2019年2月15日(金)

“伝説の杜氏”再び 86歳 新たな挑戦の日々

農口尚彦さん、86歳。
「日本酒の神」と呼ばれてきた伝説の杜氏(とうじ)です。

杜氏 農口尚彦さん
「酒の香りが出てきた。」

農口さんは4年前、高齢などを理由に酒造りを一度、引退。
しかし、再び現役に戻り、若者たちと新たな挑戦を続けています。
目指すのは、究極の酒です。

有馬
「『人生100年時代』と呼ばれ始めた今。
人はいくつまで情熱を持ち続けることができるのでしょうか?」

桑子
「そんな時代の先頭をゆくような、ある伝説の杜氏の挑戦の日々をご覧ください。」

“日本酒の神”再び 86歳 新たな挑戦

小雪が舞う冬の北陸。
山あいに建つ1軒の酒蔵があります。
冬に最盛期を迎える日本酒造り。
86歳の農口尚彦さんは酒造りの総責任者・杜氏として、忙しい日々を送っていました。

杜氏一家の三代目として生まれ、16歳から酒造りの道に入った農口さん。
全国新酒鑑評会で、前人未到の連続12回、通算27回の金賞を受賞。
「日本酒の神」と呼ばれてきました。
80代になり、4年前に引退。
しかし、再び現場に戻ってきたのです。

杜氏 農口尚彦さん
「家にじっとしていると、何も考えず頭も空っぽになって、家にいると何か老けてしまう。
蔵に来てからシャキッとしてね、酒造りの頭に戻ってね。」

“日本酒の神”再び 信念“菌と対話する”

冬の間、農口さんたちは、酒蔵に寝泊まりして作業にあたります。
この日、行われたのは、原料となる米を洗う作業でした。
農口さんは、米の状態やその日の気温などを判断。
水に浸ける時間を秒単位で毎日、調整します。
米に含ませる、わずかな水分量の違いで酒の味が決まるからです。

そして、農口さんが最も神経を使うのが、室温40度近くに保たれた「こうじ室」での作業。
蒸し上がった米に、こうじ菌の胞子を振りかけます。
理想は、米1粒1粒に菌糸を米の芯まで食い込ませること。
米のうま味を最高に引き出す、「つきハゼ」と呼ばれる状態です。
そのために米の状態を見て、こうじ菌の量を微妙に調整します。

杜氏 農口尚彦さん
「自分を菌に近づける。
菌と対話できるまで、菌に愛情をかける。」

酒蔵の壁には、農口さんの信念が刻まれています。

“麹菌に合わすんだ、酵母菌に合わすんだ自分を。自分の都合を押し付けとるようじゃ 絶対酒はこっちを向いてくれない”

この日、農口さんは発酵中の酒を試飲していました。
酒造り70年。
しかし、飲むのは、実は苦手だと言います。

杜氏 農口尚彦さん
「下戸なんで3口も飲めば真っ赤になる。」

“日本酒の神”再び 86歳 新たな挑戦

農口さんが復活した、もう一つの理由。
それは、自らの技術を若い世代に引き継ぐ事です。
担い手が年々減少している酒造りの現場。
このままでは日本の伝統が衰退してしまう。
酒造りに興味のある若者たちを全国から募集したのです。

*杜氏 農口尚彦さん
「自分だけが先頭に立ってやっていく時代は終わったと思っている。
自分の持っているものを、若い人に譲って育てていきたい。」

去年(2018年)、この蔵に就職した大高尚人さん、24歳。
東京農業大学醸造科学科卒業という経歴の持ち主です。

蔵人 大高尚人さん
「農口尚彦が復活、石川の地で酒造りをまたやるという話を聞いて、これは最後のチャンスだと思って。」

理系出身の大高さん。
数値やデータには自信があるものの、農口さんが常々言う“感覚”が、分からないと言います。

蔵人 大高尚人さん
「食感とか五感に訴えかけてくるもの、味や香りや見た目というのは、あくまでその人の感性でしかない。
それを繰り返し繰り返しマネして(農口さんに)付き添って一緒に学ぶことしかできない。」

深夜11時。
この日も、農口さんは数時間おきに起きて、米の状態をチェックしていました。
すると、農口さんの感覚を間近で学ぼうと、新人の大高さんも起きてきました。
大高さんは、見よう見まねで、米の味や硬さを確かめます。
農口さんは米の状態を見ると、すぐに部屋の温度と湿度を調整。
大高さんは、農口さんの背中をずっと見続けていました。

蔵人 大高尚人さん
「一つ一つ、農口さんはどう感じているのかを考えながら、“菌に合わせる”という、おやっさんの言葉どおり、もっと寝る間を惜しんででも、お酒に寄り添っていかなきゃなと思う。」

農口さんが作り出す米のうまみが詰まった究極の酒。
蔵には日本全国、海外からも多くの客が集まります。


「すごくおいしかった。
作り方によって、これだけ味が変わるというのは、ちょっと感動しました。」

86歳にしてなぜ情熱を持ち続けられるのか。
取材の最後に聞きました。

*杜氏 農口尚彦さん
「やっぱりお客さんのね、喜ぶ顔が見たい。
私は下戸で飲めないので、お客さんに声を聞きながら、ここまでやってきた。
だから、お客さんの喜ぶ顔が見たい。
それが自慢、楽しみなんです。」

“日本酒の神”再び

有馬
「“蔵に来ると、頭がシャキッとして仕事に切り替わる”というのは、いくつになってもそんな感じなんですかね。」

桑子
「蔵に入ったときの表情が、キリッとされていて、全然違いましたよね。」

有馬
「目が鋭かったですね。
しかし、それにしても農口さん、まさかの下戸でいらっしゃいましたね。」

桑子
「それは驚きましたけれども、“日本酒の神”が手がけるお酒、どんな味なんだろうと思いました。」

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