2016年10月06日 (木)

ノーベル賞 大隅さん夫妻 会見全文

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ことしのノーベル医学・生理学賞の受賞が決まった東京工業大学栄誉教授の大隅良典さん。今月4日、妻の萬里子さんと夫婦で記者会見に臨み、受賞決定の喜びを語りました。会見の全文をお伝えします。

研究者としてこの上なく光栄

(大隅良典さん)
このたびはノーベル医学・生理学賞を受賞することになりまして、研究者にとってはこの上もない光栄だと思っております。きのうから、30いくつかのインタビューを受けているので、もう言いたいことは尽くしたと思っておりますが、ひと言申しあげたいのは、私たちがずっと進めてきました、酵母を使ったオートファジーの研究っていうのは本当にたくさんの私の研究室の仲間たちが支えてくれた結果でありますし、私はたくさんのすばらしい共同研究者と友人に恵まれたことに心から感謝したいと思います。ずっと東大の教養学部、医学部、基礎生物学研究所、そして東工大に移りまして、ほぼ8年を迎えようとしています。そういう環境で自由に研究ができたということも恵まれたことだと思っております。皆さんに心から感謝を申し上げたいと思います。ありがとうございました。

(萬里子さん)
苦手なものですから正直何を申し上げたらいいのか分からないですけども、いつも主人は私をいろいろだましたりからかったりするんですね。それできのうも『ノーベル賞だよ』と言われたから『本当?』って言って、またうそかなと思ったんですけど。本当になって、心底驚きました。本当に研究を認めていただいたということに対して心から本当に感謝申し上げたいと思っております。そして今まで主人を支えてくれた研究のお仲間たちに、心からのお礼を申し上げたいと思っております。どうもありがとうございました。

質疑応答

Q ノーベル賞受賞おめでとうございます。一夜明けて、今の率直は気持ちは?

(大隅さん)
実はきのう知らせを受けて以来、ずっと、こういうあれで実は本当にきのうは3時間ぐらいしか寝ていないので、まだ本当に実感がわかないというのが正直なところです。自宅に帰って酒でも飲み始めたらなんとなく実感がわくのかなと思っています。

Q ノーベル賞の受賞が決まったことについて奥さんとどんな会話をしましたか?

(大隅さん)
先ほど会ったのが初めてなんです。それでうちのワイフがどんなことを思っているのか分からないので、あんまり話が弾んだわけではありません。

Q ノーベル賞を受賞した大隅さんと会見に出席して、今の気持ちは?。

(萬里子さん)
やはり大変なことが起きたなと実感しております。どうにか元気でこの行事をすべて乗り越えていっていただきたいと思います。きのうカナダの方からお電話をいただいて、正直どなたなのか分からなかったんですけども、「コングラッチュレーション!」という言葉をいただきましたので、やっぱり全世界からこうやって祝福していただける、すばらしい賞なんだなとしみじみ実感いたしました。私も2時間しか寝ておりませんので、正直頭がぼ~っとしておりますので、このへんで失礼します。

Q きのう大隅さんから受賞の話を聞いてなんと言ったのか?

(大隅さん)
きのう、スウェーデンから電話があって、決まったという話を受けましたんで。なんとなく思ったより早い報告だったんで、私は1時間くらいたってから決まったよと言ったら先ほどのとおりで『え、ほんと?』と言うので。本当に1分くらいの会話で電話切りました。それだけです。

Q 大隅さんはうそをつくとありましたが、ふだんからそういう感じなのでしょうか?

(萬里子さん)
私が何でも信じるタイプなので、主人はまともに話さないというタイプです。

Q 今回の電話でうそじゃないかと思ったんですか?

(萬里子さん)
はい、『ほんと?うそ?』って。

Q 大隅さんはどう反応したんですか?

(萬里子さん)
よく聞こえなかったんです。外にいたので、出かけてほかの仕事をしていたので、家に帰りました。6時半が発表だっていうんで、どなたか記者の方がユーチューブやってらして、それで教えてくれました。

Q 大隅さんは奥さんをなんと呼んでいますか?

(大隅さん)
名前で呼ぶべきだっていつも言われるんですがなんとなく気恥ずかしくて。あんまり夫婦って、実を言うと、呼ばないといけない局面って2人だったらないので…あまりお互いに呼ばないんじゃないかと思うんです。

Q 奥さんを呼ぶことはないんですか?

(大隅さん)
公のときにはときどき気恥ずかしい思いで名前を答えるんですけど、普通は…。

Q 奥さんは大隅さんをなんと呼ぶんですか?

(萬里子さん)
同じです。ちょっと、とか言って。

Q 大隅さんのお宅は亭主関白みたいな感じですか?。

(大隅さん)
私がわがままをしていることは自覚していますけども、そんな理不尽なことはしていないと思っています。

Q 実験対象として酵母にこだわってきた。酵母とはどんな存在ですか?。
(大隅さん)
サイエンティフィックな話をすれば、分子生物学がバクテリアで始まって、そのあとを引き継いだ酵母は私たちの体の細胞のモデルとして最もすぐれた生物だと私は思っていますし、実際そういう役割を果たしてきました。小さな酵母の細胞は体の基本原理は解けるんだと信じてやってきました。酵母は世界中でよってたかってみんなで研究している材料なので、すばらしくたくさんの情報が蓄積しています。そういう意味で、ものすごくいろんなことが自由にやれる生物で、やっぱりいったん酵母やると、なかなか酵母から離れられないというのが私の気持ちです。もちろん動物細胞とか、植物の大きな細胞を見たり、もっと高次の生命現象みると『あ~おもしろいな~』と思いますが、私は細胞生物学者として細胞の基本原理は酵母でとけると信じてつきあっているということがあります。もう1つは酵母の恩恵にずっと、アルコール、お酒というのが大好きで。そういうことも、酵母は大腸菌とちがってとってもいい香りがするので、そういう意味では実験材料としてもとってもいい実験材料なんだと思っています。

Q 萬里子さんはどうですか?

(萬里子さん)
私の時代は、やっぱり女性が子育てしながら仕事するというのはとっても難しい時代、私が研究していたというのはわずかなぶつ切りの時間でしたが、途中で酵母を扱ったのはやっぱり取り扱いは簡単だったということなんですね。しかも、教育などにも酵母というのは教えやすいんですね。また、私も日本酒が好きなもんですから酵母に愛着がありまして、昔は大腸菌をやっていましたが、大腸菌よりも酵母がよかったなと思います。

Q 2人もお酒が好きということで、九州の酒では何が好きか教えてください。
(大隅さん)
私は何でも飲むんですが、たびたび醜態も演じていて、日本酒を飲んで潰れたんで、日本酒だけは警戒心があります。あとは何でも飲んでいますが、このごろはウイスキーを飲むというのがいちばん自分にあっているのかなと思います。
(萬里子さん)
私は節操がないので、そこの場でおいしい酒があればそれだけで…。

Q 中学の時の文集にカタカナで「ポンツク・ポンスナ」と書かれたそうなんですが。

(大隅さん)
全く覚えがありません。

Q 大学院時代に奥さんと知り合った。奥さんの研究への理解度、またどんなところに感謝していますか?。

(大隅さん)
人間の出会いってまさしく出会いなので、私は運命の出会いとしか言いようがないと思います。私が所属していた研究室の部屋に、2年後輩として彼女が来たのがきっかけです。それ以来40何年付き合っていて。本当に感謝しているのはいろんな意味で…深刻な意見の対立とか私たち2人はあんまりなくてですね。お互いにいい加減なところもあって、お互いになんとなく認めあえてきていると、過ごせてきたと。本当にある意味で空気のような存在としていたり、お互いにあったと私は思っています。彼女が思っているのかは分かりませんが。そういう存在だったというふうに思っています。そういう意味では、いろんな意味で支えてくれたと思っています。もう1つは…2人の息子がいるが、2人の息子に育児にどれくらい関わったかというと…とっても所在ない気分なんですけど、とても動き回って身軽にいろんなことをこなしてくれて、主婦と仕事をずっと続けていましたし、そういう意味ではよく働いてくれたことに大変感謝しています。

Q 12月の授賞式には夫婦で出席しますか?。

(大隅さん)
はい。

Q 大隅さんの魅力は何でしょうか?。

(萬里子さん)
いつの話でしょうか?(笑)

Q結婚された当時です。

(萬里子さん)
見かけどおり穏やかで。いつもわりににこにこしている感じなので、そういう意味では一緒にいて心が落ち着きます。だけどいい加減なので、いろいろと私の困ることありますけど、耳を貸さないもんですから。私がいい加減といったら、友人が『それは良い加減のことなのよ』といわれたので、そう考えることにしようと、どうにか良い加減でやってこれたかなと思っています。

Q 基礎生物研究所での13年間の研究、どのように研究を進めたのですか?

(大隅さん)
東大の共用研究科が基礎科学研究所を設立する、それはオートファジーの研究展開するためにとってもありがたいいい時期だったと思っています。私は13年単身赴任をしましたので、さきほど妻に言われたように、大変いい加減なので、自分で食事を作ろうと思っても何日かしか続かず、たいていは飲み屋で夕御飯を食べてよく生活をしていました。ちょうど13年ぐらいが潮時だったかもしれないというので、東京に戻ってこようということで。東大にお世話になる以前にこちらに戻ってこようと覚悟して、関東圏に戻ってきたというのがあります。ただ、単身で、全部の時間が何でもできることも、ある時期には私にとってよかったのかなと思ってもいます。

Q 身の回りを自分でやって大変でしたか?

(大隅さん)
それこそ洗濯物もたまりにたまって、掃除もほとんどしないというような、考えてみればすごい生活してたなと思いますけど。まあ健康だったのが大変ありがたかったと思っています。

Q 離れていた期間はどうでしたか?

(萬里子さん)
私の母のことがありまして大隅は単身赴任したんですが、そういう意味では13年よく頑張ったなと思います。私は健康がいちばん心配だったんで、時々は週末行っていたんですけど。部屋はめちゃめちゃでしたし。けれども元気で、職住が近かったので、研究環境がすばらしかったんじゃないかなと思うんですね。とてもいい研究室の皆さんがいらしたので、幸せそうにやっていましたので、頑張ってほしいと思うつもりでおりました。

Q 学生さんに配っているという四つ葉のクローバーはどういう意味があるんですか?

(大隅さん)
私はときどきぷらぷらっと構内を歩くの好きで、不思議なことに東工大は四つ葉がたくさんあるんですよ。私、なぜか知らないけどとっても見つけるのがうまくて、10歩ぐらい歩くと5つくらい見つかるのが私の特技なんだそうなので。ただ歩いているよりも、下向いて探している方が好きなので、そういうことをした結果としていっぱい集まったのを皆さんにあげてきたということで、四つ葉のクローバーが特別好きというわけではありません。

Q これまでの研究で困難だったことはありますか?。これからの日本の科学と研究体制についてどう思っていますか?

(大隅さん)
研究者というのはいっつも楽しいことばかりではない、わけのわからないこともずっと多いと思います。私がいちばんつらかったのは留学時代だったんじゃないかと思います。大腸菌をやっていた人間が、マウスの受精卵の仕事をして、10の10乗ぐらいの細胞から10個ぐらいの細胞を。まだ生物学が進歩していない時代で、とってもおもしろいけど何をしたらよいかわからなくて、大変な時代もありました。そのあと実は、酵母に出会ったのも不思議なことにロックフェラー大学というのが大変幸運だったと思いますし。その後も、別にこうしたらうまくいくよと思ってずっと続けていたわけでもありません。ただ、オートファジー関して言いますと、それだけは、こうなったらいいと思ったことがそのとおりだったので、その点ではラッキーだったなと思っています。そういう思ったとおりということはあまりなくて、思ったとおりでないものに格闘するほうが、私は実を言うと自分でも好きなので。そういう意味で、オートファジーの研究のとっかかりは、とてもラッキーだったと思います。ただ、そのあとのオートファジーの遺伝子って何やってるか分からない時代が続きましたので、その時代も『こんなことやってて』と思ってた人もいるかもしれないし。ただ、そういう時期がず~っと続いたということでもなくて、花開く時期がそのあとあったので、耐えられたんだと思います。その後の質問はとっても大事な問題で、私はマスコミ受けするとしたら、今、ノーベル賞学者がたくさん出てるから日本はすごいんだというのはとっても間違っていて。そういうことがずっと続く、次から次へとそういう若い人が生まれてくる体制を作ってくれないと、日本の科学は空洞化するよという危機感を非常に強く持っています。そういうことにあと何年か現役でいる間は、かなりの自分の力をさいてみようと思っています。若い人が少しロングタームでですね、2年間で何するというのではなく、まずは大きな問題設定ができて、こんなことにチャレンジしたいということが5年10年ぐらい先まで若者が考えて。もちろん日々は具体的なことというのに左右されますけど。こういう問題を解きたいんだと若い人たちが本当に思えて、そういうことをサポートするような社会の雰囲気というのがとっても大事なんだと思っています。科学はいま役に立つことがとっても問われていますが、役に立つというのは非情なもので。役に立つというのが、来年、薬になったということだと、13年後に薬になったというとらえ方されると、本当にベーシックなサイエンスは死んでしまうと思うので。人間の長い歴史の中で、私たちがどんなことを理解していったらいいかっていうふうに思うかということをとても大事にする社会。科学を人間の文化だと思って、社会が支えてくれるような、研究者も私たちはそういうのに支えられていると自覚するような時代に来ているのではないかと私自身は思っています。

Q 基礎科学的な研究に資金がつきにくくなっているなど、具体的なことはありますか?

(大隅さん)
それはそのとおりだと思っています。ただ文科省もそれなりに努力してくださっていると思っていますし、科研費のシステムがむちゃくちゃだとも思いません。ただ、絶対枠が不足しています。最近の海外の研究者を見ることがあるんですけども、やっぱり圧倒的に日本はそういうところにお金が流れていないということを思います。ケンブリッジ大学に先日行きましたけども、圧倒されて言葉がありませんでした。こんなところで若者が研究できるんだったら、本当にいろんなことの可能性が広がるなと思って。そういう意味では、日本の大学はプアだと思っています。なので、私は今のような財政事情が厳しいとかっていうことが言われる中で、もっと社会全体が支えて基礎科学を支えてくれるというようなシステムができること以外に、あまり解決方法がないのかもしれないと真剣に思っていて、そういうことを少し考えてみたいと思っています。

Q 大隅さんはどんな存在ですか?

(萬里子さん)
なんてお答えてしていいかわかりませんけど、さっき彼が言ってましたみたいに、空気みたいな存在というか。かなり価値観とかが同じなんですね。だから『こうしよう』というと『ああ』という感じで。そういう感じで今まできました。お互いに『これが大変』『こうしなくちゃ』とかそういう感じが全くないんですね。目の前にきたことを『こうしようか』『はい』というような感じできましたんで。自然体でずっと2人でこられたなと思っています。

Q きのうは大隅さんは自宅に帰れなかったそうですが、帰ったらどんなご飯を作りたいですか?

(萬里子さん)
全然ぜいたくな人ではないので、和食を、ご飯とお魚とおみそ汁で十分だと思います。

Q 大隅さんは?

(大隅さん)
きのうの昼ぐらいから実はオートファジー状態なんですが。気が張っているのか、食欲はありません、それがいつ回復するか私もわかりませんけども、とにかくビールでも飲みたいなというのが私の正直な気持ちです。

Q 朝、ネクタイが赤い色だったのですが、ブルーになったのはなぜですか?

(大隅さん)
彼女がうちから持ってきてくれたので。ネクタイだけでも変えなよとくれたので、変えました。

(萬里子さん)
まともなのがこれだけだったんで。すぐにしみをつけるんで…もう…。

Q 時間ができたら2人でしたいことはありますか?。

(萬里子さん)
別にあの…庭仕事ですね。草をとったり、枯れ葉をはいたりとか、そういうのが好きみたいで。家にいるとそればかりやっています。

(大隅さん)
ちょっと寂しい気もしますけど…。2人とも植物が大好きで、植物から私はいろんなことを学んできたと思っていますし、そういうのが近くにあるような生活をしたいなとは思っています。

Q アメリカに行くことでの魅力はありますか?

(大隅さん)
私の留学はとってもつらい時代だったので、成果を全くあげられなくて、日本によく職があったな、とそういう意味では感謝しているんですが。海外留学はそこで何を達成したかということじゃないんだと思っています。若い人に異文化に接する機会があってというのは大事なので、それは学会にいったというだけではなかなか達成できなくて、むこうで生活してみる経験がとても大事で。やっぱり欧米の人は議論が好きで、いくらでも議論が、私は留学時代にそういうい経験をあんまり積まなかったので、英語もとってもつたないんですが。とことん議論をしようよという人たちの集団だなと、海外に行くと感じます。そういうことが日本の大学も、そういうことを大事にできる環境作りをできたらいいなと思っています。とにかくよその国がどう展開、例えば中国に行くと考えさせられることがたくさんあって。どうやったら日本独自のサイエンスができて、中国に対抗できるだろうかということも、これから若い人たちは考えないといけないと思います。外の文化に触れることと、よその国がどういう考えでサイエンスをしているかということを、若いうちに知っておくという意味で、留学はとっても大事なんだと思います。

Q 海外へ拠点を移すということは考えたことはありますか?

(大隅さん)
今でも中国では「おいでよ」と、この年でも言ってくれているんですが。オートファジーの世界というのは日本の中で本当に大きく花開いていて、世界をある意味でけん引している分野、数少ない分野だということを思っています。そういう分野がいくつも日本で育ってくれることがとっても大事なので、この年になってということもありますけど、海外に拠点を持ちたいという思いは全くありません。

Q 科研費が全体的に少ないなどの課題がありますが、現状をどう受け止めていますか?

(大隅さん)
本当に、そういう意味での基礎研究を支える、昔、講座費というのがあって、少なくともすべての人が何かをやろうと思えばやれたっていうことがあった時に、科学研究費、補助金というのは、ベースあがるときに補助をするというのが精神なんですけど。今は、自分でかせいできなさいということになってきていて、かせげない人は年に数万円しかありませんという。東大であれ、東工大であれ、いろんなもの引いたら、研究費がほとんどないということになっています。科学の進歩には本当に広い裾野あって、いろんなところから小さい芽が育っていくことなしには大きな塔が立つというのはないと思っています。大きなお金がなくても、もっともっと心ある研究者にお金が少しでも回るというシステムがとっても大事だと思っています。今の科研費だったら、その基盤研究だと思いますけど、今の採択費ではもらえる人はもらえるけど、もらえない人は、もらえないというスパイラルに陥ってしまったら絶対もらえないというシステムができあがりつつあるのが、大変憂うべき事態だと思っています。やっぱりチャレンジするのは、必ずしもうまくいかないことも伴っていくので、そういうときには敗者復活のシステムを研究者自身が持っていて、もう一回チャレンジがあるということは当たり前というふうに。いつも成功しなさいと言われれば、小さいことを選ぶ以外にないので、それで日本のサイエンスがどんどんどんどん小さくなるということが問題なんだと思っています。

Q 大隅さんが若いころと、システムが違いますか?

(大隅さん)
本質的に、私たちの時代が豊かだったとは必ずしも思いません。ただ精神的には、今、若者を取り巻いている状況はとってもフラストレイティブで、「なんとかなるさ」ということは非常に言いにくい時代になっています。日本社会全体の問題かもしれませんけども。科学というのは精神的なゆとりから、全部とは言いませんが、そういうことがとっても大事なものだというふうに思っています。なので、そういう意味で、今のほうが精神的にはとっても貧困な時代で、なかなか若い人が大学院のドクターまで進もうと決意するのがとても難しくなっているということを感じています。それは「あなたたちがけしからん」ということでは解決が付かないので、それはそういうシステムを我々のジェネレーションが何としても変えていくのが私たちの義務だと思っています。

Q 政府に対し、社会に対し、求めていきたいことはなんですか?

(大隅さん)
もちろん、文教予算って大きいようで、戦闘機を1台買ったお金を考えると、たいしたことではなくてですね、額を今の倍にすることくらいは日本の国力から見たらなんでもありません。「研究する人が自分でメリットのために研究しているんだ」と社会全体が思ったら、「やる人が勝手にお金を稼ぎなさい」となってしまうので、その点は文科省に要望したいと思っています。もう1つは、アメリカのカリフォルニア大学でも、州からきているお金は17%です。ドイツのベーシックサイエンスを支えているマックス・プランク研究所も50%くらいは政府の資金です。そういう意味で、日本の社会は、私はずっと国立大学にいたんで、ベーシックなサイエンスは特に国が支えると信じていました。ただ、はたと思ったら、そういうことは近年の日本の科学がそうだったというだけで、サイエンスは社会全体が支えてくれるものだし、それに応えるのが科学者の責務なんじゃないかと思っていて、企業もものすごいたくさんの留保金を持ってますし、海外の大学にものすごいお金を出している10分の1でも、日本の大学に出してくれたら、日本の大学は本当に変わると思っています。そういう意味で、もう少し科学の情勢を冷静に見て、何がいちばん有効なことなのか、考えてみたいと思います。

Q 2人の息子さんへの連絡はしましたか?

(大隅さん)
連絡一切していないので、分かりません。

(萬里子さん)
息子たちからは、『おめでとう』と電話はありました。ただ『応対が下手だから、もっと練習しなさい』と言われました。

Q 大隅さんはどんな父親でしたか?

(萬里子さん)
朝から晩まで真夜中に帰ってくるような生活をずっとしていましたから、子どもたちが小さいときに、子どもたちに向き合って一緒に遊んだりというのはほとんどなかったと思います。虫が好きなので、虫採りはつきあっていましたが。今になってみると、今頃は父親の背中を見て、まあよしとしてくれているんじゃないかなと思っています。

Q クローバーをプレゼントするようになったのは東工大に来てからですか?

(大隅さん)
そんなに他意はありません。たくさん見つかるので、みんなにあげるよっていうことです。見つかったことは実は楽しいので、歩きながらでもぱっと目に入っていうことは楽しいです。

Q 若者へのメッセージをお願いします。

(大隅さん)
大学生諸君と小学生へのメッセージは違うと思います。子どもがなんでも疑問もって親に聞くっていうことは、皆さんも経験すると思いますけども、まさしくサイエンスはそういうものだと思っていて。だんだん知ったような気分になってって、基本的な疑問みたいなのを忘れていくのが大人になっていくということのような気もしますので。若い人には、疑問に思ったりおもしろいなと思ったことは、どんどんやってみようと。そういう経験を持ってくれたら、将来そういう人が科学者になってくれるんじゃないかと思っています。大学生、院生諸君に申し上げるとすれば、ばら色に見えることが、大学の先生がみんな留学して、ヒーヒー言いながら、『あまり楽しいことじゃない』っていう姿を目にしてしまうと、まあいいやって思うところもあると思うんですけど。自分のやりたいことをやれるっていうのは人生のいちばんの楽しみで、1回しかない人生なので、チャレンジしてみるのもいいんじゃないのと、それくらいしか私は言えませんけども。親を説得するのも、今の時代はとっても大変なんだということを私も理解していますけども、それはやっぱり自分でなんとしてもやりたいよと、自分の中で固めてくれることが、今の日本の大学院生の諸君が抱えてる問題は、そこの決意を新たに頑張ってほしいなということですね。

Q 自身の研究は国や社会からサポートされてきたと考えますか?。

(大隅さん)
その点に関しては私は幸せだったと思います。研究っていつもばく大なお金がいるわけではありませんで、私が東大にいた時は数人のラボでしたから、それなりのお金があればよかったということで。研究費がすべてのネックになったことがなかったということは、本当に幸せで、ここ13年、特別推進研究ということで大きなお金のサポートをいただいてましたから、その点に関しては全く文句を言う筋合いはないということです。

Q 研究の環境、日本とアメリカ、中国、韓国と比較してどうですか?

(大隅さん)
いちがいには言えませんが、例えばアメリカと日本で装置がどれくらいあるかというのは、日本が貧しいわけではありません。ただ、日本のシステムは個人研究になっていて、なかなかみんなでシェアしながら共有しながらというシステムができませんね。ケンブリッジにに関しても、私びっくりしたのが、ケンブリッジに行って、ファシリティみたいなのをめちゃくちゃ作って、若い人は何でもそこで使えるというような、そういうことにお金がかけられている、そういうお金のかけ方が、もう少し研究者自身も提言をして、変えていくということで。もっと有効利用できるお金の使い方ってあるんだろうと思っています。そういう意味では、若い人が自由に自分の発想で研究できる環境ということでは、日本は欧米に比べると遅れていると思います。

Q 研究を辞めて、支えようと思った理由とは?。

(萬里子さん)
支えようというのではなくて、子育てのためです。職もない時代なので、私が働いて子育てをしたというわけです。

Q そのころ博士論文を抱えていたということで、特に支えたということもありますか?。

(大隅さん)
私は浪人でしたから…。

Q 奥さんが支えていたということですか?。

(萬里子さん)
あんまり肩ひじはってどうのという感じではないんですが、結婚したとたんに子どもができたんで、子育てのために私がやらなくちゃいけないんで、ちょうどある研究所ができるという広告を見たんで、それに応募して採用されました。

Q 自分でももっと研究をしたかったという思いはありますか?

(萬里子さん)
たぶん、きちんと能力がある方はそういう中でもちゃんと勉強なさってできたと思うんですけど。私はそれほど能力がなかったので、子育てするのに精いっぱいですから。その時やれる仕事についたという感じで、研究職はそんなにやっておりません、ぶつ切りで。

Q 女性で研究者を目指す若者にメッセージを。

(萬里子さん)
思う存分やれるときにやってほしいなと思うんですね。私は若気の至りで早めに結婚してしまいましたので、勉強できるっていうのは、できる時代があると思うんですね。きちんと勉強していれば、その後の人生は違ったのではないかと思うんですが。私は勉強することを放棄してしまったので、チャンスがあったら若い女性の方にはぜひきちんと仕事をして、できれば自分の幸せも実らせていっていただきたいと思います。見ていますと、すごくそういう女性が増えているので、期待しております。

Q 大隅さんから奥さんへの感謝の言葉をお願いできますか?

(大隅さん)
ゆっくり帰ってから、考えてみようと思うんですが、あんまり言葉で言うようなことではないかなと思っています。わかってくれていると思っているので、言葉は『ありがとう』というしかないんじゃないかというのが率直な気持ちです。

Q 何も言わなくても分かってくれるんですね?

(大隅さん)
はい。私たちずっとそういうふうに過ごしてきたので、今さら、とうとうとやることもないなと思っています。

投稿者:かぶん |  投稿時間:17:25  | カテゴリ:科学のニュース
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