2016年04月05日 (火)

通信途絶 衛星「ひとみ」で何が

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ブラックホールなど宇宙の謎に迫ろうと、ことし2月に打ち上げられた日本の天体観測衛星「ひとみ」。

その名前が示すとおり、“宇宙を見る新しい目”として、世界の天文学者から大きな期待が寄せられています。しかし、ことし5月からの本格観測の開始を前に、3月26日、突然、地上側との通信が途絶えてしまいました。機体は一部が分解したとみられていて、JAXA=宇宙航空研究開発機構は、状況の把握や原因の究明を急いでいます。

「ひとみ」は、今どのような状態に陥っているのか、科学文化部の鈴木有記者が解説します。

世界が期待する衛星

日本の天体観測衛星「ひとみ」は、JAXAが、NASA=アメリカ航空宇宙局などの協力を得て、およそ310億円をかけて開発した「宇宙の天文台」です。

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地球上では大気に吸収されて観測できない「エックス線」を、これまでの衛星よりもおよそ100倍の感度で捉えることができます。
ブラックホールや大爆発を起こした星など、宇宙空間で起きているさまざまな天体現象からは強い「エックス線」が放出されているため、観測できれば宇宙の謎に迫ることができると考えられています。
「エックス線」の観測では、世界でも、「ひとみ」ほどの高い能力を持つ衛星はほかになく、世界の天文学者から大きな期待が寄せられています。

突然の通信途絶

「ひとみ」は、ことし2月17日、鹿児島県の種子島宇宙センターからH2Aロケット30号機で打ち上げられました。

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そして、地球の上空575キロ付近を回る軌道に投入され、ことし5月の観測開始に向けて機器の点検が進められていました。
ところが、3月26日の午後4時40分ごろ、地上側との通信が、突然、途絶えました。
その後、地上からさまざまな指示を送っていますが、「ひとみ」からの明確な反応はありません。
ただ、通信が途絶えたあとも、「ひとみ」からの電波が数分間から数秒間だけ届いたことが、3月29日までに4回確認されています。
しかし、衛星の状態などが分かる、意味のあるデータは含まれていなかったということです。

「ひとみ」の状態は?

「ひとみ」は、今どのような状態なのか。
詳しいことはまだ分かっていませんが、これまでの地上からの観測で、2つのことが分かってきました。

ひとつは、「ひとみ」が回転しているとみられることです。
岡山県倉敷市にある科学館「倉敷科学センター」は、3月28日、「ひとみ」を地上の望遠鏡で撮影することに成功しました。その結果、「ひとみ」が明るく見えるときと薄暗く見えるときが、およそ7秒おきに繰り返されていることが分かりました。

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また、アメリカ西部アリゾナ州の天文家も「ひとみ」とみられる物体を動画で撮影し、同じように、数秒おきの短い周期で地上から見える明るさが変化している様子を捉えました。
いずれも、「ひとみ」が回転し、太陽の光を反射したりしなかったりしている状態を捉えたものとみられています。

地上からの観測で分かったもうひとつは、「ひとみ」がいくつかの部分に分かれているということです。
JAXAが岡山県にある宇宙関連施設の望遠鏡で観測したところ、本体とみられる物体と、大きさがおよそ1メートルほどの物体の合わせて2つの物体が確認されました。
さらに、今月に入り、「宇宙ごみ」などを監視しているアメリカ軍の機関は「『ひとみ』の周辺に10個の物体があるのを確認した」とする新たな報告を日本側に伝えました。
この報告について、JAXAは「破損した『ひとみ』から分離したものとみられる」としていますが、「ひとみ」からはトラブルが起きたあともごく短時間、電波が届くことがあることから、衛星の機能はある程度、残されているのではないかとみて、状況の把握を急いでいます。

何が起きたのか

「ひとみ」は、どうして、いくつもの物体に分かれたのか。
「ひとみ」で何かの衝撃が発生したとみられますが、「衝撃」の原因として考えられることは2つです。

ひとつは、衛星に「宇宙ごみ」がぶつかった可能性です。 ただ、10センチ以上の「宇宙ごみ」が近づく場合は、アメリカ軍の機関が地上からのレーダーによる観測で見つけ、衛星の管理者に警報を出すことになっています。
今回、「ひとみ」に近づく物体は、事前には確認されておらず、JAXAは、「宇宙ごみ」にぶつかった可能性は低いとしています。

もうひとつは、衛星の中で破裂や破断が起きた可能性です。
JAXAは、この可能性をより大きく考えていますが、何が破裂したり破断したりしたのかは、全く分かっていません。

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トラブルはどう発生?

これまでのJAXAの調べで、「ひとみ」との通信が途絶える直前の状況が分かってきました。
「ひとみ」の通信が途絶えたのは3月26日の午後4時40分ごろで、JAXAは、それ以前に地上に届いていたデータの内容などを詳しく調べました。
その結果、通信が途絶えるおよそ12時間前の3月26日の午前4時10分ごろ、まず、機体の姿勢に異常が発生したとみられることが分かりました。
その後、電力が低下し、機体の温度にも異常が現れました。
そして、機体の姿勢が乱れておよそ6時間後の午前10時37分ごろ、機体の一部が分離したとみられるということです。
JAXAは、3月26日の午前4時すぎから午前10時半すぎにかけての6時間余りに衛星の中で何らかのトラブルが起きていたとみて、さらに詳しく調べています。

復活できるか

果たして「ひとみ」は復活できるのか。

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4つのエンジンがいずれも停止するという絶体絶命のピンチを乗り越えた小惑星探査機「はやぶさ」、メインエンジンが壊れ金星を回る軌道に入れなかった金星探査機「あかつき」は、いずれも苦境から復活しましたが、幸い電源は入ったままでした。
一方、今回の「ひとみ」は、回転しているとみられ、太陽光発電を十分に行えずに電源が落ちてしまっているとみられています。つまり、「ひとみ」の復旧の最大のカギを握るのは、電力が回復するかどうかです。
JAXAは、今後、「ひとみ」の回転のしかたが変化し、太陽光パネルに太陽が当たる時間が長くなれば、再び発電が進む可能性もあるとみています。
JAXAは、場合によっては数か月かけて電力が回復することもあるとみて、長期戦の構えで、復旧の可能性を探ることにしています。

巨額の資金を投じながら、まだ本格的には1回の観測もできていない「ひとみ」。絶望的に見えるこの状況にどう向き合うのか、日本の科学技術の真価が問われています。

投稿者:かぶん |  投稿時間:00:30  | カテゴリ:ニュース解説
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