2016年06月10日 (金)

News Up 「キンプリ」異例のヒット そのわけは?

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上映中は静かなはずの映画館が、若い人たちの“歓声”や“合いの手”であふれる、「応援上映」という鑑賞スタイルが話題になっています。アニメ作品「KING OF PRISM by Pretty Rhythm」、通称「キンプリ」はここ数か月、ネット上で「こんなアニメ見たことない」、「応援上映やばい」など何度も関連するツイートがトレンドワード入り。当初の予想をはるかに上回る異例のロングランを記録、興行収入を伸ばし続けています。「キンプリ」とは何なのか。そして、なぜ、異例のヒット作となったのか。行動経済学の視点から分析してみます。

“キンプリ”とは

「キンプリ」は10代の男の子たちがスターを目指して切磋琢磨(せっさたくま)するアニメ作品で、ことし1月、東京や大阪など僅か14の映画館で上映が開始されましたが、ネットを通じて人気が広がり、上映する映画館は6月1日現在で、全国延べ100を超えています。通常、1か月程度で終わる上映期間も6か月を超えるなど、異例のロングランを続けています。
こうしたヒットのきっかけとなったのが「応援上映」という鑑賞スタイルと、参加した人たちによるSNSの口コミでした。

“応援上映”とは

「映画館ではお静かに」。この常識を覆すのが「応援上映」です。本来、映画を鑑賞する際にはタブーとされている“声援”や“ペンライトの持ち込み”などが許可され、観客たちが思い思いの応援グッズを使い、スクリーンに向かって大声で“応援”。まるでライブに参加しているような感覚で作品を楽しめるのです。映画を見ながら、ライブのように盛り上がる上映スタイルはこれまでもありましたが、「キンプリ」には「応援上映」をより楽しめるさまざまな仕組みが、制作段階から随所に施されているのが特徴です。

その一つが「生アフレコ」。女の子が男の子にソフトクリームを食べさせるシーンではセリフの音声がありません。その代わりに、スクリーンに「はい、ソフトクリーム、ア~ン」と字幕で表示され、観客が作品のキャラクターの1人になりきって、セリフを読み上げられるようになっているのです。
また、観客とキャラクターの掛け合いも魅力の一つです。例えば、キャラクターの1人が「君の嫌いな食べ物はなんだい?」と問いかけるシーンでは、観客が「ピーマン!」「トマト!」など、自分の嫌いな食べ物を思い思いに叫びます。観客どうしが自由にリアクションできるよう、キャラクターのセリフにはあらかじめ「一定の間(ま)」が用意されているのです。
こうした数々の「仕掛け」で、自由に大声を出せる解放感や会場全体を包み込む一体感、それに、行くたびに応援の形が進化するという、これまでにない魅力を生み出しているのです。
「キンプリ」の魅力を誰かと共有したい、知ってほしい、という声がSNS上でどんどん広がり、これまで、アニメ作品に興味がなかったような新しいファンも次々と増やして爆発的なヒットにつながりました。

リピーターが人気を下支え

この「キンプリ」人気を支えているのは、“リピーター”の存在です。東京と大阪の映画館で観客に話を聞くと、多くの観客が「10回以上」という回答。来場回数が50回を超えるというつわものもいました。消費に消極的と言われる若い世代が、財布のひもを緩め、何度も「キンプリ」に通うのはなぜなのでしょうか。
大手広告代理店、アサツーディ・ケイで長年、マーケティングに携わり、消費者の経済行動について人間の心理面から解き明かす行動経済学に詳しい橋本之克さんは「消費者心理をくすぐる制作上の“仕掛け”がうまく機能している作品」だと分析しています。

“保有効果”

“保有効果”

その仕掛けの1つが自分の所有物には高い価値を置きたがる心理、「保有効果」です。
“応援上映”に参加したり応援グッズなどを作ったりすることで、観客にとって「キンプリ」は“自分のもの”ひいては、“その場にいるみんなのもの”という保有意識が生まれ、愛着がわき、価値が高まるのです。
橋本さんは、「『キンプリ』への愛着、価値が高まることで応援に行かずにはいられなくなる。『保有効果』はいつまでもやめられなくなるなど“ハマる”要素の一つにつながっている」と分析しています。

“サンク・コストの呪縛”

“サンク・コストの呪縛”

2つ目の仕掛けが“サンク・コストの呪縛”です。
「キンプリ」は1時間ほどの物語の中に友情、キャラクターの成長、ライバルとのバトル、音楽などさまざまな要素が含まれていて、ストーリー展開もとても早いのが特徴です。
これについて、橋本さんは、「『キンプリ』は一度見ただけではすべてを理解するのが難しい作品です。1度見て『よく分からなかった』場合に、そのままで終わってしまってはコストがむだになってしまいます。人間は、過去に負担したコストや労力をむだにはしたくないと感じるものです。それをむだにしないために、同じ行動を繰り返すことがあるのです。これを行動経済学では『サンク(埋没)・コストの呪縛』と呼んでいます。しかし、『キンプリ』のファンは何度も通うことで、逆にストーリーの細かい部分まで理解して、応援も上達すると受け止め、前向きに捉えているのではないか」と分析しています。作品に観客も参加することを意識し、消費者心理をくすぐる仕組みがふんだんに盛り込まれた「キンプリ」。こうした視聴スタイルは、エンターテインメントの新しい形として、今後さらに注目を集めそうです。

投稿者:かぶん |  投稿時間:12:07  | カテゴリ:文化のニュース
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