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2020年2月18日(火)

危険な“孤立出産”防ぐには…

“孤立出産”ということばを知っていますか?
医療者の立ち会いなしに、ひとりでトイレや風呂場などで産み落とすことです。出産の際には、輸血を必要とする大出血が起きたり、子どもが産道に引っかかってしまうなど、時に命の危険を伴います。そのため、孤立出産は母子の命に関わる非常に危険な行為です。

子どもの命脅かす “孤立出産”の実態

熊本の民間病院である慈恵病院が13年前に開設した「こうのとりのゆりかご」いわゆる「赤ちゃんポスト」には、これまでに144人の子どもたちが託されましたが、その半数が孤立出産で生まれた子どもでした。孤立出産の末、死産となった子どもが置かれていたこともありました。
副院長の蓮田健さんは、病院にたどり着くまでに、命の危機にさらされる子どもが多いことに心を痛めてきました。

慈恵病院 蓮田健副院長
「(赤ちゃんポストに)死体が遺棄された事件もそうでしたし、病院にたどり着いて、助けを求めれば、こんなことにはならなかった。」

なぜ、女性たちは、病院に行かずにひとりで産んでしまうのでしょうか。
慈恵病院では、孤立出産を未然に防ぎたいと、妊娠に関する匿名の電話相談も続けてきました。

寄せられる相談は年間6000件以上。
未婚での妊娠をひとりで抱え込む女性からがほとんどです。

「元交際相手との子ども 家族にも相談できず、後悔」「周りにバレないか不安」など。
相談員たちは、家族への伝え方をアドバイスしたり、行政の窓口を紹介したりしますが、非難されたり、叱られたりするのを恐れて行動に移せない女性が多いと言います。

妊娠のことを周囲の誰にも話せないまま、孤立出産に至ってしまう女性が後を絶たないのです。

慈恵病院 蓮田健副院長
「自分の力ではこれ以上なんともできないし、相談できる人もいない。そういった人たちが来るのを目の当たりにすると、赤ちゃんも大変かもしれないけど、お母さんも大変という気持ち。(未婚で妊娠したからと)お母さんを叱って、突き放したところで問題の解決にならない。」

実は、孤立出産は赤ちゃんポストだけの問題ではありません。
厚生労働省によると、2003年7月から2017年度末までの間に、生まれたその日に「虐待死」した子どもは全国で149人。その子どもたちについて調査したところ、そのほとんどが、医療者などの立ち会いなく、孤立出産で産まれた子どもだったのです。
孤立出産と虐待死の間には大きな関係があると、国も問題視しています。

危険な孤立出産を未然に防ぎたいと、慈恵病院の蓮田副院長は、女性たちを妊娠中から支援できないか、模索を始めています。先月、こうした女性たちを手厚く支援している韓国を視察しました。

“自立した生活を”未婚の妊娠・出産を支援

訪ねたのはソウル市にある民間の母子支援施設です。
未婚で妊娠した女性が出産し、自立した生活を築くまで無償で支援。現在、母子あわせて41人が入所しています。入所の手続きは、極めてシンプルです。ホームページ上のフォームや電話から、相談したい内容と名前、携帯の番号を伝えるだけで家族にも知られずに入所できます。

インターネットでこの施設を見つけ、入所した18歳の女性がいます。高校2年生の時に妊娠が発覚し、親には頼れないと施設の支援を受けて出産しました。
この施設には、最大で1年半入所でき、その間に、妊婦検診や出産だけでなく、学業や職業訓練の支援も受けられます。
女性は、来月(2020年3月)から理学療法士を目指し、大学に進学できることになりました。女性は「ここでは、若年の妊娠を否定的に見る人がいなかったので、安心して過ごすことができました。(施設がなかったら)ひとりで産んだとしても育てられなかったと思います。」と話しています。

韓国には、こうした施設が全国に22か所あり、運営費は、最大でその8割を国が負担しています。
しかし、韓国も、かつては状況が違っていました。
未婚の女性が子どもを産むと、社会的に孤立し、経済的にも困窮。自分で育てられる女性はほとんどいませんでした。さらに、日本と同様、孤立出産での死産も問題となっていました。

社会を変えたのは、苦しんだ当事者たちの切実な訴えだったと施設の代表は語ります。

エランウォン(愛蘭院)カン・ヨンシル院長
「『私たち(未婚の母)に1~2年の期間をください。施設で暮らしながら、就職に向けた教育が受けられれば、8割の女性は自分で育児ができる』と訴え、国も前向きに受け止めたのです。」

1989年には「母子福祉法」が制定され、未婚の女性の出産、育児を一貫して支援する制度が整いました。
これにより、未婚でも、自立してわが子を育てる女性が急増し、社会のまなざしも大きく変わっていったといいます。

未婚の妊娠・出産 日本の支援体制は

視察を終えた蓮田副院長は、未婚で妊娠した人を慈恵病院で受け入れ、韓国のような支援を行いたいと考えています。
しかし、日本にはこうした施設を運用できる法的根拠はなく、また、必要な資金の確保も病院だけでは難しいのが現状です。

では、日本では未婚で妊娠した女性たちに対してどのような支援があるのでしょうか。
行政の窓口に相談すれば、「婦人保護施設」や「母子生活支援施設」などで、一時的に保護はしてもらえます。しかし、韓国のように、出産前の検診や出産、さらに産後の経済的自立までを一貫して支援するシステムが、十分に機能しているとは言い難いのが実情です。
こうしたハードルを乗り越えて支援を進めようと取り組んでいる施設もあるものの、そもそも、多くの女性は世間の非難や偏見の目を恐れ、相談にすらいけないと言います。また、こうした支援を手厚くすることに対して「未婚の妊娠、出産を助長しかねない」と否定的な声が多いのも実情です。

“孤立出産”なくすために いま何が必要か

慈恵病院の蓮田副院長は「“秘密を明かさなくていい”ということと、“叱らずに温かく受け入れる”という2つは、実は病院だけの話じゃない。社会全体が雰囲気をつくらなくてはいけない。」と語っています。

妊娠した女性が、相手の男性は逃げてしまったあと、責任をひとりで背負わされているケースが多いことを考えると、女性が社会から孤立してしまう現状は変えていく必要があると強く感じました。

取材:本庄真衣記者(NHK熊本局)
   竹内はるかディレクター(社会番組部)
   松岡智洋ディレクター(おはよう日本)

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