2016年04月14日 (木)

凍土壁 汚染水対策の行方は

0414_01_kisha.jpg東京電力福島第一原子力発電所で、建屋周辺の地盤を凍らせて巨大な氷の壁をつくる「凍土壁」が、およそ2年間の建設期間を経て本格的な運用にこぎつけました。建屋に流れ込む地下水をせき止めて汚染水の増加を抑える抜本的な対策とされていますが、本当に期待どおりの効果をあげることができるのか、科学文化部の国枝拓記者が解説します。

ついに始まった凍土壁の凍結

「地表に氷がついている」今月、福島第一原発の敷地内で作業員が見つけた光景です。地面に氷がつき数センチほど盛り上がっていたのです。地面からは冷気が立ちのぼり、周囲の配管は霜で真っ白になっていたといいます。原子炉建屋などの周囲の地盤を凍らせる「凍土壁」の運用開始から1週間余り、地盤の冷却が進んでいることを裏付けていました。

前例のないプロジェクト

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凍土壁は、福島第一原発の1号機から4号機までの建屋の周囲の地盤を凍らせて巨大な氷の壁で取り囲むもので、そのねらいは汚染水の増加を食い止めることにあります。
建屋の地下には、溶け落ちた核燃料を冷やすために注がれた水が高濃度の汚染水となってたまっています。ここに大量の地下水が流れ込み、汚染水は今も増え続けています。この地下水の流入を抑えるため、建屋の周囲を取り囲むように深さ30メートルまで打ち込んだ「凍結管」と呼ばれるパイプにマイナス30度の液体を流し、地盤を凍らせて地下水をせき止めるのが凍土壁です。
完成すれば氷の壁の総延長は1500メートル。建屋に流れ込む地下水の量は現在の1日150トンから50トンまで抑えられるとされ、国費345億円を投じて建設が進められた前例のないプロジェクトです。

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建設は放射線との戦い

しかし、ここに至るまでにはさまざまな曲折がありました。計画が持ち上がったのは3年前。「なぜ氷の壁なのか」「本当に凍るのか」など、効果を疑問視する声もありました。しかし、コンクリートや鉄板の巨大な壁を地中に設けるのではトラブルがあった場合に後戻りができないことなどから、議論の末、凍結をやめれば現状復帰できる凍土壁を採用することが決まったのです。
こうしておととし6月、建設が始まりました。請け負ったのは大手ゼネコンの鹿島。1日当たり平均で500人の作業員が作業に当たりましたが、高い放射線量のもとでの作業経験はほとんどありません。
「被ばくを抑えるために全員、鉛のベスト着用です。それでも現場には長時間とどまれません。作業を細かく分けて交代交代で進めるしかありませんでした」鹿島の関係者は当時の苦労をこう振り返りました。

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遅れていった計画

こうして進められた工事は、別の現場の作業が難航したり作業員の死亡事故が起きたりした影響などでたびたび中断し、大幅に遅れていきました。
さらに、ことし2月に設備の工事が終わったあとも運用を進めるうえで大きな問題が残されました。東京電力は当初、凍土壁全体を一気に凍らせて建屋への地下水の流入量を少しでも早く減らしたいと考えていました。 問題は、この作業に伴うリスクでした。原子炉建屋などにたまっている汚染水の水位は、周囲の地下水より低く保たれています。もし地下水の水位が下がりすぎて上下が逆転した場合、汚染水が外に漏れ出すおそれがあるのです。

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少しでも早く汚染水の増加を抑えたいとする東京電力に対し、原子力規制委員会は汚染水が漏れ出すリスクへの対策の重要性を指摘し、何を優先すべきかを巡って議論がかみ合わない状況が続きました。
「あのころ現場レベルでは、私たちの側と原子力規制庁の担当者とでかなり激しい応酬を繰り返していました」
東京電力の関係者は取材に対し、当時の状況をこう振り返りました。結局、東京電力が原子力規制委員会に従う形で建屋の下流側から段階的に凍結を進める形に計画を見直したことで運用が認可されたのです。

ついに運用開始した凍土壁

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そして、3月31日の午前11時すぎ、福島第一原発の原子炉建屋を見下ろす高台にある凍土壁の制御施設には、東京電力や鹿島などの関係者の姿がありました。午前11時20分、小野明所長が「凍結を開始します」と宣言してタッチパネルを操作し、制御装置のうちの1台を起動。2年越しで建設が進められた凍土壁がついに運用を開始した瞬間でした。
しかし、もともと凍土壁は昨年度中に完成する計画でしたが、ようやく凍結開始にこぎ着けたのが先月末。慎重な議論は必要ですが、東京電力と原子力規制委員会の双方がもっと早く課題を洗い出していれば運用開始を前倒しできた可能性があり、関係機関の連携のあり方に課題を残す形となりました。

効果は未知数の部分も

凍土壁は前例のない取り組みだけに、その効果も未知数の部分があります。凍土壁の凍結は3段階で進められる計画で、今回認可されたのはその第一段階まで。建屋の下流側と、建屋より上流側の95%を凍らせることになっています。
東京電力は去年春から夏にかけて一部で試験凍結を行いましたが、このとき、地盤の温度低下の傾向にはばらつきがあることが分かってます。これは場所によって地下水の流れ方が異なることを示していて、今後、地盤が凍りにくい場所が出てくる可能性があるほか、地下に配管などの構造物があって凍結管を地中深くまで通せていない場所もあります。
原子力規制委員会の田中俊一委員長も「凍土壁の運用は一種のチャレンジなので、十分なデータを取って監視しながら進めることが必要だ」と指摘しています。

汚染水との戦い、今後は

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凍土壁を第2、第3段階に進めるにはさらに別の認可が必要になるため完成の時期のめどはまだ立っていませんが、国と東京電力がまとめた工程表では、4年後の平成32年に建屋内からすべての汚染水を抜き取る計画となっていて、東京電力はそれまでは凍結を続けるとしています。また、そのための費用は電気代や人件費など年間十数億円にのぼるとみられ、これは東京電力が負担するとしています。
では、凍土壁によって汚染水の問題はどう変わるのか。凍土壁には、汚染水の増加を抑えると同時に「建屋の周辺に汚染水を閉じ込める」という意味もあります。つまり、汚染水と戦うエリアをできるだけ建屋の周辺に絞り込もうというのです。
汚染水を巡っては、これまで敷地内のタンクから漏れ出して一部が海に流出するなど、さまざまなトラブルが相次ぎ、対症療法的に対応に追われてきました。現在、タンクで保管されている汚染水はおよそ80万トン。その最終的な処分をどうするかという難しい問題は残されていますが、東京電力は、汚染水の増加を抑え、建屋の周辺に閉じ込めることで、汚染水対策にかけていた大きな労力を溶け落ちた核燃料の取り出しなど廃炉に向けた作業にこれまで以上に振り向けたい考えです。
凍土壁が効果を上げることができるか。汚染水対策だけでなく今後の廃炉工程を占ううえでも福島第一原発の現場は重要な局面を迎えています。

投稿者:かぶん |  投稿時間:18:38  | カテゴリ:ニュース解説
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