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2019年6月6日(木)

がん 手だてない患者に新たな治療法 臨床試験で効果も

高瀬
「がんの患者で、従来の治療では手だてがなくなった人に効果的な薬が見つかるかもしれない。
そんな新たな治療法・がんゲノム医療についてです。」

和久田
「患者の遺伝子を調べてその患者に合った薬を探す新しい手法で、今月(6月)1日から、遺伝子検査への公的な医療保険の適用が始まりました。」

高瀬
「臨床試験の段階では、すでに大きな効果が出ている人もいます。」

手だてない患者に 新たな治療法

滋賀県大津市に暮らす清水佳佑さん、37歳です。

妻と2人の子どもと、4人家族。
肺がんを患っていて、最も進行したステージ4です。

3年前、会社の健康診断でがんが見つかった清水さん。
進行が速く、4か月後にはがんがこぶしの大きさまで拡大。
心臓を圧迫して命の危険がありました。

手術でがんを摘出したものの、すでにリンパ節に転移。
抗がん剤も次第に効かなくなったと言います。

清水佳佑さん
「治療の選択肢がなくなっていくことは、死につながっていくことにもなるので、トンネルの中をくぐって先が見えないようなつらい状況でした。」

その清水さんに希望をもたらしたのが、「がんゲノム医療」です。
がんは、遺伝子に傷が入って変異することで、引き起こされます。
原因となる遺伝子は100種類以上あって、どの遺伝子が原因でがんになるのかは患者によって異なります。
この原因となる遺伝子を狙い撃ちにする薬を使うことで、大きな効果をあげ始めているのが「がんゲノム医療」です。

清水さんは2年前、臨床試験に参加。
自分の肺がんの原因とみられる遺伝子を突き止めました。
それが乳がんを引き起こすことが多い遺伝子、「HER2」です。
すでに乳がん向けには承認された治療薬があります。

原因とみられる遺伝子が分かったことで、清水さんは開発中の薬を投与することができました。
治療を始めて3か月。
がんは、確実に小さくなっています。

近畿大学病院 腫瘍内科 田中薫医師
「半分ちょっとくらい、小さくなってくれている印象です。」

近畿大学病院 腫瘍内科 田中薫医師
「(原因遺伝子を)ちゃんと見つけて、治療につなげられれば、今まで以上の結果をどんどん生む可能性がある。」

清水佳佑さん
「生きる希望として治療があることは切実なので、ありがたい制度。
僕だけでなく、ほかの患者さんも効果が出るといいと思う。」

大きく変わるがん医療 「がんゲノム医療」

高瀬
「科学文化部の稲垣記者です。
先週、保険適用が決まったというニュースもお伝えしましたが、がん医療が大きく変わろうとしていますね。」

稲垣雄也記者(科学文化部)
「これまでは、肺がんには肺がんの薬、胃がんには胃がんの薬というように、薬というのは、主に臓器ごとに承認されてきました。
ただ、研究が進みまして、臓器は違っても原因となる遺伝子が同じであれば、共通の薬が効くということがわかってきたんです。」

高瀬
「薬をこれまでは臓器ごとに分けていたのを、遺伝子ごとに分けていこう、ということに変わってきているということですか。」

稲垣記者
「そこが大きな違いです。
原因となる遺伝子が分かれば、効果が期待できる薬というのも探しやすくなります。
そのために、すでに承認されている薬だけではなくて、ほかの臓器のがんの薬ですとか、海外で承認されている薬、そして臨床試験が行われていて、まだ開発中の薬なども、選択肢としては広げて探すことになります。」

和久田
「ただ、これには課題もあるんですよね。」

稲垣記者
「まだ、がんゲノム医療は新しい治療なので、治療に結び付く患者がそれほど多くない、など課題も多いんです。」

原因遺伝子わかっても 治療に結びつかない…

「がんゲノム医療」の研究拠点、国立がん研究センターです。
67歳のこの男性は、4年前から「尿膜管がん」という希少がんを患っています。

肺と肝臓に転移していて、効果的な治療法を模索してきました。
効果のある薬を見つけるため、去年(2018年)、遺伝子を検査。
その結果、4種類の遺伝子の変異が分かりました。
しかし、その遺伝子に対応する薬で投与できるものは見つかりませんでした。
がんゲノム医療を諦めざるを得ず、今は、ほかの治療を続けています。

「検査をするというのはいいことだと思う。
ただし、これが本当に万病に効く『自分のがんに効く特効薬だ』と(検査を)やるということは少し危険。」

がんの患者たちの間では今、遺伝子を調べることで効果的な治療法に結びつけることができるか、期待と不安が交錯しています。

「使える薬がまだ出てきていなければ、(原因遺伝子が)見つかってもよけいに悔しい。
受けてみたい気持ちもあるし、ちょっと怖い。
“なにもなかったら、ここで終わりか”みたいなこともあるし。」

「がんゲノム医療」 多くの課題も

和久田
「皆さんおっしゃるとおり、すべての患者に希望をもたらすことはできない、そうとは限らないということですね。」

稲垣記者
「これまでに行われた調査では、薬の投与を開始できたケースというのは、全体の1割余りでして、9割近くの人は治療につながっていません。
薬の開発が追いつかなくて、がんの原因遺伝子がわかったとしても、対応する薬がないケースが多いことですとか、仮に使える薬が見つかっても、多くの薬には公的な医療保険が適用されませんので、治療費が高額になって払えない、といったこともあります。
『夢の治療法』のように感じられる方もいるかもしれませんが、専門家は、まずは実績のある標準的な治療を受けることが大切だと言っています。」

高瀬
「全体の『1割』というのは、どうみたらいいですか。」

稲垣記者
「今回、保険の対象となっているのは、がんが進行したり再発したりして、標準的な治療では効果が期待できなくなった患者など、ですので、そうした人の1割に新しい治療の選択肢が見つかるとすれば、これはとても大きなことだと思います。
そして、今は1割でも、検査と治療のデータが今後蓄積していって、新しい薬の開発につながって、救える患者が増えるということも期待されています。
将来的には、これががん治療の大きな柱の1つになる可能性が十分あると思います。
がんゲノム医療の検査は、地域のがんの拠点病院など全国167の医療機関で受けられます。
どの治療法を選ぶのが良いのか、主治医とよく相談していただければと思います。」

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