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2020年2月2日(日)

イギリスなきEUは これからどこへ?

31日にイギリスが離脱したEU=ヨーロッパ連合。
拡大を続けてきたEUが、加盟国を失うのは、今回が初めてです。

イギリスの離脱 EUの受け止めは?

EUの議会には、全加盟国の旗が掲げられていますが、イギリスの国旗は降ろされ、70人以上いたイギリスの議員たちも、様々な思いを胸に帰国の準備を進めていました。

EUにとってイギリスは、ドイツ、フランスと並ぶ、けん引役の国であり、財政面でも、EUの予算の1割以上を拠出してきただけに離脱はきわめて大きな打撃です。

この最大の難局をなんとか切り抜けようという動きが加盟国の間で出ています。

フランス国境の町 免税でイギリス人を呼び込め

イギリスとの定期便のフェリーが頻繁に行き来する、フランス北部の港町カレーです。

そこに上陸したのが、イギリスのEU離脱が生んだ巨大なドラゴン。
人が乗り込むことができ、30分ほどかけて、海岸沿いをめぐります。

イギリスからの観光客を呼び込もうと、地元政府が5億円あまりをかけて制作しました。

イギリスに近い立地を生かして発展してきたカレー市では、離脱をチャンスに変える取り組みも始まっています。

それが「PABLO(パブロ)」と呼ばれる免税システムの市内の小売店への導入です。
まち全体を免税特区のようにする狙いです。

これまでは、イギリス人がフランスでワインなどを買うと、同じEU域内ということで20%の付加価値税の支払いが必要でした。それが離脱後は、日本などEU域外から訪れる観光客と同じ扱いになり、免税を受けられるようになる見込みです。

こちらのワインショップでは、免税によって割安になるワインを求めて、大勢のイギリス人客が訪れることを期待しています。

販売店の経営者
「免税はイギリス人観光客を呼び込むには、とてもよい手段です。」

さらに、海岸沿いに大規模な再開発プロジェクトも進められています。
スポーツ施設やレジャー設備、レストランなどを設け、家族で楽しめるリゾートに生まれ変わろうとしています。

カレー市 ペストル副市長
「開発計画は、カレーをより魅力的にして、イギリスの人たちに買い物だけでなく、ほかにもすることがあるとアピールするためのものなのです。」

イギリスのEU離脱によるダメージを、なんとかプラスに転じたい。フランスの国境の町では模索が続いています。

好景気ポーランド イギリスから人材帰国

一方、イギリスに一時は100万人もの移民を送り出していたポーランドでは、EU離脱を機に、祖国に帰ってくる人が相次いでいます。

イザベラ・バネさん(25)はルームメートと首都ワルシャワで暮らしています。2人ともイギリスの大学を卒業後、現地での就職を夢見ていましたが、将来への不安から帰国を決断しました。

EUへの加盟後、ポーランドからの労働者は、イギリスの農業やサービス産業などを支えてきました。
しかし、離脱をめぐる議論が激しくなるなか、ポーランド人は仕事を奪っていると離脱派に攻撃されるようになり、バネさんたちは就職差別にあうのではと不安を感じるようになりました。

イギリスから帰国した イザベラ・バネさん
「(イギリスで)インターンをしていた時、ポーランド人はイギリス人に比べて不利になると感じたの。卒業後の就職先は安定したところがいいと思ったわ。」

バネさんのルームメイト
「(EU離脱の影響で)イギリスの労働市場は今後どうなるか分からないから、ポーランドに帰って就職した方がいいと思ったの。」

おりしも、祖国ポーランドの経済は成長率5%と好景気が続いていました。

幸いバネさんの就職先はすぐに見つかり、スタートアップを支援する企業で活躍しています。

イギリスから帰国した イザベラ・バネさん
「イギリスで働くよりも、(ポーランドのほうが)活躍できると考えました。ロンドンで働いていたら歯車のひとつにしかなれません。」

ポーランド政府も、イギリスに流出していた優秀な人材が戻ってくることで、国のさらなる成長につながると期待しています。

ポーランド モラウィエツキ首相
「イギリスにいる100万人近いポーランド人のうち、すでに数万人が帰国している。ポーランドにとってはイギリスのEU離脱はいいニュースだ。」

イギリスとEU 今後の貿易交渉は?

双方は、早ければ今月(2月)自由貿易協定の締結に向けた交渉を始める予定です。
交渉は、ことし12月末まで設けられた「移行期間」の間に行うことになります。
問題は費やせる時間の少なさです。
移行期間は延長も可能ですが、イギリスは延長せずに、年末までに絶対まとめるとしています。

わずか11か月で複雑な貿易交渉をまとめるのは容易ではありません。
イギリスは敢えてデッドラインを引くことで、EUに譲歩を迫る強気の姿勢です。
EUは譲らない構えですが、加盟国の利害を調整しながらイギリスと交渉しなければならず、難しいかじ取りとなります。

イギリスなきEU 今後の求心力は?

イギリスだけでなく、広く加盟国でEUに懐疑的な勢力が依然、一定の支持を集めていて、求心力はいっそう試されることになりそうです。

問題の背景には、組織が硬直化して、市民の不満を十分吸い上げられないEUの体質があると専門家は指摘します。

歴史学者 エマニュエル・トッドさん
「ヨーロッパは官僚主義が進んで、非民主主義的な化石のような組織になってしまった。EU崩壊に向けた最初の一歩かもしれない。国家の自由を取り戻そうという動きの始まりだ。」

EUが影響力を維持できるかどうかは、国際社会の秩序を保てるかどうかを左右します。
今、世界はロシアの脅威、中国の力の拡大、そしてアメリカの自国第一主義による保守化・内向き化に直面しています。
そこでヨーロッパが地盤沈下するようなことになれば、民主主義や自由貿易などの多くの価値感を共有する日本にとっても深刻です。

イギリスの離脱は、EUが影響力が落とすきっかけになるのか、あるいは、結束を固めなおすチャンスになるのか、歴史的な転換点を迎えています。

(取材:工藤祥 ブリュッセル支局長/藤井俊宏 ヨーロッパ総局/山口芳 ベルリン支局)

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