2016年09月26日 (月)

"夢の原子炉"は夢のままか

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使った以上の燃料を生み出すとして“夢の原子炉”と呼ばれた高速増殖炉「もんじゅ」。1兆円を超える巨費を投じてきた一大プロジェクトですが、22年間の運転実績はたったの250日間。再開のめどは立たないまま、長く停止した状態です。
こうした中、政府はもんじゅの廃炉を含め抜本的な見直しを行う方針を明らかにしました。今なぜこのような議論になっているのか、もんじゅを中核施設と位置づけてきた日本の原子力政策はどこへ向かうのか、福井放送局時代から原子力の取材を続けている科学文化部の重田八輝記者が解説します。 

高速増殖炉もんじゅとは

もんじゅは福井県の嶺南地域の中心、敦賀市にあります。漁業や農業が中心だったこの地域で、今や原子力は主力産業の1つになっています。もんじゅでは日々多くの人たちが働き、身近な存在になっています。ただ「詳しいことは、よくわからない」という人も多いのではないでしょうか。
7年前に福井放送局嶺南支局に赴任した私にとっても、この問題をわかりやすく、しかも深く伝えることは大きなテーマになりました。 

まず「高速増殖炉」という言葉。これは「高速の中性子を使って、燃料を増殖させる原子炉」という意味です。燃料はプルトニウムとウラン。プルトニウムは核兵器の原料になることでも知られますが、中性子を当てると核分裂を起こし膨大なエネルギーを生み出します。
一方、高速増殖炉で使うウランは中性子によってプルトニウムに変わります。その結果、プルトニウムがもとの量より増える。つまり「増殖」されるのです。 

こうした反応を起こすのに必要なのが速度の速い「高速」の中性子です。高速中性子を使う原子炉を「高速炉」と呼び、このうち燃料の増殖をする原子炉を「高速増殖炉」と呼びます。
これに対し、日本の一般的な原子炉は、燃料のウランに速度を落とした中性子を当て、燃料の増殖は行われません。

高速増殖炉について日本は「実験炉」「原型炉」「実証炉」そして「実用炉」と、技術の確立や安全性、それに経済性などを確認するステップを踏むことにしていて、もんじゅは、その第2段階の「原型炉」です。

もう1つ、もんじゅには大事な特徴があります。原子炉を冷やすのに液体のナトリウムを使うことです。一般の原発と同じように冷却に水を使うと、中性子の速度は落ちますが、ナトリウムには中性子の速度を保てるという性質があるからです。
しかし、ナトリウムは酸素や水と反応すると燃え上がるという取り扱いの難しさがあり、実際に平成7年にはナトリウムが配管から漏れ出して火災が発生しました。ナトリウムの安全性の問題は、もんじゅ特有のテーマなのです。 

“資源を余すことなく利用する”

日本は高速増殖炉を、基本政策の柱の1つと位置づけてきました。その基本政策が「核燃料サイクル」です。
核燃料サイクルでは、原発で出た使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、再び燃料として使います。使用済み核燃料をそのまま廃棄物とするのではなく、「資源として余すことなく有効利用しよう」というものです。 

日本の核燃料サイクルは、2つの「サイクル」からなります。使用済み核燃料から取り出したプルトニウムとウランを混ぜて加工した核燃料を、再び一般の原発で使うのが「プルサーマル」のサイクル。高速増殖炉で使うのがもう1つのサイクルです。
特に高速増殖炉は、当時の国の長期計画に「将来の原子力発電の主流になる」「資源問題を基本的に解決し得る」などと記され、大きな期待が寄せられていました。

ほとんど動かないもんじゅ

しかし、平成6年に試験運転を開始したもんじゅは、翌年、前出のナトリウム漏れ事故を起こします。
さらに、現場を撮影したビデオ映像を隠したことが発覚して、その後、長く停止した状態が続きました。 

国が再び高速増殖炉の研究開発を本格的に進めるとしたのは、事故から10年がたった平成17年、原子力政策大綱で「2050年ごろからの商業化を目指す」と明記しました。地球温暖化対策強化の機運が国際的にも高まるとともに、もう1つの核燃料サイクルの柱「プルサーマル」が足踏みを続けている時期と重なります。
そして平成22年、もんじゅは運転を再開しました。 

ところがその3か月後、今度は重さ3トン余りもある装置が原子炉内に落下する重大なトラブルが起きました。私が嶺南支局に赴任した次の年のことです。翌23年には福島第一原発の事故が発生。停止している間も、およそ1万件に上る点検漏れなど、安全管理上の問題が相次ぎました。

平成26年の国のエネルギー基本計画では、「高速増殖炉」実用化の記述はなくなり、その位置づけは大きく後退しました。

“廃炉含めた見直し” その背景は

私が科学文化部の原子力規制庁担当になった去年、止まったままのもんじゅをめぐって、大きな動きがありました。原子力規制委員会による異例の勧告です。
安全管理上の問題が相次いだことから、今の事業者には安全に運転する資格がないとして、去年11月、新しい運営主体を示すか、それができない場合は、廃炉を含め事業を抜本的に見直すよう、文部科学大臣に求めたのです。めどはおおむね半年とされました。 

文部科学省は「もんじゅの存続」を前提に、外部の専門家による議論をへて、もんじゅの運転部門を切り離し、電力会社やメーカーから協力を得たうえで、運営管理を担う特殊会社を新たに立ち上げる案を軸に、関係省庁などと協議を進めようとしました。しかし、調整は進みませんでした。

勧告から10か月たった今月21日。政府は、もんじゅの廃炉を含め抜本的な見直しを行い、年内に結論を出す方針を明らかにしました。背景として、福島第一原発事故後の新規制基準の策定や、日仏高速炉協力の開始といった情勢の変化を挙げました。

もんじゅの運転を再開するには新しい規制基準に対応する対策などに、さらに数千億円規模の追加投資が必要という試算があるうえに、10年はかかるという見立てがあり、エネルギー政策を所管する経済産業省を中心に、もんじゅの存続に、国民の理解が得られるか、疑問視する声が高まったのです。
また、日本とフランスの間で、2030年ごろの運転開始を目指す高速炉の実証炉「ASTRID」の開発協力が始まるなど、「仮にもんじゅが廃炉になっても、高速炉の開発は継続される」という考えもありました。

一方、文部科学省や原子力学会には今も「運転や研究のデータを蓄積して次に生かさなくてはならず、廃炉などあってはならない」と、一貫して運転再開を目指す意見があります。これまでさまざまな協力をし、恩恵も受けてきた地元の福井県敦賀市なども存続を求めています。

廃炉となった場合の影響は

仮にもんじゅが廃炉になった場合、どのような影響があるのでしょうか。

まず、基本政策である核燃料サイクルの1つの要素が欠けることになり、見直しが必要になります。実はもう1つのサイクルのプルサーマルも、本来、昨年度までに国内の原発の16基から18基で実施する計画だったのが、原発事故の影響もあり、現在、実施している原発は伊方原発3号機の1基だけであまり進んでいません。高速増殖炉も、プルサーマルも、計画どおり進んでいないだけに、核燃料サイクルの新しい姿を示す必要に迫られることになります。

また、核兵器の原料にもなるプルトニウムをめぐり、国際社会の懸念が高まるおそれがあります。日本は、昨年末の時点で核兵器6000発ほどに相当するおよそ48トンのプルトニウムを保有しています。青森県六ヶ所村にある再処理工場が稼働すると、年間4トン余りのプルトニウムが新たに取り出されることになります。
今後のプルトニウムの利用計画や核燃料サイクルの実現性をきちんと説明しなければ、使うあてのないプルトニウムがいっこうに減らないとして、国際社会の批判を招くおそれがあるのです。 

“絵に描いた餅”ではないか?

政府は、高速炉の研究開発に取り組む方針を堅持するとして、世耕経済産業大臣を中心に設置される「高速炉開発会議」で、具体的な道筋を示すとしています。
高速炉は、もんじゅと同じように燃料にプルトニウムを含み、プルトニウムを長期的に活用できるうえに、廃棄物を減らせるとして、フランスやロシアなど各国が研究を進めています。 

しかし、課題も指摘されています。研究開発を進める具体的な施設として挙げたフランスの「ASTRID」。日本原子力研究開発機構によりますと、ASTRIDを本当に建設するかどうかはまだ決まっていない状態で、フランスは2019年に判断するとしています。
さらに建設にあたり、費用の半分を負担してほしいという打診もあったということです。その場合、日本の負担は数千億円に上るという試算がある一方で、日本が開発や運転にどれだけ深く関わるかはまだ決まっていません。
こうした状況から実現性を疑問視する声も出ていて、結局“絵に描いた餅”で終わるのではという懸念もあります。

根本の議論を

多額の費用を投じたにもかかわらず運転実績のほとんどないもんじゅの問題を検証することも必要です。

政府が方針を決定したあとに行われた記者会見を取材した際、国の担当者は「もんじゅの次の高速炉に向けて検討する」と述べる一方で、「もんじゅは失敗だったか、成功だったか」という問いには、明言を避け続けました。

原型炉のもんじゅが計画どおり進まないのに、なぜ次の実証炉に進むことができるのか。このような状況でなぜ核燃料サイクルを堅持しようとするのか。説明が尽くされているとは言えません。 

国の原子力委員会の元委員で長崎大学の鈴木達治郎教授は、「もんじゅを廃炉にすれば、その後の開発は進まず、核燃料サイクルの実用化の見通しはなくなる。何のために高速炉の研究開発が必要なのかを改めて議論し、原子力政策全体の見直しが必要だ」と指摘しています。

政府は、安全性はもちろん、経済性の面からも、本当に次の高速炉、そして核燃料サイクルが必要なのか、そして実現の見通しはどうなのか十分に議論し、その過程や結論を、地元・福井県をはじめ、国民に明らかにして、合意を得ていくことが求められます。 

投稿者:かぶん |  投稿時間:20:55  | カテゴリ:ニュース解説
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