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2020年3月31日(火)

児童虐待 逃れた先が“つらい”

虐待の相談件数がこの20年で13倍に増加するなか、これまで見えなかった「ひずみ」が生じているのが、児童相談所に付設された「一時保護所」です。



一時保護所には、子どもが虐待などを理由に保護されたあと「一時的に生活してもらう」役割と、親元に戻すか、児童養護施設などに預けるかを決めるため「子どもの様子を観察」する役割があります。
ところがいま一部の一時保護所の子どもたちから、こんな声が上がっています。

「家がきつくて来たはずなのに、ここがきつすぎる。」

「刑務所みたい。」

子どもを守るべき場所で何が起きているのか取材しました。

ようやく安心できると思ったら…

15歳のとき、都内の一時保護所に保護された美穂さん(仮名・25)。幼い頃より父親から、殴る蹴る、たばこの火を押しつけられるなどの暴力を受け続けてきました。あるとき、友だちの親に相談したことをきっかけに児童相談所に保護され、一時保護所で過ごすことになりました。

一時保護所は、虐待する親が取り戻しに来るのを防ぐため、ほとんどの施設で住所すら公開されておらず、外部から厳重に守られています。
ようやく安心して過ごせると思っていた美穂さん。しかし、待っていたのは、思いもよらない厳しいルールの数々でした。私語は厳禁。携帯電話や服、下着は没収。

食事のときも会話は禁止。常に職員に監視され、周りと目を合わせることも許されない雰囲気だったといいます。

美穂さん(仮名)
「刑務所みたいな雰囲気。どんどん、おかしいなって。保護されたのに、これって保護じゃなくない?って…。」

なかでも忘れられないのが、夜、不安で眠れず、職員室を訪れたときのことです。
「話を聞いてくれませんか」と言ったところ、職員に「寝る時間は寝てないとだめでしょう」と激怒され、反省文を書かされることになりました。
美穂さんは5日後、みずから希望して自宅に戻りました。成人して家を出るまで続いた虐待。1人で耐えるしかなく、手を血が出るまでかきむしるなど、自傷行為を繰り返したと言います。

美穂さん(仮名)
「逃げ場がないですね…。また暴力を受けても、一時保護所に頼りたいというふうには、とても思えなかったです。」

複数の施設で“不合理なルール”

こうした実態が複数の施設で見られることが、外部の調査によってわかってきました。昨年度、東京都の第三者委員会が都内7か所の一時保護所を調査しました。すると多くの施設に「壁に向かって食事」「シャンプーの回数を制限」など、不合理なルールや決まりがあったというのです。

東京都 第三者委員会 岡崎槙子弁護士
「今までブラックボックスだった一時保護所に初めて入って、いくらなんでもこれは人権感覚に欠けていると思いました。」

背景に虐待急増と定員超過

こうした実態の背景として第三者委員会が指摘したのが、虐待の急増に伴う「職員の過重労働」です。

深刻な事件が相次ぐなか、国は、虐待が疑われる子どもの“躊躇(ちゅうちょ)なき保護”を推し進めています。その結果、子どもが一時保護される件数は、6年間で年3万件から4万1,000件あまりに増加し、都市部の一時保護所を中心に定員超過が発生しています。

一時保護所の現役職員が話を聞かせてくれました。「一時保護所は、虐待だけでなく暴力や性的な問題行動など、さまざまな課題を抱える子どもが入所するため、一定のルールは必要だ」と言います。しかし近年、保護される子どもの数が定員の2倍以上になることもありますが、対応する職員の数は変わっていません。業務量や子どもどうしのトラブルが増えるなか、ルールを増やして縛らざるを得ないと言います。

職員
「トラブルが一回起きてしまうと、職員が1人とか2人とか、トラブルの対応に追われることになる。だから、もう一律に『ダメですよ』としてしまう。」

傷ついた子どもを助けたいと、この仕事を始めた職員。日々、葛藤を抱えています。

職員
「自分のことばが鋭くなっていったり、管理的になっていったり…。『自分、何のためにこの仕事してるんだっけ』って。」

子どもたちの環境を改善するには

こうした現状を改善するには、どうすればいいのでしょうか。

日本社会事業大学の宮島清教授は、「“躊躇(ちゅうちょ)なき保護”を行う以上、その“受け皿”である一時保護所の体制を拡充することが急務だ」と指摘しています。国は一時保護所の拡充のため予算を増額しており、東京では2020年度から新たに3つの区が一時保護所を開設します。その一つ、4月に開設された江戸川区の一時保護所を取材しました。

この一時保護所では、職員が余裕をもって対応できるよう、子どもの定員と同じ35人の職員を配置しました。これは、国の基準のおよそ4倍にあたります。職員たちはルールについて1年近く検討を重ね、「自分や他人を傷つけない」「無断で外に出ない」「個人情報を話さない」など、最小限の4つに絞りました。そうしたルールを子どもたちに納得してもらえるよう、説明のしかたについても職員どうしでシミュレーションを行うなどして知恵を出し合っています。

一方、既存の一時保護所の職員も、傷ついた子どもたちに向き合うスキルを磨こうとしています。職員などが仕事終わりに有志で集まっている「いちほの会」では、子どもへの対応でうまくいったと思う経験を共有しています。ある職員が話したのは、子どもから毎日「死ね」と言われ続けたときのことです。

職員
「毎回、『私は、君のこと大好きだよ』と返すようにしました。毎日そう言ってくるってことは、私に関わってほしいのかなと思って。するとピタッとそれが止まって、一番自分にくっついてくる子になった」

傷ついた子どもが希望を持てる場所に

新型コロナウイルスの感染拡大で外出の自粛が呼びかけられるなか、ストレスなどによって児童虐待はさらに増える恐れがあると指摘されています。取材の過程で印象に残ったのが、いちほの会の代表・藤田琴子さんのことばです。

いちほの会 代表 藤田琴子さん
「子どもたちが、自分のことを受け止めてくれる大人に初めて出会う場所に、一時保護所がなったらうれしい。」

傷ついた子どもがさらに傷つくことがないように、一時保護所の実態にもっと光が当たり、子どもと職員両方の環境が改善してほしいと感じました。

取材:齊藤耕平ディレクター

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