2018年3月6日(火)

知られざる“津波の死” 語り始めた法医学者たち

桑子
「こちらは、1万5,894のともしびです。
東日本大震災では、避難生活による体調の悪化などで亡くなった、いわゆる震災関連死を除いて、一度にこれだけ多くの命が奪われました。
これまで、90.4%の方々は津波による『溺死』だったとされてきました。
しかし、そう判断された人の中に、別の理由で亡くなった人たちがいると、今になって語り始めた医師たちがいます。」

“溺死”に隠された死因 語り始めた法医学者たち

震災直後、被災地にかけつけ、亡くなった人の死因の究明を行った、医師の内ヶ崎西作さんです。

日本大学医学部 法医学分野 内ヶ崎西作医師
「主に使うのがピンセット。
これがメス。
こういうものも持っていきました。」



内ヶ崎さんは、当時、溺死と判断した中に、別の死因で亡くなった人がいたかもしれないと考えています。
死因の究明にあたったのは、3,000人を超える犠牲者が出た、宮城県石巻市。

日本大学医学部 法医学分野 内ヶ崎西作医師
「これが当時の、私が作った死体検案書のファイル。」

当初、死因の欄に書いていたのは、「溺水による窒息」。

しかし途中から「推定」の文字を書き加えるようになりました。
最終的には、半数に及びました。

日本大学医学部 法医学分野 内ヶ崎西作医師
「最初のころは、(推定と)つけていなかったが、はたと気づいて『ちゃんと死因を調べられていないじゃないか』という思いから、『推定』とつけるようにしていた。」

「推定」とした理由。
それは、死因を判断した多くの遺体に、溺れただけではない所見が見られたからでした。

日本大学医学部 法医学分野 内ヶ崎西作医師
「流されている中でがれきと衝突して、傷を負ったような遺体もあったと思うし、壊れた車で挟まれてケガをしたんだろうという遺体もありました。
津波によって溺れたといっても、その中には、いろいろな亡くなり方があるということが、もしかすると、津波による溺死の特徴、その怖さということかもしれません。」

東日本大震災の現場に入った法医学者は、118人。
内ヶ崎さん同様、溺死以外の死因があったと考える医師は少なくありません。

医師の岩瀬博太郎さんも、もう1つ、別の死因があったと指摘しています。
岩瀬さんは、市街地が壊滅した岩手県陸前高田市で死因の究明を行い、ほとんどを溺死と判断しました。

千葉大学医学部 法医学教室 岩瀬博太郎医師
「この中に凍死した人がいたのかな。」

しかし、その中に、津波から生き延びたものの、その後「低体温症」で亡くなった人がいたのではないかと考えるようになりました。
そうした人たちが実際にいたという証言を聞いたからです。

千葉大学医学部 法医学教室 岩瀬博太郎医師
「溺死と診断してしまったが、凍死・低体温症による死亡は多くあった気がする。
ただ『低体温症』と診断するのも、解剖して血液の検査をしないといけないが、それもできないわけですから、亡くなった方に申し訳ない。
本当にちっちゃい子が亡くなったりしていたから、この子がもし凍死だったら、温めてあげればよかったんじゃないか、全然いまだに答えが出ていない。
これトラウマなんです。」

“溺死”に隠された死因 苦しみ続けてきた遺族

遺族の中にも、溺死だったとされたことで、7年間、苦しみ続けてきた人がいます。

福島県南相馬市に住む、中橋安彦さんです。

銀婚式を迎えたばかりの、妻のかつえさんを亡くしました。
医師から「溺水」だったと言われましたが、震災直後の混乱の中、詳しい説明はありませんでした。
亡くなった状況を詳しく知ることができないまま、今日まできました。

津波で妻を亡くした 中橋安彦さん
「検案書は、その後の手続きのために発行されたものであって、どういう状況で、どういう形で亡くなったのか、本当の証明ではないような。
溺れ死んだのではなくて、もしかしたら息があったんじゃないかとか。
本当にどういう形で逝ってしまったんだろう。」

“溺死”に隠された死因 次の災害に生かすために

津波による、さまざまな死があった事実。
医師の岩瀬さんは、今、当時の経験を伝えることで、次の災害に生かしていきたいと考えています。

この日、津波の予測や避難のあり方を研究する専門家たちを訪ねました。
膨大なデータを計算し、それぞれの町に津波がどう押し寄せるか、シミュレーションを行っている人たちです。
岩瀬さんの訴えに、専門家からは「低体温症で亡くなる前に早期に発見するため、研究を生かせないか」という声があがりました。

中央大学理工学部 有川太郎教授
「どの辺に漂着する、流されるなど、確率的にデータベースができる。
もしかしたら、生存している可能性のある人を効率的に見つけられる可能性があって。」



東北大学 災害科学国際研究所 今村文彦所長
「なぜ、亡くなったかっていうのは、常に疑問に思っていました。
しかし、亡くなった方の情報にアクセスする、私自身も勇気がなかった。」




千葉大学医学部 法医学教室 岩瀬博太郎医師
「助けられた命はあると思う、対策をすれば。
詳しい結果がわかれば、『これは助かったんだから』という例が出てくる。
1,000人亡くなったうち、200人が1つ対策をとれば助かったかもしれないことに、議論すれば気付くかもしれない。」

知られざる“津波の死” 次の災害に生かすために

有馬
「取材した医師の岩瀬さんは、こう話していたそうです。
『法医学の役割は、人の死因を分析して、それを今の社会に生かすということなんだ』と。
つまり死因が分かれば、それを防ぐこともできると、そういう考え方です。」

桑子
「1つでも多くの命を救いたい。

そうした思いから生まれたのが、こちらの非常用のリュックサックなんです。
ライフジャケットのようになっていまして、これを背負って水に入りますと、自然に仰向けになるよう設計されています。
そして、胸の部分は頑丈な作りになっていまして、胸への衝撃を和らげるようになっているんです。」

有馬
「津波に対しては、まずは高いところに逃げる、これが第一ですけれども、過去の経験に即した、あらゆる備えを大事にしたいですね。」

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