2018年4月26日(木)

“歴史的な初対面” あす南北会談

有馬
「ソウルの近くに設けられた、プレスセンターです。
私の後ろ、ご覧ください。
報道向けのスペースが、およそ1,000席、設けられています。



明日(27日)は、首脳会談を取材するため、内外の報道関係者およそ3,000人が集まる見込みです。
世界のメディアが注目するのは、北朝鮮の非核化についてどこまで突っ込んだやりとりが行われるのか、そして明日の首脳会談が非核化への出発点となるのかどうかです。
今日(26日)、そして明日と、ここ韓国からお伝えします。
まず、その会談について、日程などの詳細がようやく明らかになりました。」

“史上初”が並ぶ会談へ 「非核化」の行方は

有馬
「南北首脳会談のスローガン。
『平和、新たな始まり』とあります。」

韓国大統領府 秘書室長
「歴史的な初対面になる。
議題の中心は『非核化』と『恒久的平和の定着』だ。」

「『非核化』はどんな形で合意される?」

韓国大統領府 秘書室長
「見ていてください。」

南北首脳会談で初めて集中的に議論される北朝鮮の「非核化」は、進展するのか。

北朝鮮 朝鮮労働党 副委員長
「朝鮮戦争の休戦協定を、全面的に白紙化する!」

国際法上は終結していない朝鮮戦争の、平和協定締結への道筋は示されるのか。

「会談の準備はどうですか?」

韓国 ムン・ジェイン(文在寅)大統領
「うまくやってますよ。」

世界が注目する会談の詳細な日程が、明らかになりました。
明日・午前9時半。
キム・ジョンウン委員長が、北朝鮮の最高指導者として初めて、軍事境界線を徒歩で越えて韓国側に。
そこで韓国のムン・ジェイン大統領が出迎え、近くの会場で歓迎式。
このあと両首脳は「平和の家」へ移動して…。
午前10時半。
10年半ぶり、3回目となる南北首脳会談の開始です。

韓国側の随行員は、秘書室長や国家安保室長ら7人。
北朝鮮側からは、最高人民会議常任委員長やキム委員長の妹・ヨジョン氏など、9人が随行します。

そして午後の会談終了後、両首脳が合意文に署名へ。
2人そろって会見すれば、これも史上初となります。
目前に迫る南北首脳会談について、北朝鮮の後ろ盾・中国は…。

中国外務省 華春瑩報道官
「中国政府は南北首脳会談の成功を願っている。
朝鮮半島が吉報を届け、持続的な平和に向け、正しい道を切り開いてほしい。」

そして、米朝首脳会談に向けて北朝鮮の出方を慎重に見極める考えのアメリカ。
明日、「平和」は「新たな始まり」を迎えるのでしょうか。


有馬
「歴史に残るかもしれない会談を明日に控え、ソウルの人たちはどんな思いでいるのか。
期待と不安が混ざり合う、その複雑な胸の内を取材してきました。」

有馬が迫る 会談直前のソウル

有馬
「明日、どんな日か皆さん知ってますか?」

「南北会談!」

有馬
「首脳会談で何を話し合うのか、知ってる人?」

「終戦宣言と非核化です。」

「南北首脳会談が中心になって、世界の国々に平和の時代が来てほしい。」

有馬
「子どもたちもよく知っているんですね。
明日が南北首脳会談だと、学校でも家庭でも話している様子です。」

ソウルの人たちは、明日の会談に何を期待しているんでしょうか。

「韓国の平和を期待する。
否定的に見るより信じていくのがいい。」

「非核化のあとに南北交流、それを多くの国民が望んでいる。」

多くの人から聞かれたのは、会談への前向きな言葉。
韓国の世論調査では、7~8割の人が今回の首脳会談を好意的に捉えています。

五輪 兵役 就職難 若い世代“複雑な思い”

北朝鮮への見方を大きく変えたのが、ピョンチャンオリンピック。
アイスホッケー女子では、南北の合同チームが結成されました。
大会のボランティアを務めた若者たちにとっては、北朝鮮の選手を間近で見る初めての機会になりました。

「最初は北朝鮮選手を見るのも不思議な感じがしたが、親近感が湧いてきた。」

「北朝鮮の選手に会い、長い間、分断されていても、同じ民族なんだと感じることができた。」

実際に、合同チームで北朝鮮の選手と一緒になったアイスホッケー選手は…。

南北合同チーム アイスホッケー女子 チェ・ジヨン選手
「一緒に過ごしてみると、先に話しかけてくれたり、思っていたよりとても真面目で純粋で、実の姉のように感じられた。」

ともに時間を過ごすことで距離を縮めた選手たち。
しかし、オリンピックのあと、北朝鮮の選手とは連絡が取れなくなりました。

南北合同チーム アイスホッケー女子 チェ・ジヨン選手
「北朝鮮の選手が『ピョンヤンに来たら冷麺をごちそうする』と言ってくれた。
ごちそうになりたいし、ホッケーも一緒にやりたい。
平和に向かう、よい首脳会談になってほしい。」

一方、複雑な思いを抱く人もいます。
兵役で北朝鮮と対じした経験をもつ若者たちです。
チョン・チョルジンさんです。
一昨年(2016年)12月までのおよそ2年間、兵役に就いていました。
軍にいたのは、北朝鮮が弾道ミサイルの発射や核実験を繰り返していた時期。
昼夜を問わず警戒を強いられていたといいます。

チョン・チョルジンさん
「挑発が怖かった。
(北朝鮮が)何をするか分からず、緊張を緩めることはなかった。」

急速に融和ムードが高まる中でも、警戒心を解くことができないといいます。

チョン・チョルジンさん
「約束を交わすと言っても、必ずしも守られるとは思っていないが、同じ民族が銃を構え対じすることはよくない。
そういう状況がなくなったらいいと思う。」

最後に取材したのが、公務員になるための塾が集中するエリアです。
若者の就職難が長引く韓国。
将来への不安を抱える若者からは、冷めた声も聞かれました。

「(会談に)関心がないわけではないが、深くあるとはいえない。」

「まずは自分のこと?」

「そうですね。」

「私たちの世代は、北朝鮮に対して胸が痛いとかの感情を持つ世代ではない。」

「いつか統一されればうれしいが、必ずしも自分たちの世代で早く成し遂げるべきとは思っていない。
もう少し急がず、南北が落ち着いて話し合い、その日を迎えられればいい。」

南北“融和ムード” さまざまな受け止め

桑子
「同じ若い世代でも、自分の経験やおかれた環境によって、今の南北関係に対して全然考え方が違うんですね。」

有馬
「そうなんです。
その辺りを詳しく聞きたいと思います。
ソウル支局の池畑支局長です。
去年(2017年)の年末から3回にわたって韓国で取材していますが、この間の動き、キム委員長の『融和』攻勢は本当に早かったですが、改めて、韓国の人たちはどう受け止めているのでしょうか?」

池畑修平支局長(ソウル支局)
「去年、米朝間で緊張感がじわりと高まって軍事衝突もあるかもしれないというところまでいったのを考えれば、今のように北朝鮮が対話に出て、緊張が緩和しているということは、ほとんどの韓国人は歓迎しています。
ただ、キム委員長をどう見るかとなると、政治的な立場や世代などによって大きく違います。
韓国の保守派の人たちにとって北朝鮮は、まず、戦争を戦った敵です。
そして、その後の保守・軍事政権での急速な経済成長が、北朝鮮の脅威から韓国を守り抜いたという思いが強いんです。
しかし、ムン・ジェイン政権のように革新系の人たちにとっては、戦争は北朝鮮が一方的に悪いというよりも、朝鮮半島の分断が招いた悲劇であると位置づけて、北朝鮮の人たちは同じ民族だという思いが強いんです。」

有馬
「確かに韓国の『保守』と『革新』の間の溝は大きいように感じますね。」

池畑支局長
「そして世代間の溝も大きいです。
今のムン政権の中核をなす40代後半~50代の人たちは、韓国の民主化闘争の世代です。
その人たちの大半は、韓国の軍事政権に対する強烈な否定が、北朝鮮への融和姿勢につながりました。
一方、若い世代にとって北朝鮮は遠い存在です。
とりわけ兵役で北の近年の軍事挑発に直面した若者たち、そして就職難に苦しむ若者たちは、今のキム委員長の対話姿勢にも冷ややかです。」

有馬
「韓国で根強い北朝鮮への懐疑心。
とりわけ北朝鮮と具体的な衝突を経験した人たちは、ムン政権になって社会の風向きが急速に変わったことに強い不信感を持っています。」

攻撃で犠牲者も “北朝鮮は信用できぬ”

韓国は、これまで北朝鮮によるとみられる攻撃に繰り返しさらされてきました。
1983年には、韓国の大統領を狙った爆弾テロ事件が発生。
大統領は無事だったものの、21人が犠牲になりました。

1987年には、大韓航空機爆破事件。
115人が亡くなりました。
そして2010年には、韓国西部のヨンピョン島(延坪島)を北朝鮮軍が砲撃。
住民2人を含む4人が犠牲になりました。


リポート:安永和史記者(ソウル支局)

南北の分断と対立。
その1つの象徴となってきたのが、2010年3月に起きた韓国海軍の哨戒艦、「チョナン(天安)」の沈没事件です。
乗組員104人のうち、46人が死亡しました。

沈没の原因について、韓国やアメリカなどが合同で調査。
現場の海域からハングルが書かれた魚雷の部品が発見されたことなどから、北朝鮮の小型潜水艦の魚雷攻撃によって沈没したと結論づけられました。
しかし、北朝鮮は一貫して関与を否定しています。

事件の生存者で作る団体の会長を務める、ジョン・ジュンヨン(田峻栄)さんです。
事件から8年、北朝鮮が責任を認めないことを批判し続けてきました。

事件の生存者で作る団体の会長 ジョン・ジュンヨンさん
「北朝鮮は絶対に信用できない。
これまでにも首脳会談のあとにまた挑発をして、核やミサイルを開発してきた。
私が知る限り、北朝鮮が約束を守ったことはない。」

事件を風化させてはならないと活動を続けてきたジョンさん。
ところが、ムン政権の発足後、南北融和を阻害しているという批判が多く寄せられるようになりました。
こうした中、ジョンさんがショックを受けたのが、公共放送KBSが放送した、チョナン沈没を特集したこの番組。

韓国KBS
「突然沈んだ原因は、何なのか。」

沈没事件は北朝鮮の攻撃によるものではなく、座礁ではないかと指摘。
当時、政府が出した調査結果に疑問を呈したのです。

韓国KBS
「現場に居合わせた人々から、政府の調査結果とは異なる証言が得られた。
“沈没は魚雷によるものか、多くの疑問が残る”と。」

さらに今月(4月)。
事件への関与を否定してきたはずの北朝鮮の幹部が、韓国のメディアに対し、冗談めかしてこう自己紹介しました。

朝鮮労働党副委員長 キム・ヨンチョル氏
“南で『チョナン沈没の主犯』と言われている、キム・ヨンチョルです。”

この発言に対して、韓国国防省は明確に抗議をしませんでした。

韓国国防省の会見
「この発言について公式に言及するのは適切ではない。
具体的にどの人物・機関が攻撃を主導したのか、特定できていないからだ。」

対話を重視するムン政権が、キム・ジョンウン委員長との関係を重視したために、毅然とした態度を取れなかったのではないか。
ジョンさんは、このままでは、南北首脳会談は北朝鮮に都合のいい議論ばかりになりかねないと不安を募らせています。

事件の生存者で作る団体の会長 ジョン・ジュンヨンさん
「政府は私たちを“対話ムードの流れを妨げる障害物”かのように扱っている。
首脳会談は貴重な機会で、非核化はもちろん重要だと思っている。
だからといって、ムン政権には北朝鮮の言いなりにはならないでほしい。」

あす“歴史的会談” ムン政権の戦略は

有馬
「今のリポートのような意見、私も本当に多くの人たちから今回聞きました。
『首脳会談は賛成だが、ムン政権の話の進め方に不安がある』と。
ムン大統領は前のめりであるという指摘もありますが、明日はどんなスタンスで臨むのでしょうか?」

池畑支局長
「ムン大統領が前のめり、あるいはキム委員長の言動に『合わせて』いる側面は確かにあります。
見ていますと、ムン大統領が北と手を取り合って融和ムードを演出することで、『不満を声高に言うのは、はばかられる』という世論を作ろうとしていると思えてなりません。
例えば先日、キム委員長が核実験やICBMの発射実験の中止、核実験場の閉鎖を表明しましたよね。
ムン大統領はこれを『全世界が願う朝鮮半島の非核化に向けた意味のある進展だ』と、全面的に称賛しました。」

有馬
「しかしあの表明には、今、開発して保有しているであろう核兵器をどうするかということについては、言及がまったくなかったわけですよね。」

池畑支局長
「そうなんです。
『あれは事実上の核保有国宣言ではないか』という批判も出ているんです。
しかしムン大統領は、そうした指摘には目をつぶり、『全世界が願っている』というフレームに話を流し込むことで、批判を言いづらくしたと感じました。
会談を成功させたいがために、キム委員長が聞きたくない話は最小限にとどめ、平和の重要性を前面に押し出すことで韓国国内の不満を抑えたいのだと思います。
ただ、そうした融和姿勢は、一歩間違えると、キム・ジョンウン委員長から『くみしやすい相手だ』と見られてしまうリスクをはらんでいます。」

有馬
「そうしたリスクについて、日本の専門家と、明日の首脳会談に向けてムン大統領に助言している人物に話を聞きました。」

あす“歴史的会談” “リスク”どう見るか

元外務事務次官の、藪中三十二(やぶなか・みとじ)さんです。
小泉元総理大臣の訪朝にも同行するなど、北朝鮮との交渉に取り組んできました。
ムン大統領側は、融和政策を進めたノ・ムヒョン政権の統一相、イ・ジョンソク氏です。
今回の首脳会談のアドバイス役も務めています。
非核化に向けた北朝鮮の意思を、2人はどう見ているのか。

有馬
「非核化が後回しになって、会談が進むのでは?」

元外務事務次官 立命館大学客員教授 藪中三十二さん
「(北朝鮮は)最低限、何らかの格好で非核化にコミットすることは言うと思う。
問題は非核化の中身。
どんな条件がつけられているのか。
北朝鮮がどれだけ核開発をしてきているのか分からない。
どう廃棄していくのか、一個一個を検証しないといけない。」

ムン大統領の諮問団メンバー イ・ジョンソク元統一相
「私はキム委員長の非核化の意志を疑う必要はないと思う。
北朝鮮は、アメリカからまだ何も見返りを得ていない段階で、核実験やICBMの実験を中止し、核実験場も閉鎖した。
今回の南北首脳会談は、その後のアメリカと北朝鮮の首脳会談で非核化の問題が正しく解決されるための礎となるでしょう。」

日本が直面する拉致問題については…。

元外務事務次官 立命館大学客員教授 藪中三十二さん
「話し合いの中で、拉致問題が置いてけぼりになるのではないか。
日本が自分の外交を、相当、積極的にやらないといけない。」

ムン大統領の諮問団メンバー イ・ジョンソク元統一相
「非核化が実現しなければ、意味はありません。
日本は、核問題が解決してから拉致について北側と話をすればいい。
北朝鮮が真摯(しんし)に対応してくれると信じて話していけば、十分に解決できるだろう。」

その上で藪中さんは、会談に臨む韓国に対して…。

元外務事務次官 立命館大学客員教授 藪中三十二さん
「今までの20年間の(北朝鮮との)交渉を知っている人は、『毎回だまされてきた』と。
韓国大変だよこれから、ごまかされてはいけないよと。」

あす“歴史的会談” カギは「非核化」

有馬
「明日の会談の焦点は『非核化』ですが、ムン大統領はどこまで具体的に議論を進めるのでしょうか?」

池畑支局長
「ムン大統領は、今回の首脳会談は過去2回とは違って、米朝首脳会談の前哨戦という色合いが濃いことは十分に理解しています。
キム委員長から非核化の意思表明を引き出さないことには、みずからが追い求める恒久的な平和体制の話し合いも始まりません。
ただ、キム委員長は、中国を訪問した際などに、すでに『非核化には見返りが必要だ』と予告しています。
『まずは核を速やかに放棄し、見返りはそのあとで』という流れであるべきだとする、トランプ政権との隔たりは大きいんです。
このため、ムン大統領に求められているのは『調整役』です。
キム委員長の非核化への意思表明のレベルを上げ、一方、トランプ大統領の北朝鮮に対する要求のレベルを下げるという、実はかなり困難な調整役です。」

有馬
「ただ、繰り返しますが、北朝鮮はこれまでの『裏切り』の経緯がありますよね。」

池畑支局長
「キム委員長は、先日のように核実験やICBM発射実験の中止、核実験場の閉鎖を繰り返すだけでは、『すでに開発した核やICBMは手放さない』というメッセージにもなりかねません。
そうなっては、米朝首脳会談が立ち消えになってしまう可能性があります。
ですので、キム委員長は明日、もう少し踏み込んで非核化への意思を表明をするとは思います。
ただ、その踏み込みぶりが、トランプ政権も納得するレベルとなるのか。
こればかりは明日の会談結果を見るしかありません。
ムン大統領としては、北朝鮮の対話姿勢が、過去のような『裏切りまでの時間稼ぎ』とは違う、今度こそ韓国やアメリカなどとの平和共存の決意だと示したいところです。
ただ、それもひとえにキム委員長の本心にかかっています。」

有馬
「明日の会談でキム委員長がどこまで非核化への『本気度』を示すのか。
そしてムン大統領には、その言質をぜひ取ってほしいと思います。」

Page Top