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2019年5月16日(木)

医療や介護費用の負担軽減「世帯分離」の実態

和久田
「最近、書籍やインターネットで大きく取り上げられているのが、『世帯分離』という手続きです。
これは、年々増大する医療費や介護費などの負担を、少しでも軽くするための方法として紹介されています。
社会保障の費用が重くのしかかる中で広がる『世帯分離』。
一体どんなものなのでしょうか。」

広がる「世帯分離」 その実態とは

山田里美さん(仮名)、2年前に80代の両親の介護が始まりました。
父親は要介護5、母親は要介護4で、ともに認知症を患い、デイサービスやショートステイなどを利用してきました。

山田里美さん
「これが父の医療費なんですけど。」

一家の収入は、山田さんの月給と、両親の年金を合わせて30万円余り。
これに対し、両親の医療や介護の負担は、保険料や施設利用料などで毎月15万円前後かかり、収入の半分を占める計算となりました。

山田里美さん
「今の仕事だけでは賄いきれないとなると、じゃあどうするのかという話。」

そこで、山田さんが行ったのが「世帯分離」という手続きでした。
これによって、自己負担は毎月およそ5万円低く抑えられるようになりました。
その仕組みです。

山田さんのように、高齢の親と、その子どもが同居する家族の場合、医療や介護の保険料、それに利用料は世帯全体の収入で決まります。
収入が高いほど、原則負担も大きくなります。

そこで、親子が同居したまま、住民票を切り離す、「世帯分離」を行います。
すると、収入が少ない親は、利用料などが少なくなることがあります。
山田さんは世帯分離を行った結果、両親が低収入世帯と見なされ、自己負担が低く抑えられたのです。

山田里美さん
「大きいですよね。
年間50から60(万円)違っちゃいますから。
そんなのがあるんだっていう感じ。
じゃあいいじゃないこれでって。」

ただ、山田さんは世帯分離をしたものの、実態は1つの世帯と変わりませんでした。
総務省は、世帯分離を行えるかどうかは、原則、生計を分けているかが判断基準の1つとしています。
ところが、山田さん親子は、食費や光熱費などは全て一緒で、生計を分けていなかったのです。
それでも、自治体の窓口では、細かくチェックされることはなく、申請はすんなり通ったといいます。

山田里美さん
「申請は窓口で世帯分離をするかしないかというところに丸をするだけだった。
もうちょっと何か聞かれるかと思ったけど、意外とすんなり出せたかな。」

こうした世帯分離はどこまで広がっているのか。
実態をよく知るケアマネージャーに話を聞くことができました。

担当する40世帯のうち、実に8世帯が、生計を分けていないにも関わらず、世帯分離を実施していたといいます。
中には、生活に余裕があっても行う人がいたと話します。

ケアマネージャーの女性
「すごくいいおうちに住んでいて、生活にも困っていない方が、“世帯分離をして少しでも介護料を安くするためにやったんです”と。
本当にここ何年かで増えてきて、“お得だ、お得だ”みたいな、“使わにゃ損、損”という考え方を持っている方が増えている。」

「世帯分離」が認められる要件は?

高瀬
「取材した山屋記者です。
世帯分離が今、広がっているんですね。」

山屋智香子記者(社会部)
「背景として、医療や介護の負担があまりにも大きくなりすぎて、やむにやまれず実施した人が多いのですが、最近では節約術として広く知られるようになっています。」

和久田
「世帯を分けるというと、普通は親から独立したり、別居したりした時などに行うものだと思うんですが、同居している場合はどこまで認められるんでしょうか?」

山屋記者
「親の世帯との生計を分けるなど、要件を満たせば認められることになっているんですけれども、総務省は、『生計を分けずに、社会保障費の負担を軽減することを目的に実施するのは適切ではない』としています。」

和久田
「生計を分けているというのは、具体的にどういう状態ですか?」

山屋記者
「生計というと、一般的に食費や光熱費が考えられるんですけれども、実は、どんな費用をどこまで分けるかなど、具体的な基準を国は示していないんです。
自治体の判断に委ねているのが現状なんです。
こうした中、自治体の中には、具体的な基準を設けるところも出てきています。」

「世帯分離」に危機感 自治体が細かくチェック

鳥取県の大山町です。
過疎や高齢化が急速に進む中、実態が伴わない世帯分離が相次げば、保険料などの収入が減少し、町の財政に影響を与えかねないと危機感を強めています。

町では独自のチェックシートを作成しました。
台所やトイレが別々か、電気・ガスなどの料金を分けているか、生計がきちんと分かれているかを、申請の段階で細かくチェックします。
審査を厳格にしたのは12年前からですが、これによって、世帯分離の年間の件数は15分の1にまで減ったといいます。

大山町役場 住民課主幹 枝谷昌紀さん
「(社会保障制度は)地域全体で支え合う制度だと思うので、限りある財源を適正に使っていくため、厳格な審査を進めている。」

しかし、こうした取り組みを行っている自治体は、全国でもごくわずかです。
専門家は、社会保障費の負担が重くなる中で、今後ますます、世帯分離が進むのではないかと指摘しています。

東海大学 健康学部 堀真奈美教授
「世帯分離をして社会保障の面で利益を得ている人がたくさんいると言ったら、本当は分離する必要がなくても“自分もしよう”とか、そういう人がどんどん連鎖的に増えていくことが大きな問題なので、最終的には社会保障制度全体の信頼性も揺らぐのではと。」

社会保障費の公平な負担とは

高瀬
「このままでは社会保障への信頼性を揺るがしかねないというお話ですよね。」

山屋記者
「重い社会保障費の負担を少しでも軽減するために認めるべきだという声がある一方で、世帯分離をせずに保険料や費用を支払っている人からすると、不公平ではないかという意見も上がっています。」

和久田
「そうした不公平感はなくしたいですよね。
具体的にどうすべきでしょうか?」

山屋記者
「まずは、今、自治体ごとに審査や基準に差がありますので、それを統一していく必要があると思います。
社会保障制度というのは、私たち1人1人が支え合う制度ですので、どんな世帯の形を選んだとしても、費用を公平に納得する形で負担していく仕組みにすることが大切だと思います。」

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