学習能力が高くなっている」と話す。

そこで新たな一手として注目されているのが、フェンスで住民の家や畑を敷地ごと囲み、イノシシの侵入を防ぐ方法だ。フェンスに弾力性をもたせることで、イノシシが体当りしても壊れない仕様だという。1軒あたり数万円かかる設置費用はすべて国の補助金で賄われ、一定の効果があるとして、浪江町では先月(4月)から積極的にフェンスの導入を進めている。

しかし、このフェンスはイノシシには有効だが、アライグマやサルなどはフェンスを乗り越えてしまうので、侵入は防げない。鳥獣の特徴にあわせたさらなる対策が必要になる。

国や東京電力 十分ではない野生動物対策

野生動物の問題は、原発事故によって、人が町から離れざるを得なくなったことにより引き起こされた。しかし、原発の廃炉、放射性物質の除染、そしてインフラの復旧作業などは、国や東京電力が取り組んでいるが、それらと比較すると野生動物対策は「まだ手付かず」といえる状態のまま。東京電力の損害賠償も、野生動物への被害を想定した仕組みにはなっていない。復興庁などが行った住民の意向調査では、帰還するか迷っている住民は4つの町村で1割から3割ほどに上る。原発事故でふるさとを追われた人たち、そして、町に戻ったものの不安を抱えながら暮らしている住民が、当たり前の日常を取り戻すために、こうした野生動物の問題もまた償わなければならない1つの大きな被害である。

人を恐れず、町に住むことを学んだ野生動物を森へ帰すには、長い時間がかかる。県では、講習会を通し、野生動物対策のノウハウを持つ人材を増やそうとしている。原発周辺の自治体を中心に参加し、例えばイノシシがどんな習性をもつのか、どこにフェンスを置けば効果的なのか等の具体的な対策を学び、地域の実情を踏まえた対策をとれるよう取り組んでいる。

また、東京農工大学産学官連携研究員の奥田さんは、「いま、福島で起きていることは、人口減少が進む日本全国で起こる可能性がある」と指摘する。福島が取り組む課題に全国の人々が関心を寄せて向き合うことは、今後、各地で起こり得る野生動物の問題を乗り越えるカギになるのではないだろうか。

この記事は2017年5月17日に放送した「原発周辺の町 あふれる野生動物 ~避難指示解除で何が~」を元に制作しています。

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