これまでの放送

2020年2月27日(木)

手塚治虫×AI 新作マンガの舞台裏

SF、歴史、医療、あらゆるジャンルで数々の名作を残した、“マンガの神様”手塚治虫。

手塚治虫
「アイデアだけは、本当にバーゲンセールしてもいいくらいあるんだ。」

アイデアの質・量ともに、誰もマネできない偉大な天才が、もし現代に生きていたらどんなマンガを描いたのか?そんな発想から、あるプロジェクトがスタートしました。AI=人工知能に大量の手塚作品を学習させ、「キャラクターの顔」と「ストーリーの原案」を生成。これを人間が組み合わせて、新しい漫画をつくります。前代未聞のプロジェクトに密着しました。

“マンガの神様”に挑むプロジェクトのメンバーは、AIの研究者、クリエーター、そして、手塚治虫の息子で映像作家の、手塚眞さんです。まず、取り組んだのはキャラクターの顔づくりです。手塚治虫のキャラクターの顔画像を大量にAIに学習させ新しいキャラクターを作らせようとしましたが、思わぬ壁にぶつかります。

AIが作った「顔」は形が崩れ、とても人の顔には見えないものだったのです。AIの学習量が少なすぎたことが原因でした。AIが人の顔を認識できるまでに数十万の画像が必要だと言われていますが、マンガから取り出せた画像は1万ほどしかありませんでした。実は、マンガには、AIが学習するのに適した、正面を向いた顔が少ないのです。横を向いていたり、デフォルメされていたりするとAIの学習には適しません。

画像の少なさをカバーするため、研究チームはある方法を試してみることにしました。用意したのは、人の顔写真を何百万枚も学習し、人の顔がどういうものか、「予習を済ませたAI」です。このAIに改めて手塚作品を学習させると、老若男女、様々なキャラクターの顔が生み出せるようになりました。

慶応義塾大学理工学部 栗原聡教授
「いよいよ人間のクリエーターさんとのコラボレーションが、だいぶ現実的になってきた。」

並行して、ストーリー作りも進められました。まず、およそ130編の手塚マンガを文章にしたデータを、AIに学習させます。舞台となる時代や、主人公の性格などを設定すると、一瞬でストーリーの原案をつくります。

ただ、よく見ると…。「主人公は、子どもで女優で、アフリカの奥地でバイオリニストをしている」。ほかにも、「飛行機の機内で花火師」、「海底都市で宇宙飛行士」など普通の人が、ちょっと思いつかないようなアイデアが100以上、生み出されました。このアイデアの種を、マンガのストーリーに仕立てるのは息子の眞さんの役割です。

手塚眞さん
「手塚治虫らしいかどうか、ここが一番キーポイントです。ほかの人が目つけてないところに上手く目つけたり、普通あり得ないような設定なんだけど、手塚治虫だったらそういうことやるかもしれないなって。」

眞さんは、100以上のストーリー候補の中から、1つに絞りました。主人公は「哲学者」で「役者」。テーマは「ギリシャ」。そして、「日比谷で神へのいけにえをしている」。主人公の顔もAIが出したキャラクターから選ばれました。いよいよここからマンガが生まれていきます。手がけるのは、手塚治虫ゆかりのクリエーターたちです。

手塚治虫のもとで10年働いたアニメーター 瀬谷新二さん
「AIが描いた絵の中には、びっくりするような絵もある。絵を描く商売をしている私たちにとって、そういう新鮮さを作れるかっていうのは、常に一番試されてるところ。」

手塚治虫のアシスタントを務めた漫画家 池原しげとさん
「先生自身が超高性能なAIのような存在でした。僕らが、AIを使ってマンガつくるんだったら、手塚治虫が嫉妬するものを描かなきゃいけないんでしょうね、ほんとは。」

AIと人間、それぞれの長所を生かし、半年の月日をかけ新作マンガ「ぱいどん」は生まれました。お披露目イベントに、手塚治虫と親交のあった、漫画家のちばてつやさんが登壇しました。

漫画家 ちばてつやさん
「手塚治虫の血が入っている。すごく懐かしかった。」

手塚眞さん
「形にしたのは人間ではあるんだけど、もっともっとAIにかかわってほしかった。やっぱりこれはスタートだなっていうふうに思ってます。」

AIによる創作については、賛否様々な意見があります。マンガの顔が認識できないなどAIは決して万能ではなく、苦手な分野を学習して克服していくところは、人間の成長と通じるものがあります。今後、AIと人間がともに作品作りをすることで、これまでにない新しいものが生まれる未来の可能性を感じました。

取材:松苗竜太郎・淡浪里彩

Page Top