これまでの放送

2019年3月12日(火)

進まぬ「要支援者」の避難 課題は

高瀬
「8年前の東日本大震災では、多くの高齢者や障害者が命を落としました。」

和久田
「震災後、国はこうした『要支援者』の避難対策を自治体に求めて来ましたが、その後の災害でも、助けられないケースが相次いでいます。
なぜなのか、取材しました。」

“1人では逃げられない”

リポート:磯野真之介(NHK岡山)

去年(2018年)7月の西日本豪雨で、甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備町。
亡くなった51人のうち8割は、高齢者や障害のある「要支援者」でした。
要支援者の1人、江尻静香さん、87歳です。
足が悪く、1人では避難できません。
深夜、別の地区に住む家族が助けに来ましたが、仕事に出ている日中であれば、逃げ遅れていたと感じています。

江尻静香さん
「逃げようとしたって、自分1人ではどうにもなりませんしね。
(1人では)出て行けなかった。」

当時、この地区の自主防災組織のリーダーを務めていた、諏訪愿一(よしただ)さんです。

地区の自主防災組織リーダー(当時) 諏訪愿一さん
「この方も亡くなられて。
1人暮らしだったんですね。」

この地区では、5人が犠牲になりました。
いずれも要支援者でした。

地区の自主防災組織リーダー(当時) 諏訪愿一さん
「80歳以上で、1人暮らしの方であるとか。」

地区では、支援が必要な人の名簿を作成していました。
しかし、誰が誰を助けに行くかは決めておらず、避難につながりませんでした。

地区の自主防災組織リーダー(当時) 諏訪愿一さん
「もっと具体的に避難(情報)が出たら、あなたとあなたがこの家を訪ねて一緒に逃げるというようなことまで決めておかないと(いけなかった)。」

要支援者を確実に避難させるために、何が必要なのか。
東日本大震災を教訓に、国が自治体に示した対策の1つが「個別計画」の策定でした。
住民などに協力を求め、一人一人について、ふだん家のどこにいるのかなどを把握した上で、誰が避難を支援するかまで、決めておくべきだとしたのです。

しかし、倉敷市では全く策定されていませんでした。
市は、助ける側の住民の負担を考えると、強く協力を求めることはできなかったといいます。

倉敷市 河野裕危機管理監
「(避難を)支援する人に責任がかかる、皆さんがそう思われると引いてしまう。
そういうこと(個別計画の策定)が進んでいかないというふうに思っています。」

進まない「個別計画」の策定

高瀬
「要支援者の個別計画の策定が進まないのは、倉敷市だけではありません。
全国の4割の自治体が、全く手つかずの状態です。
その大きな理由は、要支援者のサポートを地域の住民が担うという負担の大きさにあります。」

和久田 
「そうした中、住民の負担を少しでも減らすために、新たなアプローチをする自治体も出ています。」

要支援者と住民をつなぐ「福祉のプロ」

リポート:清木まりあ記者(社会部)

兵庫県播磨町です。
この地域では、要支援者と地域の住民をつなぐ人がいます。
福祉のプロです。

障害者のサポートをしている、相談支援専門員の藤原桂子さんです。
まずは、藤原さんのような福祉のプロが要支援者の個別計画を作ります。
加藤恭子さん。
視覚障害と軽度の知的障害があります。
両親は日中、不在のことが多く、災害時に避難の手助けが必要です。

「下側と左側の視野が欠けている。
左の方にいて支えてくれると安心。」

緊急時に加藤さんをどのように支援すればいいのか、わかりやすくまとめます。
町が去年から試験的に始めました。

加藤さんの「個別計画」です。
「右手で杖を持つので、支援者には左側を歩いてもらいたい」「話す時は具体的に分かりやすく伝えてもらいたい」など、細かく記されています。
こうして作った個別計画をもとに加藤さんを助けるのは、地域の住民です。
この日、2人は隣に住む女性を訪ね、いざという時の手助けをお願いしました。

相談支援専門員 藤原桂子さん
「ちょっとした段差や危険があったら、口頭で具体的に伝えると分かりやすい。」

近所に住む女性
「段差ありますよっていうことですよね。」

実際に、近くの避難所まで歩いてみました。
こちらの道路。
画面右には広い歩道がありますが、段差が有るため、加藤さんには歩きにくいといいます。

相談支援専門員 藤原桂子さん
「どっちが安心できそう?」

加藤恭子さん
「危ないと思うけど、しゅっと来た(早く歩ける)ほうがいい。」

近所に住む女性
「段差もあるだろうしね。」

話し合いの結果、車に気をつけながら、段差のない道路脇を歩くことにしました。

近所に住む女性
「最初はどうしたらいいかという感じだったが、経験したことを少しでも生かせれば。」

相談支援専門員 藤原桂子さん
「(災害時)どんなところに困るのかは、平時で支援しているポイントの延長線上にある。
そこは地域の方にお伝えできる役割かなと思う。」

ふだんから顔の見える関係を

高瀬
「取材した、社会部の清木記者です。
福祉のプロが、計画作りに加わるメリットはとてもよく分かりますが、災害時に要支援者を実際に助けなければいけない住民の負担は課題として残りますよね。」

清木まりあ記者(社会部)
「今回の取材の中でも、個別計画にあらかじめ助ける側として名前が載るのは、責任が重く、ためらいがあるという声も聞きました。
ただ、兵庫県播磨町で、福祉のプロからアドバイスを受けた住民は、避難の際、どのような手助けが必要なのか具体的にイメージできたことで、精神的な負担が和らぎ、いざという時もパニックにならずに支援しやすいと話していました。
住民たちの負担を少しでも減らすためにも、こうした事前の取り組み、自治体のサポートが大切だと思いました。」

和久田
「たとえ近所に住んでいても、どんなことに困っていて、どんな支援が必要なのか、具体的にはなかなか分かりませんよね。」

清木記者
「そこで、家族にもできることがあります。
例えば、高齢のご両親と離れて暮らす方は、帰省した時に、隣近所や地域の人に『うちの親は、最近、足が悪くなって逃げられないから、手助けしてほしい』などとお願いをして、連絡先も交換しておくといったことが大切だと感じました。
家族が助けに行けない場合を考えて、ふだんから顔の見える関係を築くことが大切だと感じました。」

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