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2019年6月22日(土)

受け継がれる「吹奏楽の神様」の教え

来月(7月)から始まる、夏の吹奏楽のコンクール。
各地の学校では、練習に熱が入っています。
きょうは、日本を代表する、伝説の指導者を取り上げます。

ことし(2019年)亡くなった、屋比久勲さん。
半世紀にわたり、九州・沖縄の学校で吹奏楽部を指導してきました。
全国大会への出場、32回。
最優秀にあたる金賞獲得は、実に14回。
モットーは「心も一つ、音も一つ」。
このことばで、教え子たちの個性や能力を引き出してきました。

今月(6月)、沖縄で行われた追悼演奏。
教え子たち、およそ60人が駆けつけました。
“吹奏楽の神様”と慕われた、屋比久さんの教えを見つめます。

“吹奏楽の神様”の教え 「心も一つ 音も一つ」

屋比久さんの教え子の1人、原田幸典さんです。
屋比久さんが顧問を退いて以来、途絶えている全国大会に、再び導こうとしています。

原田幸典さん
「これがわたしです。」

原田さんと屋比久さんの出会いは25年前。
高校時代、トランペットパートの首席として指導を受けました。

練習中、生徒ひとりひとりを細かく観察していた屋比久さん。
音色から、その日の調子や心情に至るまで読み取っていたといいます。
原田さんも、かつて伸び悩んでいた時期、陰で努力を続けていた自分を、そっと見守ってくれたことを、今も鮮明に覚えています。

原田幸典さん
「じーっと遠くから見ているというか。
伸びたときに全体の前でほめてもらって、『原田は最近すごい伸びてる』と。
それでもっとやる気を出した、やっぱり褒めるタイミングがうまい。
洞察力はすごかった。
生徒ひとりひとりをよく見ている。」

「心も一つ、音も一つ」。
仲間を思いやり、心を一つに演奏するという屋比久さんの教えは、いまも掲げられています。

コンクールの県予選まで、1か月あまり。
原田さんは、ある部員を気にかけていました。
2年生ながらパートリーダーを務める、トロンボーンの稲森こころさんです。

自身の演奏に磨きをかけなくてはならない一方で、同級生や後輩をも引っ張っていく立場。
責任感から、つい仲間たちに厳しい口調で接してしまいます。

稲森こころさん
「ずれてる。」

「ブレスもっと粘って、細長く。」

うまくいかない自分に、もどかしさがつのります。

稲森こころさん
「(パートが)うまくならないという責任もあるし、パートが乱れたらまとめないといけない。
雰囲気が悪くなったり、やる気をなくしてしまったりというのが私自身もあって。」

原田さんは、こうした部員の悩みや考えをつかみ取るために、取り組んでいることがあります。
毎日の感想や目標を書いてもらう、「部活ノート」です。
しかしこの日、これまで欠かさず提出されてきた稲森さんのノートがありませんでした。

原田幸典さん
「出したくなかったか、書きためて困っているか。
屋比久先生だったら…たぶん見守るでしょうね。
成長しないといけないときに、逆に手を出してしまうと良くないと言っていたので。
心境に寄りそうというか。」

生徒自身に気づいてもらうことを大切にするのが、屋比久さんの教え。
稲森さんをどう導けばよいのか。
原田さんは悩んだ末、練習後の話に、稲森さんをそっと後押しするメッセージを忍ばせました。

原田幸典さん
「感謝をできる人になってもらいたい。
お互いで一生懸命になれる、そういう部になっていけばもっともっと成長できる。」

心も一つ、音も一つ。
仲間を思いやり、一つになって音楽を奏でる屋比久さんの教えを伝えました。

次の日。
稲森さんは、きのう出せなかったノートに自分の思いを書き込んで、提出しました。

『吹奏楽は一人じゃなくて全員で作り上げるのに、自分を追いつめていました。
お互いを思いやって助け合って練習していきたい。』

この日の練習から、稲森さんに少しずつ変化が現れました。
合奏中、仲間たちのことばにも耳を傾けながら、丁寧にアドバイスします。

稲森こころさん
「吹いているときに、自分だけじゃなくてまわりを聞くことで、気づくことがたくさんありました。
それをずっと私は気づけなくて自己中心的な感じになってしまっていた。」

先週(16日)行われた、本番の会場でのリハーサル。
パートを1つにまとめようとする稲森さんの姿がありました。

原田幸典さん
「仲間の大切さとか、まわりへの思いやりをもっと感じられたら、彼女はもっと伸びると思っていた。
(屋比久先生も)絶対この子は成長してくれると信じているからこそ、我慢されてたと思うので、改めて私もすごく勉強になりました。」

仲間と心を一つにして作り上げるハーモニー。
屋比久さんがのこした教えは、大切に受け継がれています。
吹奏楽のコンクールは、来月以降、各地で予選が始まる予定です。
夏になり、全国の吹奏楽部の生徒たちの練習はますます本格化していきます。

報告:堀川雄太郎(NHK鹿児島)

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