2016年10月14日 (金)

News Up ボブ・ディランさんの文学性とは?

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「新たな詩の表現を創造した」アメリカのミュージシャン、ボブ・ディランさんを選んだ理由について、ノーベル文学賞の選考委員会は、このように説明しました。強いメッセージ性が込められながら、時に抽象的で難解な歌詞。今もなお多くのファンを引きつける、ディランさんの歌詞の「文学性」とは?

75歳の今も活動

1941年にミネソタ州で生まれたボブ・ディランさん。
デビュー当時はアメリカの伝統的なフォークソングやブルースのカバーを中心に演奏していましたが、次第に「プロテストソング」と呼ばれる反戦や社会への反抗を歌うフォークソングで人気を集めるようになります。

1963年に発表した代表作の「風に吹かれて」は、「どれだけ大砲の弾が撃たれれば/もう二度と撃たれないよう禁止されることになるのだろう?」と、人間どうしが争いあうことのむなしさを歌っています。黒人差別の解消を目指すアメリカの公民権運動や、ベトナム戦争への反対運動の高まりを背景に、時代のテーマソングとなりました。

その後も、ロックやブルース、それにカントリーなど、アメリカの土着的な音楽をルーツにした多様な作品を発表し続け、これまでに作った曲の数は600曲以上。75歳の今も活動を続け、日本時間の14日もアメリカ・ラスベガスのホテルでライブを行いました。

イメージだけを提示

音楽界の伝説的人物とされる、ボブ・ディランさん。その音楽性とともに高い評価を受けてきたのが、紡ぎ出す言葉です。
ディランさんの詩について研究するアメリカ現代詩が専門の獨協大学外国語学部の原成吉教授は、ディランさんの歌詞の魅力を「音楽と文学の伝統を重ね合わせながら、彼にしか生み出せない新たな表現を作り上げたことだ」と指摘しています。
例えば、1963年に発表された「はげしい雨が降る」は、このような歌詞が並びます。

  ああ、何を見たの、青い目の我が息子よ?
  ああ、何を見たの、愛しの息子よ?
    (中略)
  黒い木の枝から血が滴り落ちているのを見たよ
  部屋中いっぱいに男たちが犇(ひし)めきあっていて、
  みんな血まみれのハンマーを握りしめていたよ     
                 (対訳:中川五郎)
 
親の問いかけに子どもが答えるという会話形式の構造について、原さんは、イギリスやスコットランドで15世紀ごろから歌われてきた「バラッド」と呼ばれる歌の形式を引用したものだと指摘します。
一方で、「血」や「ハンマー」といった言葉からは、人種差別やキューバ危機のあとの戦争の気配といった、さまざまな社会問題へのメッセージを感じ取ることができると言います。
古典的な形式の中にちりばめられた、現代アメリカ社会を映すさまざまなイメージ。原さんは「歌詞の中ではすべてを説明せずにイメージだけを提示して、メッセージの受け止め方は聞く人に委ねているという点に、詩としての魅力がある」と評価しています。


このように、抽象的な歌詞で、聞く人に解釈を委ねる表現方法は、ディランさんの代表曲「風に吹かれて」の中でも見られます。

  どれだけ大砲の弾が撃たれれば
  もう二度と撃たれないよう禁止されることになるのだろう?
    (中略)
  どれだけ長く生き続ければ
  虐げられた人たちは晴れて自由の身になれるのだろう? 
                  (対訳:中川五郎)

そして曲の終わりは、「その答は風の中に舞っている」という言葉で結ばれます。しかし、その「答え」が何であるかが歌われることはありません。

「ボブ・ディランの問いかけはどれも、イエスやノーで答えられるものではなく、そこにディランの作品の持つ普遍性がある。ディランの歌によって人々は音楽における言葉に関心を持つようになり、ポピュラーミュージックの在り方が変わった。ディランの詩は、言葉の持つ力を、歌という形で改めて知らしめたのだと思う」(原教授)

「現代の吟遊詩人」

ディランさんの言葉は、音楽の枠を超えて、文学の世界とも共鳴してきました。
原さんは、ディランさんの文学性の背景には、1950年代後半にアメリカで異彩を放った作家グループ「ビート・ジェネレーション」の詩人、アレン・ギンズバーグの存在があると指摘しています。
活版印刷の普及以降、詩は印刷された活字で読むのが普通だった時代に、ギンズバーグは詩を声に出して朗読する「ポエトリー・リーディング」の活動を続け、大衆から遠い存在だった詩を、本の中から街なかへと引きずり出しました。
ギンズバーグと親交の深かったディランさんは、こうした先人の活動に共鳴するように、詩を「歌」という形で表現し、より多くの人々に開かれたものにしたと原さんは言います。ボブ・ディランはいわば「現代の吟遊詩人」と言えるのかもしれません。

バーナード・ショー、ヘッセ、ヘミングウェーなど、これまでそうそうたる作家に贈られてきたノーベル文学賞。110年以上の歴史の中で、ミュージシャンでこの賞を受賞することになったのは、ボブ・ディランさんが初めてです。伝統を重んじるとみられていたノーベル文学賞が、ポップカルチャーに文学性を認めたという今回の出来事は、21世紀の文学賞の広がりを期待させます。

投稿者:かぶん |  投稿時間:20:46  | カテゴリ:文化のニュース
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