これまでの放送

2020年3月6日(金)

“サイレント津波”の脅威

2011年の東日本大震災で現地を襲った津波について、専門家でも解明できずに残ってきた謎があります。その1つが、岩手県北部の宮古市付近に、高さが30メートル以上に達する巨大津波が集中したことです。なぜ、震源から近く揺れの激しかった宮城県よりも津波が高くなったのか、これまでの研究では、明らかになっていませんでした。今、最新の研究によって、大きな揺れを伴わずに津波が発生する、いわば「サイレント津波」という現象が起きていた可能性が浮かび上がってきました。

2011年の3月11日、岩手県北部の宮古市を襲った巨大な津波は、最大39メートルの高さまで駆け上がりました。宮古市に住む佐々木高広さんは、あの日の揺れの感覚からは、巨大な津波が来ることは想像出来なかったといいます。

佐々木高広さん
「普段の地震の延長線で、ちょっと地震の規模が大きいなという感じでしたね。安心感の方がどっちかというと勝っていたもんですから、逃げようとか、そういうことは思いませんでした。」

30メートル以上の巨大津波が集中したのは、最大震度「7」の宮城県ではなく、震源から離れた宮古市の一帯で、震度は5弱から5強でした。
なぜ揺れの割に巨大な津波が襲ったのか。その謎に挑み続けてきたのが、津波研究の第一人者、東北大学の今村文彦教授です。

東北大学 今村文彦教授
「宮古は(津波の高さが)全く説明できないということでショックを受けた。あらためて今回の仕組みを調べなきゃいけないと思いました。」

これまでの研究で見えてきたのが、震源域の北側に別の津波の発生源があり、ここで別のメカニズムが津波を引き起こした可能性です。9年間の研究で、2つの可能性が浮かび上がってきました。

1つ目が「ゆっくりとしたプレートの動き」です。この現象は、124年前の明治三陸津波で起きたと考えられています。このとき、三陸地方の沿岸では「震度3前後」の揺れにも関わらず、「10メートル以上の津波」が押し寄せました。通常、津波はプレートが大きくずれ動くことで発生します。そしてプレートの急激な動きによって、激しい揺れが同時に起きます。一方、プレートがゆっくりと大きくずれ動いた場合、激しい揺れを伴わず、高い津波を引き起こすことがあるのです。

2つ目は、海底で土砂が崩れることで起きる「海底地滑り」です。ヒントになったのが、おととしインドネシア・スラウェシ島で発生した津波です。このとき、通常とは異なる津波が起きていました。

船から撮影された津波の映像を見ると、海岸沿いの斜面から大量の土砂が流れ落ちる「地滑り」とみられる様子が映っていました。この「地滑り」が、海底でも起きていたと考えられるのです。海底での地滑りが大規模なものになると、津波の発生につながることがあります。現地の海底調査では、地滑りの痕跡と見られる場所が複数見つかっています。

東北大学 今村文彦教授
「地滑りが宮古沖で起きていた可能性が出てきたわけですね。そういう面で、(スラウェシ島の津波は)宮古での謎を解く大きなきっかけになりました。」

今村教授は、大きな揺れを伴わない「ゆっくりとしたプレートの動き」と「海底地滑り」の2つの現象が引き起こす津波を「サイレント津波」と呼んでいます。海底から直接の証拠は見つかっていませんが、東日本大震災でもサイレント津波が起きたと考えれば、宮古市の津波を説明できるのではないかと、今村教授らのグループはシミュレーションを重ねました。

その結果、震源域から発生する津波に加えて、その北側で「サイレント津波」が発生すると、2つが影響し合って岩手県北部に押し寄せ、特に高い津波が宮古市付近に集中することが確かめられたのです。

東北大学 今村文彦教授
「揺れが小さいから安心だと思ってしまうと実はとんでもない津波が来る。非常に盲点になるわけですね。このような“サイレント津波”に対してしっかり我々は認識をして対応しなければいけないと思っています。」

こうした“サイレント津波”にどう対応するか。これまで津波の予測は、地震の揺れをもとに行われてきましたが、津波を「直接」捉えて予測する動きが進んでいます。

その1つが、国が海底で整備を進めている「水圧計」で、津波が通過するとき、水圧の変化で津波の高さなどを観測できます。この水圧計は、震災のあと、東北の沖合など広い範囲に整備されました。陸に来る前に津波を観測できるため、いち早く警戒を呼びかけることができます。水圧計がない九州や四国の沖合などには、GPSで津波を観測できる機械が設置されていて、こうした津波に備えています。

では、私たちは、この“サイレント津波”にどう備えればいいのでしょうか。東北大学・今村文彦教授は、「揺れの長さ」に注意が必要だと指摘します。東日本大震災や明治三陸津波では、「揺れは1分以上にわたって長く」続きました。小さい揺れでも、揺れが長い場合は避難を考えてほしいといいます。また、すぐに避難できるよう自宅周辺の安全な場所を予め確認しておくことも有効だといいます。備えが難しい“サイレント津波”ですが、まずは、「揺れが小さくても津波が起きることがある」と知り、いざという時の行動につなげていくことが重要だといえます。

取材:内山裕幾記者(社会部)

Page Top