これまでの放送

2019年3月3日(日)

“黒い津波” 明らかになる脅威

小郷
「東日本大震災の発生から、まもなく8年がたとうとしています。
こちらは、あの日の地震のあと、津波を捉えた映像です。
堤防を乗り越えた津波。
その色は真っ黒に濁っているのが分かります。
こうした『黒い津波』は、各地で目撃されました。」

新井
「この『黒い津波』。
最新の研究で、強い破壊力をもち、人体にも影響を与えていたことが分かってきました。」

ペットボトルに残された“黒い津波”

去年(2018年)秋、黒い津波の実像を解き明かす重要な資料が見つかりました。
NHKに連絡を寄せてくれた、上田克郎さんです。

ペットボトルに入っているのは、東日本大震災で宮城県気仙沼市を襲った津波です。
異様な黒さに驚き、発生の翌日、くみ取りました。

上田克郎さん
「私も初めて見ました。
海の水となれば、透明な海水が上がってくるという認識がほとんどだと思うが、実は町を襲ったのは、この真っ黒い水だった。」

あの日、気仙沼市では、黒く色を変えた津波が町を襲っていました。
市街地の建物の半数近くが被災。
1,432人(関連死含む)が犠牲になりました。

実験で明らかになった“破壊力”

上田さんが保管していた黒い水。
専門家の協力を得て解析すると、黒い津波は、色が変わっただけではなく、破壊力が大きいことが分かってきました。
津波のメカニズムを研究する、有川太郎教授です。
成分を分析すると、多くは粒子の非常に細かい海底のヘドロだということが分かりました。
ヘドロなどを含んだ黒い津波では、何が起こるのか。
実験しました。
画面の上は水、下は黒い津波を再現したものです。
壁に衝突するときの力を比べる実験を繰り返しました。
水の場合、壁にぶつかった瞬間の力は256キロ。
一方、黒い津波では、その力は最大で556キロに達しました。

力が2倍以上大きくなった理由は、波の形にありました。
水の場合、波の先端はなだらかです。
一方、黒い津波では、波が盛り上がるように進んでいました。

黒い津波は、細かい泥を含んでいる分、下の部分で地面との抵抗が生じ、スピードが落ちます。
上の部分は抵抗が小さいため、後ろからきた波が乗り上げ、盛り上がります。
波の先端が立ち上がる形で壁にぶつかるため、破壊力が増すのです。

中央大学理工学部 有川太郎教授
「思っていた以上に力が大きくなったので、非常に驚いた。
なだらかにゆっくりとぶつかっていけば、そういう衝撃力は生まれない。
波面が切り立ってきて、波面と壁がぶつかることで強い衝撃力を出す。
力が増したぶん、確実に被害は大きくなっている。」

人体に影響も…

黒い津波は、あの日を生き延びた人の健康にも影響を与えていました。
自宅で津波に巻き込まれた、木村信子さんです。
自宅の1階で津波に巻き込まれた木村さん。
黒い津波を飲み込んでしまいました。
病院で告げられたのは、思いも寄らない病気でした。
「津波肺(つなみはい)」です。
津波に含まれた泥や油、化学物質などのさまざまな異物が肺の奥深くまで入り込み、重い肺炎を引き起こすのです。

木村信子さん
「津波肺っていわれたことが、初めての名前なので。」

津波肺の特徴のひとつが、治りにくさです。
1か月治療を続けたあとのX線写真。
まだ肺の下の方に炎症があります。
肺にさまざまな物質が入り込むため、原因を突き止めるのが難しく、治療が長引くのです。

木村信子さん
「呼吸が苦しい、浅い呼吸だから。
これが津波肺の怖さ。」

さまざまな物質を含んだ黒い津波が引き起こす津波肺。
死に至るケースもありました。

津波肺の患者が運び込まれた、岩手医科大学の櫻井滋医師です。
患者の肺の中を洗浄する治療を行ったところ、意外なものが検出されました。

カビです。
肺のなかで増殖し、炎症を広げました。
カビは血液を通して脳にまで達し、「脳膿瘍(のうのうよう)」という病気を発症した人もいました。

この病院では、カビが見つかった3人の患者のうち、1人は症状が悪化し、亡くなりました。

岩手医科大学 医学部 櫻井滋医師
「原因になるものが多数考えられる。
そうすると医師としては、何を敵にしたらいいのか分からない。」

「治療は難しい?」

岩手医科大学 医学部 櫻井滋医師
「難しいし、非常に手間がかかる。」

8年がたって、ようやく明らかになってきた黒い津波の脅威。
専門家は、これまでの津波に対するイメージを変え、備えることが重要だと訴えています。

東北大学災害科学国際研究所 今村文彦教授
「沿岸部に来ると泥や砂を巻き上げ、全く違う姿で、重い津波、または非常に有毒な津波として、われわれの町を襲うという理解をして頂きたい。
この黒い津波から、しっかり命を守らないといけない。」

小郷
「今になってようやく分かってきたことですが、こんな怖さもあるなんて、より恐ろしいものなんだと感じました。」

新井
「先週、政府の地震調査委員会は、東北の沖合で、今も大地震のリスクが高いという評価を発表しました。
津波の発生も懸念される中、黒い津波の詳しい研究は始まったばかりで、今後、対策の検討が進められていくということです。」

Page Top