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2019年5月19日(日)

国はいくら借金しても大丈夫? 驚きの経済理論“MMT”とは

新井
「いまアメリカで、国の借金の是非をめぐり、論争が巻き起こっています。」

ツイッターより

“借金を怖がるのは、もうやめるべき。”

“いや、極めて危険な考えだ。”

論争を巻き起こしているのは、「自国の通貨で借金をできる国は破綻することがない」という、驚くべき理論。
その名も「MMT=現代貨幣理論」です。
今、アメリカで最も注目される若手議員のひとりが、支持を表明。

民主党 オカシオコルテス下院議員
「税収だけで、必要な支出は賄えません。
借金をしてでも公共投資に使うべきです。」

これに対して、中央銀行のトップは…。

FRB パウエル議長
「財政赤字が問題にならないという考えは、全く誤っている。
必要なのは、借金を減らし、税収を増やすことだ。」

無限にお金を刷れば財政破綻しない?

いくら借金をしても、国が破綻しないなどということが、ありうるのか。
MMTの提唱者のひとりに話を聞くことができました。
ランダル・レイ教授。
25年間、MMTを研究しています。

野口修司記者(アメリカ総局)
「MMTの狙いは何でしょうか?」

バード・カレッジ ランダル・レイ教授
「MMTのゴールは、財政への見方を変えることです。
国の借金は、人々が考えているような恐ろしい怪物ではない。」

主流の経済学では、国の支出が増え、借金が膨らむと、その国の信用は低下して、借金を続けるには高い金利を支払わなければなりません。
返済する負担はしだいに重くなり、いずれ国家の財政は破綻してしまいます。

しかし、MMTによると、急激な金利の上昇が起きないかぎり、自国の通貨で借金ができる国は、お金を刷りさえすれば、それを借金の返済にあてることができるため、破綻はしないといいます。
その分、例えば公共投資にお金を投じ、雇用を生むことに使うべきだというのです。

バード・カレッジ ランダル・レイ教授
「国が借金を返せなくなり、財政破綻することはない。
借金が増えるより速く成長すれば、財政赤字は減っていく。
オバマ前大統領が景気刺激策を行ったときを例にあげよう。
市場が回復し、成長が加速すると、財政赤字の比率は半分に減った。
自国の通貨をもつ国々は、わざわざ緊縮財政にして成長できなくしている。
予算に限りがないと理解すれば、経済成長・生活水準の向上・より完全な雇用につなげることができるだろう。」

MMTのモデルは日本?

レイ教授が、MMTのモデルに近い国として挙げたのが、ほかならぬ「日本」です。
国と地方の借金は1,300兆円近くに上り、国の経済規模を示すGDPの2倍以上にまで膨らんでいます。
それでも日本の財政は破綻していないじゃないかと、レイ教授は指摘します。

バード・カレッジ ランダル・レイ教授
「日本は、主流派経済学者の予測を覆す“好例”といえる。
先進国の中でも、GDPに比べた借金の割合が最も高いが、インフレは起きず、返済不能にもなっていない。
国の借金がGDP比100%だろうが、200%だろうが怖くない。」

こうした論に対して、日本政府は真っ向から否定。

麻生副総理・財務相
「財政規律を緩める。
極めて危険なことになりうる。
この日本を(MMTの)実験場にするという考えはもっていない。」

日銀 黒田総裁
「これは極端な主張。
こうした考え方がわが国に当てはまるという見方は全くの誤り。」

野口記者
「MMTを主張する立場からすると、日本の景気回復に対する姿勢について、どう見ますか?」

バード・カレッジ ランダル・レイ教授
「借金の大きさについて、悩むのをやめるべき。
日本は、景気が回復してくるとおじけづき、借金を減らそうと緊縮財政や増税をやる。
クセルを踏んだまま経済成長を加速させ、借金を減らすようにすべきだ。
今はあらゆる人がMMTを批判しているが、将来、議論はひっくり返ることになるだろう。」

“赤字気にせず財政出動” 日米の受け止めは?

新井
「取材した野口記者に聞きます。
国は財政赤字を気にせずに、支出を増やすアクセルを踏み続けるべきというのは、かなり大胆な理論ですね。」

野口記者
「最初に聞いた時、私は『天下の暴論』かと感じました。
例えば急激な金利の上昇、つまり激しいインフレが起こるようなことになれば、なかなか歯止めはかけられないという理由があるからです。
『財政再建が重要』という日本政府関係者にとっても、奇異に聞こえたはずです。
アメリカでももちろん懐疑的な意見は多いわけですが、『借金をしてでも支出を増やして、雇用や社会保障のために使うべき』とするMMTは、中低所得層や若者たちの間で支持を広げ始めているのは事実です。」

支持広がる背景は?

石橋
「少数派とはいえ、こうした理論への支持が広がる背景には、何があるのでしょうか?」

野口記者
「一言でいえば、“手詰まり感”の表れだと思います。
リーマンショック後、大規模な金融緩和などさまざまな対策が取られてきましたが、結局、恩恵を受けたのは大企業や富裕層ばかり。
むしろ格差は広がって閉塞感は増しているという社会環境です。
そんな中、これまでの政策を根本から覆すMMTに『救い』を求める風潮が広がっているのではないかとも感じます。
また、金融関係者に聞くと、アメリカ政府の姿勢もMMTの追い風になっているとの指摘もあります。」

投資銀行 ダニエル・アルバート代表
「トランプ大統領こそMMTを体現していると言える。
彼は巨額の政府の借金を作ったが、急激なインフレなど起きていない。
彼はすばらしい…いや、それほどでもないが。
彼の政策こそMMTそのものだ。」

野口記者
「実際、トランプ政権のアメリカでは、政府の借金は増えているのに、経済はおおむね好調です。
なので、こんな見方も出ているわけです。」

日本に問いかけるもの

新井
「MMTの議論は、日本にどんなことを問いかけているのでしょうか?」

野口記者
「MMTが唱える極端な財政支出では、抜本的な改革が先送りになり、“痛み”を感じないで済むという点には特に注意が必要かと思います。
日本では、例えば政府の巨額の借金について、若者が『自分たちにまわされたツケ』と感じ、将来への不安から消費などを手控えて、経済が上向かない一因になっているのが事実です。
こうした不安は、痛みは伴っても今の世代が取り除いていくべきで、財政再建を目指す姿勢は必要だと思います。
ただ、アメリカもそうかもしれませんし、日本はまさにあえいでいると言えるかもしれませんが、今の低成長と低インフレの時代に、政府や、政府の支出はどんな役割を果たすべきか。
このMMTによって、改めて考えるきっかけになるのではないかと思います。」

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