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2020年2月25日(火)

パラリンピック 練習施設不足 なぜ断られる?体育館の利用

NHKでは、国内に26あるパラリンピックの競技団体を対象にアンケート調査を行いました。このなかで、日常的に使える練習施設がどの程度あるかを尋ねたところ、「全く不十分」「やや不十分」と答えた団体は、あわせておよそ70%に上りました。



理由としてあがったのは、「施設のバリアフリーが進んでいないこと」「パラスポーツ独自の用具がある施設が少ないこと」「体育館などの施設から利用を断られる」など。なかでも施設の利用を断られる問題には車いすバスケットボールや車いすラグビーなど車いすを使う複数の競技が直面していました。問題の背景に何があるのか、取材しました。

“体育館が借りられない”車いすラグビー選手の苦悩

車いすラグビーが施設の利用を断られる理由は、床に傷がついて、そのあと使う人がケガをする危険があると施設側から懸念されるためです。
リオデジャネイロパラリンピックに出場し、おととし(2018年)の世界選手権でも日本の初優勝に貢献した島川慎一選手も、練習場所の確保に苦しんできたひとりです。おととし、都内にパラスポーツ専用の体育館がオープンしたことで練習場所を確保できましたが、それまでは借りられる場所がほとんどありませんでした。

車いすラグビー日本代表 島川慎一選手
「栃木の足利まで行って練習するような感じでなかなか使わせてもらえる体育館がなかった。ぶつかるイメージだったり、床に傷が付くんじゃないかといわれたことがある。」

パラスポーツ専用体育館は東京パラリンピックの1年後、来年(2021年)末で閉鎖されます。そのあと練習できる場所があるのか、不安を抱えています。

島川慎一選手
「現状といえば、こちらの体育館で、ほぼ頼り切っている状態。パラリンピック終了後にはなくなるということなので、そのあとを危惧している。」

どう増やす? パラスポーツの施設

こうしたなか、東京・江戸川区では全国初の取り組みがスタートしました。先月(1月)、東京パラリンピックで行われるすべての競技を区内でプレーできるようにすると宣言したのです。担当する区の職員・塩田光明さんは、区立体育館など誰もが使える施設にパラスポーツの用具を導入しようと考えています。

江戸川区 障害者スポーツ係 塩田光明さん
「公共施設は誰もが使える場所ではあるけれども、専門の道具がなかったり、場所がとりづらかったりといったことがあった。いままでやりたくてもできなかった人、なかなか第一歩を踏み出せなかった人がスポーツに親しめることになるのでは。」

22ある競技の中で課題に直面したひとつが、「車いすフェンシング」です。車いすを固定するための専用の器具を置く必要があります。いったいどんな器具なのか。塩田さんは別の区で開かれている車いすフェンシングの教室を訪ねました。

選手の転倒をふせぐため、器具の重さは100キロもあります。ただ固定する必要は無く、立てかけて収納できます。これなら江戸川区の体育館にも置けるとわかりました。

パラリンピックには馬術もあります。馬は購入できますが、課題は競技する場所と飼育施設です。塩田さんは区が運営に参加する子ども向けのポニーランドに着目しました。屋外のスペースは馬術をするにも十分な広さ。飼育施設にも余裕がありました。

一方、民間施設に協力を求めたのは足に障害がある人の競技、パワーリフティング。足は床におろさず、台にのせるのが特徴です。地元のフィットネスクラブにバーベルなどの機材は揃っていました。ただ台が短く、足をのせることができません。そこで近くにあったブロックなどを積み重ねると足を乗せられるようになることがわかりました。

塩田光明さん
「2020年を経験して何を残すかがいちばん大事だと思う。実現できる可能性のある場所も区内にたくさんある。それらをうまく活用してすばらしい場所をつくっていきたい。」

車いすの使用で施設が心配する床の傷について、パラスポーツ専用体育館は、比較的簡単な方法で対処しています。応急処置はできた傷の上にテープを貼ること。小さな傷ならこれだけでも支障なく使えるそうです。

そして、利用者が使わない時間になったらパテで埋めます。大がかりな貼り替え工事などをせずとも、安全に利用できるようになるということで、いま、全国の自治体から視察が相次いでいます。

今回、NHKが競技団体に行ったアンケートで聞かれたのが、障害者への「過剰な心配」と「理解不足」が施設の利用を難しくしているという声です。「わからないから使わせない」ではなく、まずは受け入れてみて問題があればその都度、改善点を探っていく。そうした柔軟な姿勢こそが、パラリンピックのあと、誰もがスポーツを楽しめる環境づくりにつながるのかもしれません。

取材:中野陽介(スポーツニュース部)

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