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2019年5月22日(水)

学校の給食 過剰な“完食指導”

高瀬
「学校の給食をめぐる問題です。」

和久田
「多くの子どもたちにとって楽しいはずの給食の時間。
しかし、先生が残さずに食べるよう指導する、いわば“完食指導”の行き過ぎで、体調不良や不登校になるケースが相次ぎ、中には、教員の処分や訴訟にまで発展するケースも出ています。」

高瀬
「この“完食指導”、場合によっては、子どもの心に深い傷を残しかねない状況が見えてきました。」

友人との食事すら恐怖に

リポート:岩本悦子記者(NHK徳島)

高知県の20代の女子大学生です。
小学2年生の給食の時、担任の教員から、残したチーズを完食するよう強要されたことがあります。

高知県の女子大学生(20代)
「無理やり口にまで運ばれて、それで吐いてしまって。
すごい怖かったし、給食というものに対する恐怖みたいなものを植え付けられた。」

幼いころから小食で食べるのに時間がかかったという女性。
完食を強要されてからは、朝起きられなくなったり、吐き気がしたりして、保健室に通う日々が続きました。
さらに、中学生になってからも、完食するまで1人教室に残るよう指導された女性。
以来、食べ物を残すと責められる気がして、友人と食事をすることすら怖くなり、今も苦しみが続いているといいます。

高知県の女子大学生(20代)
「不安がすごくて、食べられなかったら何か言われるんじゃないか。
これ一生続くのかなと思って、どうにかならないかな。」

病院に助けを求めるケースも

給食での完食指導がきっかけで心と体の調子を崩し、病院に助けを求めるケースもあります。

心身症が専門のこの小児科医のもとには、そうした子どもの受診が後を絶ちません。
そのカルテです。

「食欲低下」「登校していない」「給食を恐れて発熱が続いた」。
日常生活も送れないほど追いつめられた子どもたちの悲痛な訴えが書き込まれています。

徳島赤十字 ひのみね総合療育センター 中津忠則医師
「食べ物を無理やり口に押し込んで食べさせる、そういう指導が一番多い。
何でも残さず食べられる子にしてあげたい、こういう思いは間違ってはいないんですけど、その方法論が非常に乱暴で、結果的に子どもを傷つけている。」

子どもたちの特性に合わせ “楽しく完食”指導

どうすれば給食の時、よりよい指導ができるのか。

食育に力を入れている徳島県三好市のこの小学校では、「楽しく完食すること」を目標に、取り組みを続けています。
その1つが、子どもたちの特性に応じた指導です。

教員が子どもの食べられる量を見極めながら、一人一人盛りつける量を調整します。

教員
「これくらいは食べられますか?」

生徒
「はい。」

教員
「大丈夫?」

教員
「じゃあ、がんばってね。」

教員
「これくらい食べられる?」

最初は無理のない量にして食べる喜びを感じてもらい、徐々に量を増やしていけるよう導いていきます。

担任の教員
「この子だったら、これぐらいは食べられるかなというのを、なんとなく毎日一緒に食べていたらわかるので、ちょっとずつ食べられるように。」

「いただきます!」

もう一つの取り組みは、食べる意欲を上げる環境づくりです。
給食の開始から10分間はオルゴールの音楽が流れ、この間はおしゃべりせずに食べることに集中する決まりです。

食育担当の教員
「オルゴール止めます。」

音楽が終わると、はじけるように会話が飛び交います。

食育担当の教員
「(音楽を)導入する前は、非常に子どもたちはおしゃべりに夢中になって、食べるのに時間がかかってしまっていて、食べる時と会話を楽しむ時間にメリハリをつけたいと思って。」

小食気味だったり、苦手な食べ物があったりする場合は、その子どものペースで食べられるよう見守ります。

教員
「がんばって、あとちょっとだね。
味わって食べてね。」

教員
「はい、がんばりました。」

こうした取り組みを2年前から続けた結果、ほとんどの子どもが給食を完食できるようになったといいます。

生徒
「みんなで一緒に食べられるから楽しい。
食べ残しはしていません。」

生徒
「いまは時間内に食べられるようになりました。
(先生の励ましは)すごいうれしくて、もっとがんばれる気がした。」

三好市立辻小学校 内田公生校長
「食の楽しさを与えるというのが、食育の基本。
生涯を通じて、食というのは生きる力の源になりますから、大事なこと。
子どもが食べたい気になって食べると、その気にさせることが最も大事と思う。」

学校で問われる指導のあり方

高瀬
「取材した岩本記者です。
辻小学校では、子ども一人一人に合った指導をすることで、子どもたちの自信にもつながっているようですね。」

岩本記者
「そうですね。
この取り組みは、実は校長先生の反省が土台になっているんです。
若い頃は完食させることにとらわれていた時期もあったそうなんですが、食育を勉強するうちに、子どもが食の楽しみを味わうことが大切だと意識を改めたそうなんです。
学校給食というのは、必要な栄養量が計算された、子どもの成長にとっては欠かせない大切な食事です。
その完食を目指すこと自体はいいことなんですけれども、今はそのやり方がより重要になっているのです。」

和久田
「そこまでの導き方ということですよね。
そもそも国は、学校給食の指導のあり方について、どう定めているんですか?」

岩本記者
「文部科学省は平成19年に『食に関する指導の手引』を作り、この中で『個に応じた指導』を掲げて、一人一人の体格や運動量などを考えて指導することを呼びかけています。
しかし、学校現場では、この数年間だけでも、“完食指導”の行き過ぎによるトラブルが後を絶ちません。

岐阜市では、小学校の教員が、児童の口元に食べ物を運んで食べさせるなどして、2年間で5人をおう吐させたとして、一昨年(2017年)厳重注意処分になりました。
このほかにも、東京都や富山県で教員が処分されたり、学校側が謝罪したりする事態が起きています。」

高瀬
「完食するように指導を受けるというのは、私たちが子どものころもありましたし、記憶に残っていますけど、なぜ、こうした行き過ぎたということが起きるんですか?」

岩本記者
「その背景について、教員で作る教育研究団体『TOSS』が、全国の会員の教員に先月(4月)アンケートを行い、226人から回答を得ました。

『食べ残しの量が職員室の前に張り出されたり、毎日放送で流されたりする』とか『完食させられないと指導力が足りないとされる』などのプレッシャーがあるという声が相次ぎました。
完食指導の行き過ぎは学校全体の課題だと捉えていることがうかがえる内容となっていました。
完食を目指す先生の熱意が度を超してしまい、子どもを追いつめていないか、今一度見つめ直す必要があると感じました。」

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