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2020年2月7日(金)

寺の危機を救うのは 元サラリーマン?

全国の過疎地域を中心に、住職のいない寺が増えています。臨済宗の妙心寺派では、全国約3,400の寺のうち、3分の1が常駐する住職がいない無住寺院となっています。中には、寺を解散せざるを得ないケースも出ていて、法事や祭りなど、コミュニティーを支えてきた機能が危機に瀕しています。こうした中、妙心寺派では、住職のなり手を増やそうと、企業の退職者たちに着目しました。サラリーマンだった人たちに、第二の人生として、寺を担ってもらおうというのです。元サラリーマンは地域の寺を支えることができるのか、このプロジェクトを取材しました。

元サラリーマンが住職を担う「第二の人生プロジェクト」は、京都市にある妙心寺が、全国の臨済宗妙心寺派の寺を支援するために始めました。住職になることを希望する人たちは、まずは、面談に臨みます。
この日は、大手銀行を退職した69歳の男性と、出版社を退職した72歳の男性が面談を受けました。過疎地域の寺では、ほとんど収入は期待できません。そのため、自分の年金や貯金で暮らしていけるのか、また、家族の理解は得られているかなどを確認します。

臨済宗妙心寺派 上沼雅龍総務部長
「幅広い視野を持たれた方で、人間として成熟している方々が和尚さんになっていただけると、我々としては非常にありがたい。」

このプロジェクトの面談を受けた1人、中林良弘さん(72)は、10年前まで辞書などを発行する出版社に勤務し、編集長も務めました。住職を志したのは、サラリーマン時代の生き方を改めたいと思ったからだといいます。会社では、自分の企画を優先するあまり、周囲の人を傷つけることが多かったと感じています。サラリーマン時代の父親について娘の未孔さんはこう語ります。

中林未孔さん
「“自分が自分が” っていう形だったような気がします。会話といえば、“おはよう”とか“いってらっしゃい”とかの挨拶だけだった。」

中林良弘さん
「(以前の自分は)自我の塊というか。相手の一番嫌がるところを言葉で言ったりとか。(プロジェクトに応募したのは)贖罪といったら変ですけど、なにかやることによってそれが消えるとかそういうことじゃなくて、やっぱり気が付いてそれに向き合っていくことが大切なんじゃないかと。」

しかし、住職になるには、厳しい修行を経なければなりません。中林さんは、その前段階として、愛知県内の寺で3日間の体験入門に臨みました。この間、若い修行僧に混じって読経や座禅を学び、食事は穀物と野菜中心の質素な食事が続きます。このプロジェクトに応募するのは、大手企業を定年まで勤め上げた人も多いといいます。かつてのプライドや欲を捨てることができるか、その覚悟が問われます。

中林良弘さん
「どこまでできるか、これからいろいろ試されるとは思うのですけれども、頑張ってみたいというふうには思っています。」

このプロジェクトを通じて、寺を任されることになった僧侶もいます。檜垣宗善さん(67)は、大手通信会社を定年退職し、2年前から岐阜県内の寺で暮らしています。会社員時代はなかなかできなかった、人々の心に寄り添う生き方をしたいと、縁もゆかりもなかった土地にやってきました。檜垣さんは、集落に住む一人ひとりに耳を傾ける努力を続け、今では、住民から頼られる存在になっています。地域の人たちは、檜垣さんについて、次のように語ります。

「ありがたい和尚さんに来ていただいた。」

「やっぱり和尚さんという存在があってこそ、初めて地域の輪が広がっていく。」

檜垣宗善さん
「毎日が充実しました。ここに来た以上は、死ぬまでやろうと思っています。」

面談の日から2か月半後、中林さんは、大きな決意をもって京都市の妙心寺を訪れました。この日、出家して仏教の戒律を守ることを誓う「得度式」という節目の儀式に臨んだのです。私欲を捨てて人のために生きる決意を固め、式に臨んだ中林さん。このあと、1年以上にわたる修行を経て、認められれば、一つの寺を任されることになります。そしてこの日、名前から一文字をとって、「良忍」という僧名が与えられました。中林良弘さんは、「“良忍”の“忍”という字を今日いただきました。忍ぶというのは自分にとって必要なことではないかと思いますので、これを胸にたたんで頑張っていきたい。」と、涙を浮かべながら、決意を新たにしていました。

このプロジェクトには、これまで600人余りの応募があり、中林さんのように得度式を迎えたのは69人。檜垣さんのように現在寺を任されているのは17人ということです。過疎地域の寺の存続が厳しいというのは、仏教の他の宗派でも似たような状況で、京都に本山のある寺の担当者が集まって意見を交わすなど、宗派を越えた連携で対応にあたろうという動きも始まっています。

取材:岡本賢一郎(京都放送局)

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