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2019年6月12日(水)

ヘイトスピーチ解消法 施行から3年

先月(5月)、川崎市で小学生ら20人が殺傷された事件。
直後から、インターネット上に次々に書き込まれたのは、犯人を特定の民族と決めつける根拠のないデマ。
差別をあおる内容でした。

ヘイトスピーチを取材する ジャーナリスト
「凶悪事件が起きるたびに、どうしようもないようなヘイトにまみれたデマが流布される。」

民族差別的な言動、いわゆるヘイトスピーチの解消を目指す法律の施行から、3年。
現状から課題を考えます。

施行3年の現実と課題

和久田
「いわゆる『ヘイトスピーチ解消法』では、正式名称に『本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消』とあるとおり、街頭や集会、インターネットなどの場で特定の民族に対して、“日本から出て行け”と社会から排除したり、危害を加えたり、また著しく見下したりする言動は許されないとしています。」

高瀬
「条例やガイドラインを作る自治体が増えたことなどから、この3年で、街頭での大規模なデモや過激な発言が減るなど、一定の効果があったとされています。
一方で、インターネットでは差別的な書き込みがあとを絶たない現実があるほか、新たな懸念も広がっています。」

差別疑われる書き込み

京都府です。
朝鮮学校への差別が問題になったこともあり、ヘイトスピーチの対策に力を入れてきました。
ネット上の差別が後を絶たないことから、京都府では大学に委託して、問題のある書き込みを探し出す「モニタリング」を行っています。

「在日であったり、北朝鮮であったり。
キーワードを見つけてくるプログラム。」

ヘイトスピーチに使われることが多い、250の単語や京都府内の地名を使って、SNSやホームページの書き込みを検索。
抽出される差別が疑われる投稿は、年間1万件を超えます。
そのすべてを読んで、一つ一つ判断。
悪質なものは人権侵害にあたるとして、法務省を通じてプロバイダーに削除を要請しています。
担当者は、次々に現れる書き込みに対応が追いつかないと言います。

京都府 人権啓発推進室 藤巻秀和課長
「我々が削除を要請し仮に削除されたとしても、もしかしたら、それ以上にたくさんの書き込みが増えているかもしれない。
インターネットは国境も都道府県の境界もない世界なので、どうしても、いち自治体で取り組むには限界があると思う。」

ヘイトスピーチは選挙の場にも

さらにヘイトスピーチへの懸念は、新たな場にも広がっています。
この春行われた、統一地方選挙です。
移民政策の反対などを訴える政治団体が、全国に候補者を擁立しました。

団体代表
「ヘイトスピーチだなんだと言われようが、『外国人は危険なんだ』と訴えている。」

相模原市の市議会議員選挙で、応援演説に立った団体の代表。
過去の在日コリアンに対する言動が、裁判でヘイトスピーチと認定されています。
このため、差別的発言を懸念した“カウンター”と呼ばれる人たちが抗議に集まり、街頭演説の場が混乱する場面がたびたびありました。

カウンター
「ヘイトスピーチやめろ!」

カウンター
「デマばっかり言うんじゃないよ。」

団体の代表
「何がデマだよ、おっさん。」

警察が、間に割って入る事態に。

団体の代表
「北朝鮮人をたたき出せ!」

選挙期間中、市民には戸惑いが広がりました。

市民
「怖かった。
選挙の話というよりも、相手を攻撃している感じがすごくした。」

市民
「選挙ってなんなんだろう、政治ってなんなんだろうと考えさせられる。」

活動の様子は、動画サイトにも掲載。
相模原市に住む在日コリアンのこの男性は、こうした言動がネットを通じて拡散することに、強い不安を感じています。

在日コリアンの男性
「自分の存在を恐怖におとしめる言葉は、非常に怖かった。
心配だった。
(こうした言動が)もしまかり間違って大きくなっていくことがあると、本当に怖い存在になっているんじゃないか。」

今回の選挙での演説について、団体の代表はNHKの取材に対し、“政策実現のための選挙活動であり、ヘイトスピーチではなく政治的主張だ”と答えています。

求められる明確な指針

統一地方選挙で起きた混乱を、どう見るのか。
各地で調査を行った社会学者の明戸隆浩さんは、同様の混乱や発言は、この団体以外の現場でも見られたといいます。

東京大学大学院 明戸隆浩特任助教
「選挙になったという瞬間に、これは選挙の自由で、ここで何を言うかは自分たちの自由だと。
ある種、彼らの強気の背景ができる。
要は『選挙は使えるぞ』ということを、彼らがだんだん思い始めたのがこの3年間。」

今回の統一地方選挙を前に、国は、差別的な発言は選挙期間であっても許されないと、初めて見解を示していました。

山下貴司法相
「選挙運動としてなされた言動であったとしても、いわゆるヘイトスピーチ解消法に規定する、本邦外出身者に対する不当な差別的言動は、あってはならないものと認識している。」

実効性のある取り組みを進めるには、どうすればいいのか。
専門家は、ヘイトスピーチ解消法をより厳格に適用していくため、国が明確な指針を示すべきだと指摘しています。

東京造形大学 前田朗教授
「民主主義を破壊することを呼びかける行為がヘイトスピーチなので、選挙活動の自由を名目に、マイノリティーを社会から排除するようなヘイトスピーチは規制しないといけない。
(ヘイトスピーチ解消法に)公の人の行動について、一定の基準を示す。
やってはいけないことの基準を示していくことはできる。」

高瀬
「ヘイトスピーチ解消法には、差別的な言動に対する罰則がありません。
そのため、インターネット上や選挙活動におけるヘイトスピーチについて、自治体や専門家からは、国に対し、法律の見直しやガイドラインの作成など、より実効性のある対策を求める声が上がっていて、今後の対応が問われています。」

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