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2019年3月8日(金)

原発周辺の被災地 “介護”が急増

高瀬
「東日本大震災、そして東京電力福島第一原子力発電所の事故から8年。
今、原発周辺の被災地で深刻になっている問題があります。」


和久田
「こちらは、65歳以上の高齢者のうち、介護や支援を必要とする人の割合です。
福島第一原発周辺の双葉郡8町村で、震災後に急上昇しています。
全国平均がわずかな上昇にとどまっているのに対し、異常な事態です。

中でも最も上昇しているのが、葛尾村です。
震災の年を境に10ポイント以上、高くなっているんです。」

高瀬
「一体、何が起きているのでしょうか。」

原発事故 周辺地域の高齢者に何が…

リポート:立石顕(NHK福島)

福島第一原発からおよそ25キロ離れた、葛尾村。
原発事故で、一時、全ての住民が避難しましたが、現在は、震災前のおよそ4分の1,350人ほどが暮らしています。

村で1人暮らしをしている、齊藤ヨシ子さんです。
足が悪く、生活に支障があるため、「要支援」の認定を受けています。

齊藤ヨシ子さん
「ここでなんでも作っていた。」

震災前、齊藤さんは村で活発な毎日を過ごしていました。
日課は、朝早くから家の前一面に広がる田畑での農作業。
さらに趣味の「日本舞踊」。
全身を使い、美しさを表現する踊りの稽古を、地域の仲間と重ねていました。

齊藤ヨシ子さん
「このころはよかった、楽しかった。
飛んだり跳ねたり得意で、元気だった。」

そんな齊藤さんの毎日を奪ったのが、原発事故でした。
葛尾村は、全域に避難指示が出されます。
齊藤さんも1人暮らしをしていた70代の弟を頼り、埼玉県に避難。
踊りの稽古をすることは全くなくなり、畑仕事も小さな家庭菜園に出るだけになりました。
趣味を失い、体を動かすことが大きく減った齊藤さん。
以前のように歩きまわることが難しくなり、避難から3年目、要介護の認定を受けることになりました。

齊藤ヨシ子さん
「つまづいたりする。
痛いところも次から次へ(出てくる)。
運動不足。」

そして、震災から5年後。
避難指示は解除され、齊藤さんは村に戻りました。
以前のように動けなくなった今、週に3回、介護サービスを受けています。

齊藤ヨシ子さん
「どこにも行けないから、ここ(家)にいるだけ。
原発事故がなければ、この足も大丈夫だった。
(今も)踊りを踊っていたかも。」

葛尾村では、齊藤さんのように長引く避難生活のうちに、健康状態が悪化する人が急増。
高齢者の3人に1人が、介護や支援を必要とする事態になっています。
原発事故から8年。
事故の根深い影響が、福祉の現場にいま現れているといいます。

葛尾村社会福祉協議会 金谷真也さん
「震災、原発事故で全村避難となった時に、今まで当たり前にやってきたことが、避難によってブチッと切れてしまう。
(原発事故の影響が)終わる感じがしない。」

“介護”急増 原発事故特有の要因

高瀬
「取材にあたった福島放送局の立石記者です。
介護や支援が必要な人、なぜ、ここまで増えているのでしょうか?」

立石記者
「原発事故特有の要因として、次のようなことが指摘されています。

まず、屋外での農作業など、体を動かす機会が減ったこと。
そして、趣味や運動などのもともとあったコミュニティーがなくなってしまったことです。
こうしたことから、生活が不活発になった人が増えたと見られています。
さらに、避難生活でそれまで介護を担っていた家族が離れて暮らすようになり、介護サービスに頼らざるを得ない人も増えています。」

和久田
「こうした事態を、地域ではどう受け止められているんでしょうか?」

立石記者
「非常に厳しい状況だと受け止められています。

こちらは、65歳以上の住民がひと月に負担する介護保険料が全国上位となっている自治体です。
3年ごとに発表されるんですけれども、去年(2018年)驚くべき結果が明らかになりました。」

高瀬
「葛尾村は、全国で最も高いんですね。」

立石記者
「そうなんです。

葛尾村では、震災前3,200円台だったんですけれども、3倍に膨れあがってしまっています。

さらにこちら、黄色く示した自治体なんですが、上位10自治体に、原発事故の被災自治体が6つも入るという異例の事態となっています。
こうした状況に危機感が広がっています。」

“介護”に苦悩する自治体

葛尾村の副村長、馬場弘至さんです。
介護保険料が全国一高くなってしまったことを深刻に受け止めています。

現在、住民が支払うべき保険料や、介護サービスを利用した際の自己負担は、原発事故の被災地では、国の特例で減免されています。
しかし、この特例の更新は1年おきで、いつまで続くかは不透明です。

葛尾村 馬場弘至副村長
「1年ずつ延長の通知がくる。
将来的に、いつまで支援を続けてもらえるか、不安を持っている。」

今、村では、特例の終了に備えて、介護担当者や専門家がチームを作って議論を重ねています。
高い保険料のままでは、住民がほかの自治体に移ってしまうなど、村の存続に関わる事態にもなりかねないのです。

葛尾村 馬場弘至副村長
「このままいくと、要介護の村民が増えていく一方では、村も成り立たないですし、村の帰還も進まない。」

被災者の状況に合わせた施策を

高瀬
「もはや村や地域の存続というのも難しくなってしまうということで、今後、どういった対処が考えられますか?」

立石記者
「葛尾村では、保険料を何とか下げる方法はないかと、ひとりひとりの介護プランをチェックするなどしてきたのですが、今のところ、急激に下げるような根本的な解決策は見つかっていません。
他の被災自治体も同様の状況です。」

和久田
「地域では対応には限界がありますよね。
この問題に、どう向き合っていけばよいのでしょうか?」

立石記者
「介護保険に詳しい淑徳大学の鏡教授は、『まずは、これ以上、介護が必要な状態に陥る人を増やさないために、介護予防を充実させることが重要。そのためにも、原発事故が介護の現場に深刻な影響を与えていることを、自治体だけでなく国も受け止めて、被災した人たちの状況に合わせた施策を検討していくべきだ』としています。」

和久田
「シリーズ震災8年。
明日(9日)は、被災地の皆さんが、この8年、心の支えにしてきたという星空についてお伝えします。」

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