2016年04月05日 (火)

研究用原子炉運転できず人材育成に影響深刻

K10010468141_1604051941_1604051942_01_03.jpg

東京電力福島第一原子力発電所の事故のあと原発の規制が強化された影響で、大学などの研究用の原子炉もすべて運転できない状態が続いています。この結果、原発や廃炉の安全を担う人材の育成に深刻な影響が出ているとして、大学教授らが国の原子力委員会に窮状を訴えました。

大学や研究機関などが所有し学生や研究者の教育や実習に使われている研究用の原子炉は、すでに廃止されたものなどを除くと全国で12基あります。
ところが、福島第一原発の事故の教訓から原発の規制基準が見直され、地震や津波といった自然災害への対策を強化するよう義務づけるなど一般の原発に準じる厳しい規制が課せられた結果、出力の小さなものも含めすべての研究炉で運転できない状態が続いています。
これを受けて日本原子力学会に所属する大学の教授などが国の原子力委員会を訪れ、東京大学の上坂充教授は、「震災の前に研究炉を使っていた学生や研究者はおよそ1700人いたが、今は海外の装置を使ったり研究テーマを変えざるをえなかったりする学生も出ている」と述べて、将来の原発や廃炉の安全を担う人材の育成に深刻な影響が出ている現状を訴えました。
研究炉の規制を巡っては原子力規制委員会も審査のスピードアップを図っていますが、大学などでは人手や予算の制約から対応に時間がかかっていて、日本原子力学会では規模に見合った研究炉の規制の在り方を国に提言することにしています。

全国の研究炉と新規制基準

全国の大学や研究機関などが所有する研究用の原子炉のうち影響が報告された12基は、福島第一原発の事故発生当時はいずれも現役の施設として人材育成に活用されていました。
その後、原発事故の教訓を踏まえて平成25年12月に施行された新しい規制基準では、こうした研究用の原子炉も一般の原発に準じる安全対策が義務づけられました。
この中では、地震や津波、竜巻などの想定を従来より厳しくし、機器が災害に耐えられるかどうかを一つ一つチェックしたうえで場合によっては追加の対策をとることが必要になるほか、比較的出力が大きい研究炉については安全設備が機能しない場合の対応も定めるよう求めています。
さらに、地震や断層などの研究成果や海外でのトラブルなど、建設当時は分かっていなかった最新の知見に基づいて対策を義務づける「バックフィット」と呼ばれる制度も導入されています。
原子力規制委員会では現在進めている8つの研究炉の審査の迅速化を図っていますが、それぞれ構造が違ううえ大学側も対応に時間がかかり、運転再開にこぎ着けた研究炉はまだ1つもないのが実情です。
これについて原子力規制委員会の田中俊一委員長は記者会見で「審査に時間がかかりすぎている。審査は必要だが、早急に進むようにはからっていきたい」と話しています。

京都大学原子炉実験所とは

大阪・熊取町にある京都大学原子炉実験所は2基の原子炉があり、原発の安全などのほか放射線を利用した研究や教育に利用されてきました。
このうち、出力5000キロワットの「KUR」と呼ばれる原子炉はおととし5月、最大出力が100ワットと比較的小さい「KUCA」という原子炉は、おととし3月にそれぞれ停止したままです。

新規制基準の影響は

およそ2年間にわたって運転再開できていないのは、いずれも新しい規制基準で地震や津波、竜巻などの自然災害や火災などへの対策を大幅に強化することが義務づけられたためです。
このうち「KUCA」は、出力は家庭用の白熱灯1つがつく程度ですが、火災に備えて遠隔操作で消火用のガスを噴射する装置を新たに取り付けたほか、電源を失うことがないように専用の非常用発電機を設け、しかも、風速92メートルの竜巻に耐えられるようにする必要があるということです。
京都大学によりますと、2つの原子炉はことしの夏から秋にかけてようやく運転再開できる見通しですが、新しい規制基準では、地震や断層などの研究成果や海外でのトラブルなど新たな知見が得られるごとに対策に反映させるよう義務づけられているため、再び運転ができなくなるおそれがあるということです。

教育・研究に深刻な影響

研究炉の停止が長引いていることで、研究や教育に深刻な影響が出ています。京都大学の三澤毅教授は、「KUCA」を使い、福島第一原発の事故で溶け落ちた核燃料をどう安全に取り出せばいいか研究してきましたが、現在、ストップしています。
三澤教授は「装置が動かせないので、コンピューターによるシミュレーションでしか評価することしかできず、一刻も早く核燃料を使った実験を進めたい」と話しています。
三澤教授は原子力規制委員会の審査のための書類の作成なども担当していて、「研究炉の安全性を一から見直す必要があり、限られた人手の中での対応は非常に大変だ。核燃料を使う装置なので、安全性に対して厳しい審査を受けるのはやむをえないが、出力100ワットの研究炉を原発と似たような基準で規制するのは少し厳しく、出力に応じた対応もあるのではないか」と話しています。
さらに京都大学原子炉実験所は、年間のべ5000人を超える国内外の学生を受け入れるなど人材育成に力を入れてきましたが、原子炉が動かないことで学生の研究や教育がストップするといった影響も出ています。
予算が限られているなか、対策にかかる費用も頭の痛い問題で、京都大学原子炉実験所の高橋千太郎副所長は、「原発を今後どうしていくかは国や社会が決めることだが、少なくとも今、動いている原発や福島第一原発の廃炉を担うためには、非常に多くの人材が必要なことは明白だ。研究炉がこの分野の人材育成に必須の装置だということを国や関係者に理解してもらい、制度面や財政面で支援してほしい」と話しています。

投稿者:かぶん |  投稿時間:18:55  | カテゴリ:科学のニュース
コメント(0) | トラックバック (0)


トラックバック

■この記事へのトラックバック一覧

※トラックバックはありません

コメント(0)

※コメントはありません

コメントの投稿

ページの一番上へ▲