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2020年3月2日(月)

音楽で応援続ける 思いとは…

東日本大震災から間もなく9年。
発生直後から毎年被災地を訪れ、現地の小学生たちと交流を続けるピアニストがいます。仙台出身のピアニスト・仲道郁代さんです。世界的なコンクールで最高位を受賞するなど、日本を代表する音楽家の1人です。音楽を通じて被災地を応援しつづける仲道さん。
音楽活動への思いを聞きました。

ピアニスト 仲道郁代さん 被災地へ届ける“音楽”

仙台で生まれた仲道さんは、27年前から宮城県の七ヶ浜町で毎年、コンサートを開いてきました。沿岸部に位置する七ヶ浜町は、震災の津波で、町の面積の3分の1が浸水。90人以上が犠牲となりました。地震の発生当初、仲道さんは、自分に何ができるのか葛藤をかかえていたといいます。

仲道郁代さん
「東北は、いろんな町に今までうかがったことがあって、存じ上げている方もたくさんいらっしゃるので、地震が発生してすぐその方々のお顔がね、バーっと浮かんで、すぐにでも駆けつけて何か出来ることがあるんじゃないかと思う一方で、どう考えても私が行っても何も出来ないし…。いろんな葛藤がありました。」

仲道さんが町を訪ねたのは、地震の発生から2か月後。かつてのコンサート会場は、避難所になっていました。その避難所で、仲道さんは演奏のボランティアをかってでました。そこでの体験が、その後の活動のきっかけになったといいます。

仲道郁代さん
「避難なさっている方とか、町の役場の方もてんてこまいの中に、ほんの一瞬ね、演奏しているところに入っていらして、もう何か壁に寄りかかりながら天の方を見て、しばらく聞いてまた作業に戻っていかれるような、そんな時間があったんですね。ものすごい無力感に襲われている時に“明日のパンを得よう”と心を奮い立たせることが、もしかしたらできるのかなと、ちょっと思ったんです。」

仲道さんは2012年、七ヶ浜町にある3つの小学校で、特別授業を始めました。震災によって、子どもたちの心が閉ざされたのではないかと心配したからです。授業では、まず仲道さんが演奏し、その曲から感じたことを、子どもたちにとって身近な「味」に例えてもらいます。子どもたちが「気持ちを自由に表現する」きっかけを作りたいと、毎年この授業を続けているのです。

若者たちに響く“音楽”

仲道さんの授業から、大きな影響を受けた人がいます。中学3年生の武山潤葉さんです。震災当時六歳だった武山さんは、自宅が被災し、親戚の家で暮らさざるをえなくなりました。小学校に入ると、内気な性格を気にした家族の勧めで、ミュージカルをはじめましたが、演技で感情を表現することに、ずっと悩んでいたと言います。

武山潤葉さん
「日々の稽古の中で、ミュージカルの指導者から“世界観がない”とか“歌詞の意味を考えて”とかっていうだめだしをいただいたんですけど、当時は『ん?』って疑問に思うことばかりで。世界観って何だろうって、ただ頭をかしげるばかりでした。」

武山さんが変わるきっかけとなったのが、小学6年生の時に受けた仲道さんの授業でした。武山さんは、仲道さんのピアノ演奏に圧倒されると同時に、自分も感情を出していきたいと考えるようになったといいます。

仲道さんに触発され、被災地で活動を始めた若者もいます。仙台の大学院に通いながらピアニストとして活躍する、高見秀太朗さんです。

高見さんは、7年前から宮城県や福島県の小・中学校などで、表現の楽しさを伝えるボランティアを続けています。きっかけは、仲道さんの授業を手伝ったことだといいます。

高見秀太朗さん
「仲道さんは、世界各地で演奏されているピアニストでありながら、どうしてこんなに学校の中での音楽活動に、ここまで情熱を注いでいるんだろうと、率直にすごいなと思いました。震災から立ち上がっていく、これからを担う子どもたちにとって、少しでも音楽ってものを通じて、気づきをもって欲しいと思っています。」

震災からまもなく9年。仲道さんは、七ヶ浜町の子どもたちの様子が少しづつ変わってきたと感じています。授業を初めてまもない頃は、暗い絵ばかり描いていた子どもたちが、次第にカラフルな絵を描くようになってきたのです。変化が見られるからこそ、仲道さんは、今後も授業を続けていきたいと考えています。

仲道郁代さん
「9年たって、これからもっともっと町も東北も復興していくんです。私たちはできることで応援をしていく。それに尽きる。私は音楽によって自分の心が動くときに、ああ、生きてるって思えるんです。ああ、生きてるってことを他の方も音楽を通して思っていただけたら、私が音を奏でる意味があるかなと思います。」

仲道さんが、これまで七ヶ浜町で開いた授業は、のべ20回以上。
あの演奏会場でのコンサートは、今年(2020年)も夏に開く予定で、子どもたち、そして町の人々との再会を、仲道さんも楽しみにしているそうです。

取材:田邊幸ディレクター

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