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フォイル豆知識

フォイルの戦いは続く

このドラマの原題は『フォイルの戦い』(Foyle’s War)だが、タイトルの示す通り、フォイルはいつまでも静かに、そして常に正義を追い求めて戦い続ける。一時的に警察を離れ、ゆったりと釣りに興じていたものの、再び犯罪捜査に戻らざるを得なかったフォイル。(思い出してみれば、そもそもこの物語の初回では、フォイルは警察を辞めて、もっと国のためになる仕事を求めていた)
そしてヒトラー率いるドイツ軍の敗北によって終戦が予想できるようになったころから、彼の前にはある女性が、時折姿を見せることになる。実に存在感のあるこの女性が、やがてフォイルに新たな戦いの舞台を提供することになるのだが、さてそれはどのようなものだろうか?

ミルナーの幸せ

フォイルの部下・ミルナーは戦争で負傷し、義足をつけている。そのためか、妻とは疎遠になってしまう。刑事としての能力に優れ、フォイルの信頼も厚いミルナーだが、その私生活には暗い影があった。だが、そうした彼も新しい伴侶を得て、子供にも恵まれることとなる。その過程では悲劇的な出来事もあり、時としてミルナーも傲慢な態度をとることがあったが、再婚した妻のやさしさ、フォイルの寛容な態度に包まれて犯罪捜査に熱がこもり、この物語の中で重要な役割を果たしていく。
こうした様子を目にして、わたしたちの心も温かな思いで満たされてゆき、優れた人間ドラマにどっぷりと浸ることになるのである。

様々な犠牲者

第二次世界大戦中はイギリス国民からすれば、ドイツ人は何よりも敵であり、大方のイギリス人がドイツ人を敵視するのも致し方のないことだ。だが、やむを得ず戦争に駆り出されたドイツ人だって多くいたはずである。しかもそうした彼らが敵国イギリスに捕えられて暮らすことになれば、その苦しみも理解できなくはない。
さらに、ナチス・ドイツの侵略を受けて祖国を追われたポーランド人。その悲劇は想像に余りあるが、彼がフォイルと心を通わせ、チェスにいそしむ姿に一筋の光を見るのは、このドラマが視聴者にもたらしてくれる大きな救いではないだろうか。

サムのたくましさ

それにしてもサムは元気でたくましい。辛い戦時中でも、彼女は、はつらつとしており、まさに男勝りと言うべき活躍ぶりである。運転手の仕事を失ってもボランティアとして帰還兵の世話に邁進(まいしん)するし、物資不足に不平を漏らしつつも、そのエネルギーが失われることなく、いつも前を向いて走っている。
戦時中も戦後も、こうした元気のいいイギリス女性がいたのは事実だが、このサムにそうした姿、精神が集約されている気がして、思わず喝采を送りたくなるのは筆者だけだろうか。戦争が終わりを告げても、サムは相変わらず元気はつらつ、時としてフォイルの苦笑を誘うに違いない。

傷ついた人々

20世紀の戦争では、戦場で戦った兵士だけでなく、それ以外にも多くの犠牲者が生まれる。もちろん戦死するのは無念なことだが、傷ついて祖国へ何とか戻れた兵士にも多くの試練が待ち受けており、心に負った傷にいつまでも苦しむ人物がいる。悲惨な体験をしたアメリカ軍将校などはその代表だろう。

しかし夫を戦地に送り出し、その消息すら不明のまま家に暮らす妻も大きな重荷を背負う。そんなある日、夫が無事に帰ってくるのは喜びだが、夫婦の間に溝が生じることも避けられない。戦争とはまさに、数え切れないほどの、そして心をいやす術もない悲劇を生み出すものなのである。

ヘイスティングズ―遠い記憶を呼び起こす町

『刑事フォイル』の主な舞台となるのはヘイスティングズ。イングランド南東部、英仏海峡を望む町である。取り立てて特色のある町ではなく、のどかな場所である。日本からの観光客もあまり訪れないのではないか。

なぜこの場所が舞台として選ばれたのか。一つには海を隔ててすぐ向こうがヨーロッパ大陸であること。ドイツ軍による空襲、あるいは上陸作戦の恐怖が身近に感じられる場所なのである。しかもヘイスティングズは軍港をもっているわけではなく、平和な日常生活が営まれている町である。そこに戦争の恐怖が襲ってくるとともに、思いもしない犯罪が起きる。この点が大きな見どころとなるのだ。

だがもう一つ。イギリス人にとってこの町の名前は遠い記憶を呼び起こすものなのだ。1066年、当時イングランドを支配していたアングロ・サクソン人のハロルド2世率いる軍が、フランスのノルマンディー公ギヨーム2世率いるノルマン軍に敗れる。その場所にちなんで、これを「ヘイスティングズの戦い」と呼ぶ。これにより、イングランドを支配するのが「ノルマン王家」となり、ギヨーム2世はウィリアム1世となる。今に至るイギリス王室の誕生である。その意味で重要な町なのである。

イギリス紳士の理想

主人公フォイルの言動を見ていると、イギリス紳士の理想像が体現されているように思える。冷静沈着、どんな場面に出くわしても決してうろたえることがなく、静かに物事を処理する。声を荒げることもなければ、喜怒哀楽が表に出ることもない。もちろん、冷酷な人間というわけではない。英語に「上唇をギュッと閉めている」という表現があるが、そうした姿こそが、まずはイギリス紳士の大事な条件なのだ。だからフォイルは顔を崩して泣くこともなければ、大声で怒ることもなく、破顔一笑することもない。

このように書くと、血も涙もない冷徹な男のように思えるが、それは違う。心の中には喜怒哀楽が渦巻いていても、それをあえて抑えて面に出さないのである。イギリス紳士の優れた資質として「決してパニックに陥らない」。慌てふためくことがない点が挙げられるが、その意味でフォイルは理想的な人物である。

ただし、彼とても生身の人間である。まして刑事として犯罪捜査にあたっていれば、喜怒哀楽を感じることは当然である。そんなとき、彼はどうするか、わずかに表情を崩したり、口元をゆがめたり、あるいは目をしょぼつかせる。こうした表情の微妙な変化こそが、このドラマの優れた魅力なのである。

サム―魅力的な脇役の登場

イギリス・ミステリーでは、主人公とともに脇役も見逃せない。ホームズにはワトソン、ポワロにはヘイスティングス(ジャップ警部も忘れてはならない)。そしてフォイルにはサム。「サム」という名前を聞くと男性かと思うが、実は「サマンサ」という若い女性。必ずしも美人とは言えないけれど、明るく元気でかわいらしい。年配のフォイルにサムの組み合わせが実にいい。

サムはフォイル付きの運転手だが、こんな役柄が登場した背景には第一次世界大戦で男性が戦地に行き、その穴を埋めるように女性が国内のさまざまな職種に進出したことがあるのかもしれない。バスの運転手に女性がなったこともあったからだ。だとしてもドイツ軍の空襲が相次ぐ中で、犯罪捜査という危険な仕事の一翼を担うのは大変である。それをサムは嬉々としてこなし、時には危ない橋も渡る。それがこのドラマの大きな魅力となっている。

それにしても考えてみれば、男同士のコンビは多くあるが、男女のコンビは珍しい。もちろん上司が女性、部下が若い男性というのは増えているが(ただし、ミス・マープルは一人で事件を解決する)、男性の上司に若い女性を配するのは珍しい。年齢差のあるフォイルとサムでは、恋愛問題も起きないから安心(?)である。そしてこのサムが、物語が進むにつれて存在感が強まるのだから楽しみが増えるのである。

ダンケルクの戦い―イギリス軍を本気にさせた悲劇

1940年5月、ドイツ軍は破竹の勢いで連合軍を北フランスのダンケルクまで追い詰めた。イギリス海外派遣軍とフランス軍、合計35万人が殲滅(せんめつ)寸前の危機に瀕したのである。
このとき、イギリス首相チャーチルは、35万人の兵士たちを何としてもダンケルクから救出しようと考え、軍艦だけでなく、民間の漁船、ヨット、あるいは艀(はしけ)までも使って救助に向かわせた。もちろんイギリス空軍もドイツ軍に反撃し、カレー(注:フランス北部の都市)でドイツ軍に包囲されていたイギリス軍はドイツ軍の注意をそらすべく陽動作戦をとった。

こうして、イギリス軍兵士の大半が帰還することになり、兵力を温存することができたのである。もちろん多くの武器、弾薬が失われたし、陽動作戦に活躍した3万人の兵士も命を落としている。しかしこれだけの犠牲を払ってでも多くの兵士を帰還させられたことで、イギリス軍は反撃に移ることができたし、何よりもこの壮絶な悲劇があったからこそ、決死の覚悟でドイツ軍に立ち向かえたのである。
ダンケルクの撤退作戦を背景に描かれた第3・4回「臆病者」は、刑事フォイルのシリーズ中、もっともすさまじく、加えて父と子の親密な関係を見事に描き出して、涙を誘うエピソードとなっている。

サー・オズワルド・モーズリーという人物

このドラマには、いくつか現実にあった出来事が取り入れられている。その一つが、イギリス国内にもユダヤ人排斥を支持するファシストのグループがあったことだ。(第3・4回「臆病者」で「フライデー・クラブ」として登場)
実在のグループの中心にいたのがサー・オズワルド・モーズリー(1896-1980)。准男爵だから、上流階級の一員である。

モーズリーは第一次世界大戦に従軍、後に保守党議員となったが、やがて労働党に鞍(くら)替えし、1929年には労働党内閣の一員となる。だがまもなくこれも離党して新党を結成、1932年にドイツ、イタリアを訪れて、ファシスト政権に惹(ひ)かれ、党名を「イギリス・ファシスト同盟」と改称してファシストとしての立場を鮮明にした。一時は人気を集めたものの、やがて「反ユダヤ主義」を主張するに至って国民の支持を失い、第二次世界大戦が始まると、イギリス政府の手で逮捕され、組織も解散させられた。

このモーズリーに、ヒトラーは期待を寄せていたとされるが、イギリス政府はこうした危険人物の動静に目を光らせていたのである。このため、戦後になって国政復帰を図ったものの、モーズリーが望んだ地位を得ることはなかった。

イギリス人がこよなく愛するパブ

パブとは、日本風に言えば居酒屋だが、同時に宿泊ができる場所でもあった。パブとは「パブリック・ハウス」の短縮形で、中世以来、イギリスには「エール・ハウス」、「タヴァン」、そして「イン」と呼ばれる店があり、この3つともビールや食事を出し、場合によっては宿泊もできたのである。現代の日本でも「〜イン」とあるのは、ホテルを指すのと同じこと。

さて、居酒屋でもあり、泊まることも可能なパブはイギリス各地に山ほどあって、特に小さな町では住民たちが集まるところとして不可欠な場所だった。何かと言えばみんなパブにやってくるのである。警察官もパブで飲むし、若者たちはパブでダンスをする。平和なときはもちろんのこと、戦時中でもパブは賑わうのである。

手頃な値段でお酒が飲めて、食事もできる。旅行で訪れた町にそんなパブを見つけたら、宿泊が可能か聞いてみるといい。楽しい体験ができること間違いない。このドラマでも、パブに集まる人びとは楽しそう。でもそんなパブにも戦火の嵐が襲ってくるのを見ると、つくづく戦争はいやだと思う。

アメリカ参戦を望むイギリス

第二次世界大戦では、連合軍の主力として戦ったイギリスだが、戦いが長引くにつれて、徐々に息切れしていく。もちろん、イギリス軍の士気はそれでもくじけることなく、国民も苦しい状況を堪え忍んでいた。そのイギリスにとって、頼みの綱となるのはアメリカであって、チャーチルはこのアメリカの参戦を強く望んでいた。アメリカからは武器や食糧がもたらされていたが、それ以上に欲しかったのはアメリカ軍の参戦である。

このときのアメリカ大統領はフランクリン・ルーズベルトで、彼はイギリスの勝利を望んでいたものの、議会や世論は参戦には消極的だった。そんな中、1941年6月に、独ソ戦が始まり、ドイツがイギリスよりも、先にソ連を押さえ込もうとしたのである。しかもこの年の12月には日本が英米両国に宣戦布告をする。その結果、アメリカは否応もなくヨーロッパ戦線に関わりを持たざるを得なくなり、こうしてチャーチルが望んでいたアメリカの参戦が実現したのである。

アメリカの参戦により、連合軍は大きな力を得てドイツを打ち破るのだが、その代償は大きなものだった。戦後になると、アメリカから受けた援助の見返りとして、多額の金銭を供出せざるを得ず、イギリス経済は疲弊していく。また、やがて始まる米ソを中心とした冷戦時代の中で、イギリスの国力は大きく失われていくのである。

バトル・オブ・ブリテンとイギリス空軍

『刑事フォイル』には、実際の戦闘場面が出てくることは少ないが、戦争に大きな関わりをもつものとして、空軍がよく登場する。これは言うまでもなく、フォイルの息子アンドリューが空軍パイロットだからである。
しかし第二次世界大戦という背景を考えるとき、この空軍の存在は実に大きなものがあった。まず、ドイツ軍は戦闘機によってイギリス本土爆撃をおこなっているし、ロンドン空襲ではこれによって大きな被害が出ている。また空からの爆撃を受けて、ロンドン市内では地下鉄の構内が防空壕として使われたことは有名である。

ドイツ空軍による激しい攻撃を受けて、これに立ち向かったのがイギリス空軍で、「バトル・オブ・ブリテン」のいわば主役として活躍したのが、「スピットファイア」と呼ばれる戦闘機だった。この戦闘機は次々に改良を加えて、その性能を高めたが、いずれにしても「バトル・オブ・ブリテン」における勝利の立役者として高い評価を得たのである。その証拠に、ドイツ空軍のエース・パイロットだったアドルフ・ガーランドは、「イギリス空軍に勝つにはスピットファイアが何より必要だ」と言ったそうだ。

戦時下及び戦後の食糧問題

どんな戦争であれ、食糧問題は重要となる。兵士はもちろんのこと、戦時下の一般市民にとっても日々の暮らしを支える食べ物の不足はつらいものである。
第二次世界大戦を戦ったイギリスにとって、戦争が長引けば長引くほど、この問題は深刻となる。そこで食糧の配給制度が実施され、しかもこれは戦後になっても続いた。『刑事フォイル』でも、徐々にこの問題が取り上げられ、サムなどはしばしば食糧不足への不満を口にする。では実際はどうだったのか。

平均して、一人あたり1週間の配給は、ハムとベーコンが113グラム。卵に至っては1944年時点で一人に1個だったというから、イギリス人の朝食はさびしいものだった。ポテト、つまりジャガイモも同じく3個か4個程度だったそうだから、それでなくともまずいと言われるイギリス人の食事は貧相だったのである。
ついでに言えば、新しい服を買うには配給用クーポンが必要で、この制度は1949年3月まで続いたそうだから、クーポン不要の着古しの服を手に入れるのが普通だったのである。

勝利の後に待ちうけていたもの

1945年5月にドイツが降伏し、第二次世界大戦のヨーロッパ戦線は終わりを告げた。続いてこの年の8月に日本が降伏したのはすでにご承知の通りである。 ようやく終戦を迎えて『刑事フォイル』の世界にも歓迎ムードが漂うが、話はそれで終わりとはならなかった。アメリカを中心とする西側陣営、これに対してソ連を中心とする東側陣営、この両者の対立が深まり、いわゆる「冷戦時代」に突入するのである。そうした中で、フォイルの生活にも思わぬ展開が起こり、新たな仕事に邁(まい)進せざるを得なくなる。それがどういうものか、詳しく述べることは控えるが、要するにフォイルの戦いは続くのである。

一方、どうしても目が離せないのがサムの生活。エネルギッシュなサムがいったいどのような生き方をすることになるのか、これも詳しく述べることは控えておこう。ただし、一言だけ付け加えておけば、戦後の時代の中で、サムは明るく生き生きと暮らしてゆく。そのことがこのドラマの後味をよくするのである。そして、ミルナーにも幸せが訪れる。後は、フォイルの息子アンドリューだが、さて彼は?

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