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2020年3月8日(日)

震災対応“生の声”をどう伝える? 災害エスノグラフィー

宮城県では、震災対応の経験がない若手の県職員が3分の1に上るなど、経験をどう伝えていくかが大きな課題となっています。そうした中で、取り組み始めたのが「災害エスノグラフィー」です。「エスノグラフィー」とは、日本語では民族誌と訳され、体験したことをありのままに語ってもらい、証言を集めて記録する調査手法です。この手法を使って災害時の行動をインタビュー形式で記録しようというのが「災害エスノグラフィー」です。
どのように活用されているのか、調査が行われている現場を取材しました。

震災対応 どう伝えるか “災害エスノグラフィー”

調査は去年8月から始まり、1度に複数の職員が参加し、2時間ほどかけて撮影が行われます。

これまでに200人以上が参加していて、震災から10年を迎える来年までに、のべ1200人から聞き取りを行う計画です。
扱うテーマは「仮設住宅の整備」、「救援物資の調達」など80項目に上ります。発災直後、予期せぬ対応に迫られた戸惑いや悩みなどが、語られました。

参加者
「避難所自体がどういうものか。実際、避難所に行ったところで何をやるのか。行く前まで全く見当もつかない、想像もつかない。そういった世界。」

「住民の方は“役所の人が動いている”というだけでも気持ちが違ってくる。何かあれば話が必ず来るから、(話を)もらったら“分からない”とか“知りません”とか“できません”と言うなと。」

この取り組みをはじめたのは、宮城県の震災復興推進課です。

震災対応を知らない職員が増える中、若手の職員から、経験者の生の声を聞きたいという要望が寄せられたのがきっかけでした。

県では、これまでも、震災を踏まえた「対応マニュアル」が作られてきました。
そこには、統計データを交えて客観的な情報が記載されているものの、マニュアルだけではイメージしづらいという声が上がっていました。

今回の「エスノグラフィー」では、マニュアルには記載されていない現場の生の証言を集め、判断に至った経緯やその時の感情なども伝えたいと考えています。

震災復興・企画部 後藤康宏部長
「言葉につまる人、涙を流す人、一方では思い出したくない、語りたくないという表現をする人もいる。感情の表現を映像とか言葉の中で残すことによって、よりリアリティーを持って、当時の様子が伝わる。」

聞き取りでは、マニュアルにも無いような対応を迫られたという人もいました。

当時、農地の整備などを担当していて、遺体安置所に派遣された職員です。
その時の経験を、8年以上たって初めて語りました。

県職員
「(警察が遺体を)拭いて、バケツで泥だらけの(布を)洗う。バケツが泥だらけになったら、外に出て水を捨てて、自衛隊の給水車、そこから水をくんで、また持って行くという作業をしていました。」

遺体の身元確認の手伝いをした職員は、マニュアルがない中、遺族から特徴をできるだけ細かく聞き取り、手探りで対応したといいます。

県職員
「対応が大変だった。気を遣いながらというところがあった。遺体の数が多いので『ほくろの位置』『傷』『ひげ』『そばかす』『いぼ』『あざ』。あとは『頭髪 長い短い』。特定できるように細かくできるだけ聞く。」

傍聴者した職員からは、被災地の過酷さや責任の重さを改めて感じたという声が相次ぎました。

傍聴者
「自分を重ねて、自分だったらこういう時どうするのかなと。」

「精神的に参った人もいると聞いた状態で、自分が行くことが決まっている状況で、不安とかなかったのかなと思いまして。」

エスノグラフィーでの証言を聞いて、その後の災害対応に役立てようとしている人もいます。

県で仮設住宅の整備を担当している小野里啓さんです。
震災当時は別の部署にいました。

去年、宮城県に大きな被害をもたらした台風19号で、仮設住宅の建設を初めて指揮しました。
その際、あらかじめ国のマニュアルなどで勉強し、震災で課題に挙がっていた寒さやバリアフリーの対策を行いました。
しかし、エスノグラフィーの調査で話を聞き、マニュアルだけの対応ではいけないと痛感したといいます。

“お風呂の設備の使い方が分からない”、“虫が出てきた”など、建設後に入居者からの細かい要望が相次いだことを知りました。

このため、現場の担当者に対し、入居者の声をより丁寧に聞くよう指示したといいます。

住宅課 小野里啓技術補佐
「その時の生の声というか、“そんなこともあったんだ”とか“そんなところが苦労したんだな”という意外と知らない細かなところが分かった点もある。」

今回「災害エスノグラフィー」を取り入れた宮城県は、調査を受けた職員の同意を得て、インタビューの模様をホームページなどで公開することを検討しています。

宮城県 村井嘉浩知事
「宮城で起こったこと、宮城の職員が経験したことというのは、全国どこでも起こりうることで、(災害エスノグラフィーは)非常に役に立つ情報。これを宮城県の宝ということではなく、全国の宝、全世界の宝として、発信して活用してもらえるようにすることは非常に重要。」

“貴重な証言” 災害エスノグラフィーを行う意義とは

マニュアルには記されない、人の判断のいきさつや感情なども聞き取るのが「災害エスノグラフィー」です。
経験者の語り口や表情も含めて映像で記録することで、より実践的な検証を進め、次の災害への備えにつなげることができるのです。

専門家は、次のように話しています。

東北大学 災害科学国際研究所 佐藤翔輔准教授
「なぜそういうことをやることに至ったか、試行錯誤の経過だったり、その背景にあるもの、原因・要因といったプロセスの部分。そういった部分は、実は自由に、体験・経験した職員に語ってもらうことで、やっと出てくる情報。今回の得られた情報は、大変重要な貴重な情報になる。」

見えてきた課題は?

個人のレベルではすでに効果が出てきています。
しかし大規模な災害となると、個人では解決できない問題も多くあります。

たとえば県と国、県と市町村などが連携して対応に当たるときに、どのような形が望ましいのか。
また、県の内部でも、部署ごとの役割分担が今のままで適切なのか。
こうした観点で、絶えず見直しを考えなければなりません。
これらの問題に対応するには、エスノグラフィーで得た教訓を、ルールの改正など、組織をあげた議論にまで発展させる必要があると思います。

宮城県では再来年度の後半をめどに、証言を冊子にまとめます。
そして、その冊子の中に、QRコードをつけて、インタビューの映像を見られるようにすることにしています。

(取材:家喜誠也・NHK仙台)

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