これまでの放送

2019年5月7日(火)

テクノロジーと人類の未来

高瀬
「令和という新しい時代に、私たちはどう生きていけばいいのか。
次世代を担う、各界のトップランナーに聞くインタビューシリーズ『令和に生きる』。
初回の今日(7日)は、この人が生出演です。」

芥川賞作家が語る テクノロジーと人類の未来

今年(2019年)1月に発表された、芥川賞。
受賞者の1人、上田岳弘さん、40歳です。
受賞作『ニムロッド』。
テクノロジーの進化と人類の未来を描いています。
IT企業で働きながら小説を書き続けてきた上田さん。
人工知能などが急速に進化する中で、私たちはどう生きていけばいいのか、一緒に探ります。

高瀬
「改めてご紹介します。
上田岳弘さんです。
IT企業にお勤めで、このあとご出勤と聞きましたけれども、朝は強いんですか?」

芥川賞作家 上田岳弘さん
「朝は毎日5時半ぐらいに起きて、そこから30分ぐらいコーヒーを飲んで小説を書くのが日課なので、強いほうだと思います。
ちょうど頭もさえているタイミングです。」

高瀬
「上田さんの芥川賞受賞作『ニムロッド』がこちら。
テクノロジーの進化と人間の未来という壮大なテーマを、極めて身近な日常で表現したことが評価されるなどしました。
上田さん、率直にまず伺いますが、令和という時代が始まりましたけれども、この時代、社会はどうなっていくと見ていきますか?」

芥川賞作家 上田岳弘さん
「もともと元号って時間を区切るものだとは思うんですけど、もちろん時間というのは基本的には連続している中で、とはいえ平成の終わりと言いますか、昨今ではインターネット技術も含めて、人間の技術がすごく進歩していると思うんですよね。
その技術のほうに人類自体が置いていかれていくような感覚を持っている方が多いと思うんですけど、それがもっと明確になっていく時代なんじゃないかなと思っています。」

和久田
「まさに将来、私たち人間の仕事や役割がAIや機械によって奪われるのではないか、漠然とした不安を抱えていらっしゃる方も多いと思います。
上田さんは、その行きつく先を小説の中に描いています。」

『ニムロッド』の世界

小説『ニムロッド』の中には、究極の未来が登場します。
そこはAI=人工知能ですべてが効率的に動く社会です。
そして人類は、個人が個人である意味をなくし、ひとつに溶けてしまいます。

その中で、溶けずに最後まで高い塔の上で存在し続けた人間がいました。
その人物の名は、「ニムロッド」。
富や権力などに執着し続け、人間臭さを捨てなかったからこそ、人間として存在し続けたのです。

あらゆるものを手にした彼が最後に心ひかれ集めたのが、欠陥だらけの“だめな飛行機”。
かつて人類が空を飛ぶことを夢見て作った失敗作の数々です。

“だめな飛行機たちを調べていると、不思議と癒される”

しかし最後、ニムロッドはだめな飛行機すら集めきってしまい、こんな問いに直面します。

“僕は、もう何をしてよいかわからなくなった。それでもまだ、人間でい続けることができるのかな”

未来を生きるカギは?

和久田
「個人が個人である意味をなくして溶けてしまう、という衝撃的な未来ですが、どんな意味が込められているのですか?」

芥川賞作家 上田岳弘さん
「僕は結構、個が溶けて人類がひとつになってしまう『肉の海』という言葉でこれまで表現してきたことが多かったんですけど、今回はあえて『肉の海』という言葉自体を使わずに、そういった個人が全体に溶けてしまうというのを表現してみたんですが、現実でもツイッターとかフェイスブックとかで、いろんな人がいろんなことを言っている中で、全く僕のことを知らない地球の裏の人とかが、僕が思っていたことを言葉にしているという現象を目の当たりにすることが多くて、それってよく考えると、人類全体というと大げさですけど、一人一人が全体を形づくっているなという実感が増えてきているんですよね。
そういったものを肉体面で置き換えてみるとどういうことなんだろうと考えたときに、こういった未来像がぼんやり見えてきて作品に取り込みました。」

高瀬
「それが『溶ける』という言葉になっているんですか。」

和久田
「劇的に進化するテクノロジーに対して、人間の存在が変わってしまうという意味ではいかがですか?」

芥川賞作家 上田岳弘さん
「冒頭でも“置いていかれる”という表現をしましたけど、そういったものが、もちろんあってはならないというか、なってほしくない未来像ではあるんですが、何となくそういったものが、効率を目指していくと目指すべきものに見えてきてしまっているというふうに僕自身は感じていて、それが怖いなと。」

高瀬
「すでに始まっているんじゃないかと思うようなことでいうと、私たちアナウンサーでいうと、NHKでもAIアナウンサーの開発を進めていて、それはかまないですし、疲れませんし、人件費もかかりませんよね。
どんどん置き換わっていって、持っていかれるんじゃないかという漠然とした不安はもう始まっていますよね。」

芥川賞作家 上田岳弘さん
「ただ、視聴者としてはアナウンサーの方がかむところを見てみたいとか、そういうのもあると思うんです。」

高瀬
「それがだめなところ、“駄目な飛行機”に置き換えて書いていらっしゃいますけれど。」

芥川賞作家 上田岳弘さん
「普段すごく厳しい顔をしたアナウンサーの方が、ちょっとかんでしまって照れ笑いを浮かべるとか、そういったところにどうしても人間味を感じるじゃないですか。」

高瀬
「上田さんは『ニムロッド』の小説の中で、そういう人間臭い部分を否定しているわけではなくて、むしろそっちを大事にしていこうよ、ということなんですか?」

芥川賞作家 上田岳弘さん
「そうですね。
作中で“だめな飛行機”コレクションを出しているんですけど、だめなんですけど、だめさってすごく多様で、うまくいっているものは、スマホとかでもそうですけど、だんだん形が似てくるじゃないですか。」

高瀬
「丸みを帯びてきてとか。」

芥川賞作家 上田岳弘さん
「1枚の板で何でもできるというふうに、だんだん形が決まってくるんですけど、だめなものは本当にばらばらで、そこが多様性の確保という意味ですごく重要なキーワードなんじゃないかなと思います。」

和久田
「これまで人間は、より良い生活、より豊かなことを目指して完璧に近づこうとして進んできた面がありますよね。
それが未来、完成にたどり着くとしたら、そのあと人間はどう生きていけばいいのか、というところですよね。」

芥川賞作家 上田岳弘さん
「そこがある程度、想像できてしまうようなところに、歴史というかテクノロジーがさしかかっているような気がしていて、想像できてしまうと、僕も結構、へそまがりなところがあって、あまりそこを目指したくなくなってくるというのがあって、もしかしたら、それこそが人間性なんじゃないかっていう気がするんですよね。」

高瀬
「目指したくないという思い、気持ちが人間性ということですか。
ただ単にひねくれているだけではなくて、そこに人間らしさがあると。」
芥川賞作家 上田岳弘さん
「人間らしさを感じると。」

高瀬
「これまでも、行きつく先にどういった世界が待っているのかということをテーマに書いてこられていますけれども、これからどういったものを書いていこうと思っていらっしゃいますか?」

芥川賞作家 上田岳弘さん
「今回『ニムロッド』という作品自体では、中編だったので、書ける内容はイメージを伝えていくというかたちだと思うんですけど、『キュー』という作品が5月末ぐらいに出るんですが、それだと3倍ぐらいの長さがあって、考えに考え抜いて書いた作品を今、用意しているので、それを是非読んでいただきたいなと思っています。」

和久田
「最後に、これからの社会で人間が人間でい続けるために、一番何が必要だとお考えですか?」

芥川賞作家 上田岳弘さん
「こだわりとか執着というのが、その人の個性だと思うので、自分は一体何が気になるのだろう、何に執着できるのだろう、というところに耳をすますのが重要なんじゃないかなと思います。」

和久田
「『執着』がキーワードになるということですか。」

高瀬
「次の作品も楽しみにしたいと思います。」


<関連リンク>
■特集ダイジェスト
「急成長の雑貨店 この先のビジネスの姿」
「プロレスの魅力を信じて」
「体操×アーバンスポーツ 新時代スポーツの形」
「情報の選択 ヒントは歴史に ~歴史学者 呉座勇一さんの提言~」
「世界が注目 地方から“ごみゼロ”に挑む女性リーダー」

Page Top