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2017年11月11日(土)

共感集めるエッセイ漫画「しんさいニート」

小郷
「けさのクローズアップ。
こちら、去年(2016年)の秋に出版された『しんさいニート』というエッセイ漫画です。
東日本大震災で家も仕事も失い、再出発につまづいてしまう主人公の日常が描かれています。」

二宮
「出版以来、多くの人たちの共感を集め、その人気は今も衰えていません。」

物語は、震災が起きたその瞬間から始まります。
福島県に住んでいた主人公は、原発事故を受け、函館へ避難。
行く先々であらゆる支援を受け、何とか恩返しをしたいと歯を食いしばります。
営んでいた陶器の店をたたみ、美容師の資格も取って再起をはかります。

この人が、主人公で作者のカトーコーキさん、37歳。
絵が得意なカトーさんは、自分におとずれた突然の生活環境の変化や、周囲との人間関係を、当時の感情を織り交ぜながら、漫画で表現しようと思い立ちました。
美容師という初めての仕事に、戸惑いながらも懸命に励む主人公。

カトーコーキさん
「立派な被災者であらねばならないという思い込み。
弱音は吐けない、支援してもらってるんだから頑張らなければいけない。」

しかし、頑張りたいという気持ちとは裏腹に、職場の雰囲気にはいつまで経っても馴染めずにいました。
その上、先輩からは自分を否定される日々が続きます。
心が不安定になる中、長い間閉じこめてきたトラウマが一気によみがえってきました。
父親に否定され続けた、幼少期の辛い体験です。

“オレはやっぱり社会に適応できない人間なんだ…。”

身体が動かなくなり、自分をひたすら責める日々がつづられています。

二宮
「この『しんさいニート』は、震災を経験していない人たちにも力をもたらし、励ましになっています。」

小郷
「どんなところに共感し、支えとなっているのでしょうか。」

「しんさいニート」 心の過程に自ら重ねて

リポート:堤早紀

山形県の介護施設で働く、金子理さん。
漫画の中のカトーさんが心の病に陥っていく過程に共感し、心の支えになったといいます。

金子理さん
「自分に照らし合わせたときに、あぁ同じだって思いましたね。
何か苦しみ抱えて、こうやって心に傷をつけて生きているんだろうなって。」

金子さんは、7年前に介護の仕事を始めましたが、思うようにいかないことが多く、無力感を抱いていました。
そして、ついに心に大きな負担を抱え、出勤できなくなってしまいました。

金子理さん
「(自分は)必要ないのかなっていうのはありましたね。
替えはいくらでもいるのかなって。
本当にあの頃は、ひとりで苦しんで、もがいてましたからね。」

その時に出会ったのが、この一コマ。
カトーさんが震災後に味わった辛い体験の描写です。
そこには、自分の力ではどうにもならない境遇が映し出されていました。

“ボクが心を病んだからといって、世界は何も変わらない。
「毎日」という現実は、否応なくボクを追い立てた。”

つらい時、人はみな同じ感情をたどる。
自分だけが特別なのではない。
そう確信できた時、救われた気分になりました。

金子理さん
「カトーさんが一度は道が見えなくなった状態で、漫画を出版できるまでになったのが、とても心の支えになる。
ゆっくりゆっくりとでいいので、歩いていけたら。」

今、金子さんには新しい目標もできました。
新たな介護の資格を取り、仕事の幅を広げていこうとしています。

相手とどう向き合うか 「しんさいニート」ヒントに

「しんさいニート」によって、心を通わせにくい相手をどう理解したらいいのか、ヒントを得た人もいます。

東京町田市の通信制の高校で英語を教えている、伊藤香織さんです。
伊藤さんの悩みは、内向きな生徒への接し方でした。
人前では、常に否定的な言い方をしてしまう3年生の女子生徒。
作文の中では、そのことで悩んでいる様子を告白しています。


“人とのコミュニケーションなどのさまざまなところに不安を感じています。”

伊藤さんもこの生徒から否定的な言い方をされると、つい厳しく接してしまいます。

伊藤香織さん
「心と心のぶつかり合いになってくるので、なかなか面と向かって言っているときほど、伝わらない事ってあるんですよね。」

その時、出会ったのが「しんさいニート」に出てくる、この一コマです。

“上司がスタッフを肯定することで、スタッフはお客さんに幸せをもたらすことができる。”

伊藤さんは、これを学校に置き換えました。
「教師が生徒を肯定すれば、生徒は周囲に幸せをもたらし、そのことが生徒の自信につながる」。

面談に臨む伊藤さん。
この日は、生徒の良さを引き出すことを心がけてみました。

伊藤香織さん
「最後、机の片付け一緒にやってたでしょ。
みんな見てるよ。
自分が誰かのためにやりたいって思ったことはやっていいし。」

生徒
「自分が言ったことで、何かが変わるのも怖いし、変えたいけどね。」

伊藤香織さん
「大丈夫、本当に。
ちっちゃな『できた』とか、自己肯定感とか、いま、ここで積み重ねて。」

伊藤香織さん
「相手を否定せずに相手を受け入れていく気持ちが、輪のようにプラスサイクルになっていけば。」

生徒の心に思いが届き、幸せが広がるように。
「しんさいニート」が背中を押してくれました。

共感集めるエッセイ漫画 「しんさいニート」

二宮
「私、この『しんさいニート』を読んだんですが、カトーさんが被災をして以降、自己否定をしていく気持ちですとか、過去のトラウマがかなり詳しくさらけ出されていて、そういった部分を発表することの怖さもあったと書かれていたんですが、かなり勇気がいったと思うんですけど、だからこそ、自分も人には言えないけど、同じような気持ちをしたことがあるなとか思いましたし、自分自身ですとか、周りの人とどういうふうに向き合うかというのを考えさせられましたね。」

小郷
「本当に共感を呼んでいるんですよね。
この漫画に全国から寄せられた感想があります。

『生きる力をいただいた』『自分も真摯(しんし)に生きよう』。
『しんさいニート』が、多くの人の心に響いたことを物語っています。」

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